第48話 モリスさんにすごく叱られました

結局今日はクーラ先生からの連絡は無かった。

今忙しいのかな? いつ頃になるんだろう?

明日レミア先生に訊いてみようかな。でも急がせちゃうのも悪いし・・・


なんて事を考えながらの家路、そして部屋に到着っと。

「ただいまーー」


・・・そうだよね。ギルドは今が一番忙しい時間帯。そんな毎日来れるわけがない。

うん、わかってた。だから昨日カレヱライスを多めに作ってくれてたんだしね。

わかってたけど・・・



よし、晩御飯を食べよう。

ご飯を炊くのはちょっと自信がないから、今日はパン。

パンは昨日食べなかったから、まだちょっと残ってたはず・・・あったあった。

カレーは鍋の中でアツアツ。昨日作ったフタを開けて・・・

んー、この量だとあと1日分くらいは残ってる感じかな。

じゃあお皿によそって・・・

「いただきますピノさん」


昨日よりちょっと味気ないのは、味が落ちたからでも香りが飛んだからでもなく。

ちょっと前まで、ずっとこうだったんだけどなあ。いつも家のテーブルでひとりで・・・


あっそうだ! 昼間の思いつき、あれ転移して家でやろう。ここのテーブル小さいし。

よし、そうと決まれば、晩御飯は急いで食べちゃって・・・と。

お皿を洗って、鍋に魔力を補充したら・・・「転移」っ!!




ここで最初にやらなきゃいけない事、それは帰ったのをご近所の奥様に伝えておく事。

じゃないと、泥棒と間違えて突入して来るから。

そのあと、すっごく怒られるから。

ありがたいけど。


「何だいカルア、もう家が恋しくなったのかい。それともあたしらが恋しくなったのかい?」

「どっちも違いますよ! ちょっと錬成の作業をやりに来ただけです。あっちは狭いから」

「はっはっはっ。まあ元気でやってるようで安心したよ。ピノちゃんにはもう来た事を伝えたのかい?」


「いえ、ギルドはこの時間忙しいし、こっちもそんなにかからずに終わると思うから」

「そうかい? まああんたがそれで良いって言うのならいいんだけどさ。でもしばらく会ってないんだろう?」

「昨日あっちで会いましたよ? 少し前にプレゼントした転移の魔道具を使って、部屋に来てくれたんです。突然だったからちょっとビックリしたけど」


「・・・」

「え? あれ? 何か?」

「ああいや、ピノちゃんもやるもんだって感心してたのさ。そうかそうか、まあそれだったら余計なお節介だったかね。でもカルア、あんたも一生懸命勉強を頑張って、ピノちゃんに逃げられないようにいい男になるんだよ。あんな良い娘、きっともうこの先一生出会えないだろうからさ」

「はい・・・がんばります」

「ああ、頑張んな。・・・さてと、じゃあカルア、帰る前にはちゃんと戸締まりと火の始末に気をつけるんだよ」



大丈夫です。僕もわかってるから・・・




家に入ると、中は王都に行く前とまったく変わってない。

ま、当たり前か。まだ3日しか経ってないしね。

「さてと、じゃあやってみようかな」

今日気付いた、試してみたい事。それは・・・


テーブルの上に魔石を両手で一掴み分くらいジャラっと出して、

「融解」

からの

「凝固」

うん、綺麗な四角キューブが出来た。そしてこれを、

「圧縮」


そう、やってみたかったのは魔石の圧縮。

だって「圧縮」は土魔法だから。だから錬成でも使えるんじゃないかなって?


パキッ

ん?

バキバキバキ・・・


あらら、粉々・・・

うーん、だめかあ。圧縮、できると思ったんだけどなあ。

やっぱり土みたいにさらさらに・・・ん? 今これってそうなってるよ?

もしかして、ここからならいける?

「圧縮」


魔石の粉がギューーーっと。そして、

サラサラサラ・・・

ダメでしたーー-っ!!

っていうか、これさっきよりも粒が細かくなってない?

なんていうか、粉・・・?


