第47話 君たちと一緒なら、きっと大丈夫
「はぁーーい、それじゃーあ、朝のホームルームは、以上でーーす。それじゃあみんなーっ、今日も一日、がんばりましょうねーーーっ」
「「「「「はーーーーい」」」」」
「あのレミア先生、ちょっといいですか?」
教室を出ようとするレミア先生に、ちょっと相談。
「はーいカルアくんっ、どうしましたぁ?」
うっ、単独ではまだこの衝撃は・・・ でもまだやれる! がんばれるっ!
「えー実はですね、友達と冒険者登録してパーティを組みたくって、それで冒険者クラスの先生に相談したいんです」
「あーーー、なるほどぉ。冒険者の相談だったらクーラちゃんかなぁ。うん、わかりましたよぉ。じゃあ、冒険者クラスの指導員のクーラ先生に頼んでみますからぁ、ちょぉっと待っててねー。ふふっ、お友達とパーティかぁ・・・先生も学生の頃にやったなぁ。カルアくんたちもがぁんばってねーー」
「はい、ありがとうございます」
とりあえずこれで大丈夫かな?
「どうだって?」
「クーラ先生?に頼んでくれるって言ってたよ。アーシュはクーラ先生って知ってる?」
「クーラ先生・・・、ああ確か去年入ってきた先生ね。冒険者クラスの指導員で、ここに来る前は冒険者だったって聞いたわ。噂だとちょっと有名なパーティに所属していたとか」
「うん、その噂だったら僕も聞いたことがあるよ。確かリーダーの引退で解散したパーティにいたとか何とか」
「ああ。噂だからどこまで本当か分からないけどな」
「冒険者クラスの指導員が出来るくらいだから、能力は間違いないんじゃない? まあ会ってみれば分かるわよ」
「そうだね。いつ頃になるんだろう。今日もう返事があったりするのかなあ」
午前中の授業は特に何事もなく終了。
お昼ご飯もピノさんのフォーメーションのおかげで無事食べる事ができたし。
そしていよいよ午後の実技の時間。魔法の時間!
今日選ぶのももちろん土魔法。今日は何をやるのかな。
「今日は次のステップに進みます。これから説明しますので、皆さんしっかりと聞いて下さい。そのあと、もう石の『移動』に慣れたという人はそのまま次に進み、まだ出来ていない人は、そちらが出来るようになってから次に進んでもらいます」
さあ、次は何かな?
「という事で、次は土の『移動』です。石ではひとつだけ移動しましたが、土は細かい粒をまとめて移動する事になります。ですので石の時よりも、イメージとその注ぎ方がより重要になります。一度手のひらで
なるほど、今日は土だね。だけどやっぱり簡単に出来ちゃうんだろうなあ・・・ああ、やっぱり出来た。だってこれって、ミッチェルさんの工房でガラスの錬成をした時のあれと同じだから。
でも調子に乗って先に進んじゃうと・・・
はは、やっぱり睨んでる。
「カルア、分かってるわよね?」
「もちろんだよアーシュ。ちゃんとペースを合わせるから」
考えてみれば、これって僕にもすごくメリットのある話。
だって、アーシュがペースメーカーになってくれるんだから。
これならみんなに「またやらかしたのか!」とか言われずにすむよ。
もしアーシュがちょっと行き詰まったら、アドバイスとかしてペースを落とさないように出来るかもしれないしね。うん、我ながら完璧な作戦じゃないか。
だからアーシュにも伝えとかなきゃ。
「アーシュ、何か困った事とかあったら言ってね。僕で良ければいつでも相談にのるから」
「な、ななななな、何よいきなり! ま・・・まあ、もし何かあったら、それでもし他に頼れる人がいなかったら・・・その時は、もしかしてひょっとしたら・・・カルアにお願いすることも、ある、かも・・しれない・・・けど・・・」
「うん、遠慮は要らないからねアーシュ。いつでも待ってるよ」
これで大丈夫。
ヒトツメギルドの某受付カウンター。
ピキキーーーン☆
「あれ? 今チームの方の通信具から何か聞こえたような気がしたけど・・・気のせいだったのかしら?」
その奥の某ギルドマスター執務室。
「ギルマス、ギルド本部経由で王立学校から緊急要請が」
「うむ。パルム君、至急胃薬の準備だ」
さて、じゃあ僕はどうしようかな。
今日のステップは土を少しずつ増やしながらの移動。その範囲内で出来る事か・・・
ちなみにアーシュはどんな感じかな?