とりあえず元に戻そうか。

「融解」

うん、この状態からでもちゃんとドロドロにはなるね。まあそれはそうか。ミッチェル氏曰く、「どれだけ細かくしても魔石は魔石」だもんね。


とりあえず今日の実験はここまでかな。

錬成での「圧縮」は無理そうかな。まあそんな簡単だったら、とっくに誰かがやってるよね。じゃあこの魔石はこのまま固めちゃって、あとは片付けして部屋に帰ろうかな。

「よし、じゃあ『凝・・・あっ!」


突然気付いた。そうだよ、もうひとつ試して無い事あるじゃない。

この状態からの・・・

「圧縮」


ドロドロが・・・、ドロドロが、小さくなった!!

「凝固」


さっきよりも小さな魔石の四角キューブが出来上がった。

これはもしかして・・・成功?

その四角キューブを持ち上げると、大きさの割にズッシリと重い。

これってやっぱり・・・


「圧縮、できた・・・」





キュピーーーン☆

キュピキュピキュピキュピキュピーーーン☆☆☆

「な、なんだいこのかつて無いくらいの激しい反応は!?」

通信具からは通常のセンサー音、そして途轍もなく強烈なモリス自身のセンサー反応。

「まずい、これは非常にまずいことが起きている気がする。カルア君は・・・カルア君は・・・何処どこっ!?」


カルアの部屋を中心に王都内を探知するが、カルアは見つからない。

「あと他には・・・ヒトツメか!」

遠見の範囲をギルド、そしてダンジョンに。それから・・・

「見つけた! そうかあっちの家か! よし、転移っ!!」





ほーー、魔石、こんなに小さくなっちゃったよ。

元の大きさの・・・半分の半分、くらいかな? どうだろう?

って、この反応?

「カーールーーアーーくーーーーーーんっ!!」


やっぱり。

突然現れるのは大体モリスさん。

今のところは。


「こんばんはモリスさん。よくここにいるのが分かりましたね」

「いやあ、探したよー。王都中探してもいないからさ、もしかしたらってこっちを探してみたら君家に帰ってるじゃあないか。なんだい、二日で卒業してきたのかい? だったらこれ、最速記録じゃあないかな。ちょっと校長に訊いてみようか・・・ってそうじゃないよっ!!」


ええっと・・・久しぶりのハイテンション?


「さっき僕の想定外センサーがとんでもない反応をしてさ。それはもう、世界の終焉が訪れたのかっていうくらいの。それでその発信源であるところのカルア君、君を探して大慌てで跳んできたって訳さ。さあカルア君、怒らないからこの僕に正直に話してごらん。君はさっき、一体なにをやったんだい?」


何って・・・ほんのちょっとした実験、それもただの錬成の実験。


「そんな大したことはしてないですよ? 魔石を『圧縮』しただけですから」



あれ?

またその顔ですか、モリスさん?




「カルア君・・・きみが答えに『だけ』ってつける時ってさ、大概なにかやっちゃってる時なんだけど、それって自覚あるかい?」

「ええっと・・・それって何の話、でしょう?」

「はあぁぁ・・・自覚、未だ無しか。まあそれはいいや、もう今更だしね。えっとさ、カルア君。とりあえず『魔石の圧縮』に『だけ』って付けるのはやめとこうか。多分それ、世界で初めての試みだから」


「えっと・・・? ああそうか。魔石を錬成できるようになったのって、まだ最近の事だから・・・。うん、確かにそうかもしれないですね」

「またそうやって呑気のんきな事を・・・。まったくもう! まだ未知の部分が多い最新の素材に対する最先端の実験、それをこんな一般住宅の台所でやるなんて」


「えっと、それって良くない事だったんですか?」

「ば・・・するかもしれないんだよ?」

「えっとすみません、よく聞こえなかったんですけど?」

「場合によっては、この付近一帯が爆発で消し飛んじゃう事だって考えられるんだよ!!」

「え? 爆発・・・って・・・。え、えーーーーーーっ!?」


うそっ、これって爆発するかもしれない危険物なの!?



「そ、そんな事って、あるんですか?」

「もちろんあくまで可能性の話、だけどね」


いや・・・だとしても・・・爆発って?


ひとつ息をつき、モリスさんが話し始める。

「いいかいカルア君、「圧縮」っていうのはさ、その物をもとの大きさよりもギュッと小さくするだろう?」


うん、それはそう、というかそのまんま、だよね。


「土みたいにスカスカの状態のものをビッチリ詰める、これは別にどうって事はないよね。だって空いてる隙間に詰め込むだけだから。じゃあさ、隙間がないものをさらに圧縮したら、一体どうなると思う?」


「ええっと・・・」


「うん、実際どうなるかは分かっていないんだ。もしかしたら将来もっといろんな研究が進めば、分かるのかもしれないけど、今はまだそれがどういう状態なのか誰にも分からない。ただひとつ、可能性として考えられるのは、その圧縮された状態というのはその物にとって非常に不自然というか不安定な状態で、元の状態に戻ろうとする力が働くんじゃないか、ということ。そしてその力が一気に働いた時、まるで開放されたバネのように、すごく大きな力になるかもしれないということ。そう、まるで『爆発』するように」


「・・・」


「分かったかい? 君にとってはちょっとした好奇心だっただけなのに、それがとんでもない災害になる可能性もある、って事が」

「はい・・・」

「まあ、理解したのならばそれでいいさ。それさえ理解していれば、好奇心に従って突き進むのは別にいけない事じゃない。むしろどんどんやるべきだと僕は思うよ」


「え?」

「ただね、ちゃんとした準備ってのが必要なんだ。頑丈な設備とか結界とかさ。それに自分自身に危険が及ばないような工夫だって必要だ」


そうか・・・

一番危険な場所にいるのはその実験をしている人、つまり僕。


「前に君がさ、『ボックスの中に入ったら』なんて話してたのを覚えてるかい?」

「あ、はい」

「あれを止めたのもそう。入れたけど二度と出られなくなる、なんて可能性もあるからね。そのあたりをよく考えて、そうなった場合の対処手段も用意して、周りにサポートできる人員を用意して、そういう準備をちゃんと整えてからじゃないとね」


「はい、よく分かりました」

「よし、じゃあこの話はこれでおしまいっと。ふっふっふっ、さあてカルア君、ここからはいよいよ楽しい話の始まりだ。今日君がやった実験について、その最初からすべてを僕に教えてくれるかい?」


という事で、モリスさんにひととおりの事を説明。

凝固した後に圧縮したら粉々になった事。

それを更に圧縮したら、ものすごくサラサラな粉になった事。

最後に融解した状態でやってみたら、圧縮に成功した事。


「ふーん、なるほどなるほど。その粉末状の魔石っていうのも、もしかしたら何か便利な素材として使えるかもねえ。これはまったく別の研究になりそうだね。それとも、『魔石パウダー』なんて化粧品にして売り出してみようか? もちろん臨床実験を重ねて、効果と安全性が確認できてからだけど。もし「皮膚を伝う自分の魔力でマイナス10歳の美肌効果!」なんて効果があったら、奥様方のちょっとした人気商品になったりしてね」


ははは、魔石が化粧品って・・・


「それにしても『融解』した状態での圧縮か。確かに理にはかなってるかもしれないけど、君も面白いことを考えつくねえ。で、それで成功したのが『これ』ってわけだ」

そう言ってモリスさんが手に取って眺めているのが、さっきの圧縮した魔石。


「確かに見た目より重いねえ。これは同じ大きさの魔石の3個分?いや4個分くらいの重さかな? まあ正確なところは計ってみれば分かるか。うーん、これってどうなのかな。見た感じは圧縮していない魔石と変わらないようだけど・・・なら物質的には安定した状態って事? そうなら爆発の恐れは無いのかもしれないけど、ただこれ、魔力の充填とか属性の付与とかができるからなあ。それについても確認する必要があるか・・・」


そういって暫く考え込むモリスさん。


「よし。カルア君、この魔石、暫く僕に預けてみないか? ちょっと本部の研究設備とか使って色々試してみようと思うんだ。事によると、これはとんでもない発明かもしれない。例えばだよ? 今各ギルドにはそれぞれ設備室があって、そこに通信や共有なんかの様々な設備があるけど、それが手のひらサイズにまで縮小できる可能性だって、無いとは言えないんだ」