「むぅ、どうしてもちょっと
この調子なら、もう少し慣れれば出来るようになりそうかな。
ノルトは・・・
ははは、何あれ? 土が山ごと移動しちゃってるよ。さすが農作業のプロ。
あれ? 途中で山の形が変わってる? あれって崩れてるとかじゃないよね、自分で変えてるっぽい。へえ、あんな事も出来るんだ。どうやってるんだろう・・・
「ノルトー、それってもしかして自分で形を変えてるの?」
「ん? ああカルアか。そうだよ、よく気づいたね。なんだか動かすだけってのにちょっと飽きちゃってさ」
「あはは、農園のプロにはちょっと簡単すぎるか。それでこれってどうやってるの?」
「んーー、土全体の形に意識を集中して、その形そのものを操作するイメージ、って言うのかな。そうすると容器に入った水みたいに、土がイメージの形になってくれるから、粒のひとつひとつにはあまり意識はしないんだ」
「へえーー、それってなんだか錬成のやり方そっくりだね。ノルトだったら錬成とかも簡単に覚えちゃいそう。ミッチェルさんの所に行ったら『ノルデシ』とか呼ばれたりして」
「なんだいそれ? しかし、錬成もこんな感じなのか・・・。僕がもし錬成が出来るようになったら器具とかも色々と・・・。ありがとうカルア君! いい事を聞かせてもらったよ。今度錬成の授業が始まったらさ、錬成について色々と教えてよ」
「もちろん。僕の方こそいい事を教えてもらったよ。よーし、さっそく試してみようっと」
ノルトが言ったのはつまり、土の塊を錬成で融解したドロドロだと思えばいいって事だ。
ならば錬成と同じ、まずは基本の四角いレンガ型から。
・・・おおー、出来たぁ。
やっぱりそうだ。じゃあ次は丸くして、三角にして、それから・・・フォレストブル!
・・・って、何だこれ? よーく見れば確かにブルっぽいけど・・・
土だけだと複雑な形が分かり難いから、もっと単純な形にしよう。じゃあ何に・・・あ、人形とかいいんじゃない?
・・・よし出来た。うん、これだったらちゃんと人形に見えるね。じゃあこの人形を操作するイメージ・・・パペットとか人形劇のイメージかな・・・さあ、うーごーけー。
はい、手を振ってーー、バイバーイ。
じゃあ前へ進め。大きく手を振りながら足を出してー、右、左、右、左。
あはははは、人形の行進、なんだか可愛いな。
「ねえカルア、何だか楽しそうね」
「あ・・・」
「ねえカルア、あんた今、何をしてるのかしら?」
「ええっと・・・土を動かしてるよ?」
「ええ、あたしにもそう見えるわ。でもそれ、先生の言ってる『動かす』とちょっと違わない?」
「そう言われてみると、ちょっとだけ違う・・・かな?」
「全然違うわよーーーっ!!」
「ええっと、アーシュ?」
「あーーーもうっ! カルアってば全然待っててくれないじゃない! それに何か変な方にどんどんずれて行くし。 もうやめやめ! こうなったら方針変更よ!」
あ、このアーシュの笑顔、また何か思いついたな。
「ねえカルア、さっきあたしの相談にのってくれるって、そう言ったわよね? いい? あたしが一瞬で追いつくから、あんたが知ってること全部あたしに教えなさい。それだったらあんたももう待たなくてすむし。どう? 悪い話じゃないでしょ?」
えっと、確かに相談にのるって言ったけど。
それに、確かに待たなくてもいいのは嬉しいけど。
あれー、完璧なはずのペースメーカー作戦がいきなり瓦解したよ?
「さあ、早速始めるわよ。それじゃあカルア、一体どうやったら土を
「ええっと、ちなみにアーシュはどうやって移動させてるの?」
「それはもちろん、石と同じように土のひと粒ひと粒すべてに『移動』の魔力を注いでるわよ」
ええーーっ、あの量の土の粒全部に!?
そんな事、とても僕には出来ないよ! やっぱりアーシュって・・・天才・・・
「全部の粒を個別に操作するのはたぶん無理だと思うよ。少しだったらいいけど、もっと凄い量の土を一気に動かす場合とか、絶対に把握しきれなくなるから」
「だったらどうやればいいのよ」
「土の粒はなんとなく意識するくらいでいいから、全体をひとつの塊として認識するんだよ。さっき僕がやってたのもそれ。全体の形をイメージして、その形を容器みたいに意識するんだ。そうすれば、土の塊はその形として操作できるはずだから」
「なるほど・・・そうか! うん、やってみる!」
そして1分後。
「なあんだ、こんな簡単な事だったのねーっ!」
あっさり土人形を動かせるようになったアーシュ。ははは、うそ・・・
王都内の某魔道具店
キュピーーーン☆
「あん? 何だい今の音は? なんだか不吉な感じのする音だったね。まさかアーシュに何か・・・ってそんな訳は無いか。今頃あの子は学校の授業中だからね。まあしかしカルアと一緒ってのが不安材料ではあるけどさ」
店主はふと目を細めてひとつ息をつく。
「まあただ、なんたってあの子は素直だからねえ。カルアの天然を真に受けて第二のカルアに・・・ははっ、アーシュに限ってそんな事になる訳ないか。あり得ないような事心配するなんざ、あたしも衰えたって事なのかねえ」
僕とアーシュが土人形を動かしていると、そこにノルトが。
「なになに? ずいぶん楽しそうなことしてるじゃない。これは・・・ああ、さっきカルアくんが思いついたのってこれかー。ずいぶん面白いこと思いついたんだね。じゃあちょっと僕も参加させてね」
そう言って一瞬で土人形を作り上げるノルト。さっすが
「ええっと、動かすのはこんな感じかな、と・・・。んーちょっとクセがあるっていうか、イメージを固めるのが難しいな。君たちどんなイメージで動かしてるの?」
「僕はパペットとか操り人形みたいなイメージかな。アーシュは?」
「あたしも一緒よ。っていうか他にないでしょ、これ?」
「ははは、そうかも」
「なるほどね。人間じゃなくって人形だった訳か。だったらこんな感じで・・・どうだ! お、これなら大丈夫そうだ」
「おおー。さすがノルト、上手」
「ふふん、なら3人で勝負しましょ。それぞれの土人形を操作して剣術勝負よ! ふたりとも人形に剣のイメージを追加して。いい? 最初は私とカルアからで、負け抜け戦だからね!!」
やっぱりアーシュの発想って面白い。
それに何ていうか、ちょっとしたきっかけで突然走り出す感じ?
「準備はいいわね? じゃあ行くわよカルア!」
勇ましい掛け声とともに、アーシュの土人形が剣を持って飛び掛って来る。
「おっと」
それをさっと左に避けてやり過ごすと・・・
「うあっとっと、とまれー」
「今っ」
たたらを踏んだアーシュの人形、すかさずその後ろから上段にバシッと。
「あーあ、やられちゃった。次は負けないんだから。ノルト勝ちなさい、あたしの敵討ちよ」
あれ? 負け抜けって、気持ち的にはそういうシステム?
なら、もし次に僕がノルトに負けたら、アーシュが僕の敵討ちをするって事なのかな?