ホントに!? 大きな部屋が手のひらサイズとか想像つかないや・・・


「もちろん、そこまで行くのは今すぐって訳じゃない。これから研究を重ねていって少しずつ進歩して、って事になるだろうけどね。まあそんな可能性さ。もちろんこの魔石の圧縮と魔石パウダーの発見者はカルア君、きみだ。その手柄を盗むような真似はしないし、誰にもさせない。世間に発表する時が来れば、当然それは君の名前で登録する。だからさ、これについては僕を信じて僕に任せてくれないか?」


「分かりました。僕がモリスさんの事を信用しないなんてありえません。この後の事は全て、モリスさんにお任せします」


「ありがとう。そう言ってもらって、僕も身が引き締まる思いだよ。あとはオートカとミレア君にも声を掛けなきゃな。それである程度の成果が出たらいよいよ発表だ。カルア君、遠見の応用に次いで、またまた君の名が歴史に刻まれちゃうね。やったね!」


何だろう、全然うれしく感じないんだけど・・・


「まあ前回と同じく、極力君の方に影響が出ないように気をつけるよ。君はもう暫く学生生活をエンジョイしててくれればいいよ。ああ、さっきは厳しい事も言ったけど、そこまで気を使わないといけないのは『圧縮』くらいだから、まあ安心してくれていいよ。油断は駄目だけどね。だからまあ、やりすぎない程度にがんばってね。それくらいでも多分、君の名前は学校の歴史にも刻まれちゃうだろうからさ」


「は、はは・・・がんばります」

「よし、じゃあ今日はここまで。じゃあ僕はそろそろ戻るよ。カルア君、また王都で会おう。それじゃあねええぇぇぇ・・・」


いつものように声だけ残して消えていくモリスさん。

はあ、でも今日は真剣に考えさせられた。

「圧縮」を使う時は要注意。うん、覚えた。




バンッ!!

突然勢い良く開いた扉! えっ何!?


「そこにいるのは誰っ!? 頭の後ろで手を組んで床に・・・ってあれ? カルア君?」

「ピノさん? あれ? どうしてここに?」

「それはこちらの台詞と言うか・・・。私は仕事帰りよ。もうずっとこの道が通勤コースだったから習慣で。そうしたらカルア君の家の明かりがついてたから、もしかして泥棒かもって」


「脅かしてしまってすみません。ちょっと錬成で実験したいことがあったから、ここでやってたんです」

「ああなるほど。あっちの部屋よりここのほうが広くてやりやすそうだものね」

「ええ、そうなんです」

「ふふ、でも泥棒じゃなくてよかった。制圧するのは簡単でも、連絡したり引き渡したりとか、あとの処理の方がいろいろ面倒だものね」


この言葉にもう驚くことはない。

だってもう知ったから。この可愛らしいお姉さんは、バーサクなフェアリーだから。


「そうそうカルア君、ご飯はもう食べた?」

「はい、カレヱを。今日も美味しかったです。あ、でもご飯を炊くのは自信がなかったから、今日はパンと一緒に食べたんですよ」

「そっか。もしかしたら一緒にご飯食べれるかなって思ったけど、残念」


僕も残念。そうと分かってたら食べずに来たのに。


「あっそうだ、いい事思いついた。ねえカルア君、簡単にご飯が炊けるように、専用の鍋を作りましょうか? カルア君が魔石鍋を作ってくれて、私がご飯が上手に炊けるような付与をすれば出来ると思うの。ね、どうする?」

「それは是非、お願いしたいです」

「うんわかった。じゃあ早速、作りましょうか」



全自動炊飯鍋、完成しましたーーっ。

それで僕がご飯を炊いて、ピノさんがおかずを用意したら、一緒に晩御飯。

いただきまーす。って・・・あれ?




▽▽▽▽▽▽

モリス「危険性は教えとかなくちゃね。でもカルア君はやらかしてこそだよね」

ピノ 「だって一緒にご飯、食べたかったから・・・」

カルア「うーんピノさんもぉたべられないよお(寝言)」

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