「やっ!」
ま、勝っちゃったんだけど。
「ちょっとカルア、あんた強すぎない?」
「ホントだよ。この上から見下ろすような感じって、なんだか慣れなくてやりにくいのに」
ああ、そうか。
「ええっと、多分時空間魔法の『
そう、この視点は
人形になった自分を自分で操作するような、あの視点。
あ、だったら逆に人形の視点を追加してみようかな。
「えー、なによそれ。ズルいじゃない」
「いやそんな事言われても。これって時空間魔法の訓練としてやってただけだよ? だいたい土人形でバトルなんて想像もしてなかったし」
「それはそうだけど・・・でもやっぱりズルい!!」
「んー、でもアーシュだったらすぐに僕よりも強くなるんじゃない? 土人形も一瞬で作れるようになっちゃったし、絶対すごい才能あるよね」
「そ、そうかしら? そうストレートに言われると、悪い気はしないけど・・・」
「ほんとに凄いと思うよ。ね、ノルトもそう思うでしょ?」
「うん。僕は土の塊を動かすまで結構苦労したからね。こんな簡単に出来るようになるなんて、僕もアーシュは凄いと思う」
「もっ、もう! ふたりともそんな調子いい事ばっかり言って。そんなんじゃ誤魔化されないんだからね。さ、さあ、続きをやるわよ! カルアなんてあっという間に追い抜いてやるんだから!!」
うん。アーシュ、一瞬。
そうしてしばらく繰り返し勝負して・・・
アーシュは宣言通りどんどん強くなってる。
人形視点は楽しいけど、その追い上げにだんだん余裕が無くなってきた。
そろそろ負けちゃうかも。
「ええっと、君たちは一体何をしてるのかな?」
あ、指導員の先生が僕たちのところに周ってきたのか。
「えっと・・・、土の、『移動』?」
「『移動』よね」
「うん、『移動』だね」
「まあ、確かに『移動』しているようだけど・・・、これは土で人形を作って動かしているのか。しかしこの動き、かなり正確だな。しかも縦方向の動きも入っている?」
あれ? 注意されるのかと思ったら、何か考え込んでる?
「うーむ、土で人形を作ってそれを操作するなど、土魔法の使用事例として聞いた事がない。使用しているのは確かに土魔法だが・・・。これは指示のあった『報告義務案件』に該当するな」
「あの?」
「ああすまない。ちょっと面白い使い方をしていたのが興味深くてね。ああ、せっかくだから『圧縮』も試してみたらどうかな? きっとこの使い方と相性がいいと思うよ」
「なるほど。『圧縮』だったら僕が使えますから、ふたりに教えますよ」
「ふむ、君は確かノルト君だったね。そうか、君は『
そしてノルト先生の『圧縮』講座。
「『圧縮』はそんなに難しくないよ。ぎゅっと固めるイメージだから、すごく分かりやすいよね。土の粒全部が隙間なく詰まった感じ。塊の中心部に土を集めるような感じでイメージしてみて」
ぎゅーーっと。
あ本当だ、もう出来たみたい。
アーシュも出来てるね。
「ふーん、本当に簡単ね」
「まあね。『移動』さえ出来れば、あとは簡単だよ。多分君たちならもう『緩解』も使えると思うよ」
圧縮した土人形は・・・まったく動かなかった。カチカチ君。
それで色々考えて、関節は圧縮しない事にしたら無事解決。
気付いてみれば、まあ当たり前の事だよね。
そして、もうひとつ気付いちゃった事があるんだけど・・・
これは家に帰ってから。
ギルド本部の某技術室。
キュピーーン☆
「お、通信具に仕込んだ想定外センサーが働いたみたいだね。まあそうは言ってもまだ実証実験もできてなければ蓄積データも無い状況だから、精度と信頼性がまったく分からないんだけどね。とりあえずカルア君には、何か変わったことが無かったか、明日にでも訊いてみようか」
校長室。
「という事です」
「作成した土人形の操作による戦闘・・・汎用人型兵士の誕生か。間違いなく軍事的脅威レベル、だな」
「やはり・・・。それで、
ラーバルは、どこか遠くを見るような目でふと呟いた。
「旅に・・・出たいな・・・」
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