第42話 プレゼントを渡す事ができました

「おはようカルア君。早速だけどさ、きみ昨日解散したあと何かしたかい? いや、僕の想定外センサーがさ、いつもみたいな『キュピーン』って感じじゃなくって、何だかモヤモヤっとした妙な反応したんだよね。想定外のようなそうじゃないような微妙な感じ? まあきっとたいした事じゃないんだろうけど、ちょっとだけ気になってさ」


翌朝、ギルドの混雑が収まった頃にピノさんとギルマスを連れてベルベルさんの所に来たんだけど、着いた途端にモリスさんからこんな質問が。

昨日あの後っていえば・・・まああれだよね。

でもピノさんのいる前ではちょっと話したくないなあ。


ということで、モリスさんに近づいて声をひそめて、

「ちょっとピノさんに約束したプレゼントを錬成してただけです。でもピノさんもいるし、今ちょっとここでは・・・」

「ああなるほど。じゃあピノ君に渡した後で構わないから、どんな物だったか教えてくれるかい?」

「わかりました」


そしてモリスさん、いつもの声で。

「ああよかった、それだったら安心だ。なんだ、それだったら単なる魔力トレーニングじゃないか。やっぱり気のせいだったってことだね。ほっとしたよ」


ありがとうございますモリスさん。

・・・でもごまかし方が上手すぎない? ロベリーさん、苦労してるんだろうなあ。



「おはよーございまーす。来ましたよししょー。魔力がグンとアップした、スーパーミレアが来ましたよーー!」


まだスーパーとか言ってる・・・。もうホントやめて。


「相変わらず煩い弟子だよ。・・・まあいいや、これで全員揃ったね。じゃあ魔力の増加量の発表会と行こうじゃないか。データの計測と取りまとめはオートカだね。ついでに進行もやっとくれ。任せたよ」

「ええ、わかりました。計測器はすでに準備できていますから、ひとりずつ計測していきましょう。順番は・・・、特に決める必要もないでしょう。ああ、カルア殿だけは最後にしましょうか。大トリという事で」

「あはははは、大トリっていうか、オチって感じ? いやあ、さすがオートカ、よく分かってるじゃない」


オートカさんもモリスさんも、ヒドイ・・・


「最初はもちろん私よね。なんだか今日は朝から漲ってますよー。ホントスーパーって感じで」

「ミレア・・・、そろそろそのネタ、クドくなってきたよ。もうここらで止めときな」

「そうですかー? ちょっと気に入ったから私の持ちネタにしようかと思ってたんですけど・・・。ししょーがそう言うんだったら止めときます」


一体何の師匠なんだろう・・・王宮演芸師?


「じゃあミレアさん、計測器の前に立ってください」

「はーーい。オートカ先輩、私の全部、ちゃんと調べてくださいね」

「ぶふぅっ! ミっ、ミレアさん!? 魔力の計測ですから! うっ、うら若い女性なんですから、迂闊な発言をすると周囲に多大な誤解が生じ」

「もう、気にしすぎですよ先輩。それに私、誤解とかじゃ」

「さっ、さあ! じゃあ始めますね! いいですか、しばらくじっと動かないように! あと危険ですから口も閉じていて下さい!!」


オートカさん・・・がんばれ。

あと、計測で口を閉じる必要ってないよね? 危険って・・・

全員分かっててスルーしてるんだろうけど。


「はい終わりました。じゃあ次は誰ですか?」

「じゃあ僕を頼むよ。オートカ、僕の全部、」

「さっさと計測器の前に! まったく、昔から本当にこういう隙は逃さないっていうか・・・」

「あはははは」


「はい、じゃあ次の方」

「だんだん雑になってきたね。まあいいさ、次はあたしだ。あたしの全部、ちゃんと」

「校長っ!! あなたまで!!」

「なんだい、こういうのは3回目が一番美味しいってのに。まあいいツッコミだったよ」


・・・本当にこの人、いったい何の師匠?


まあ、あとは特に何事もなく順調に進んで、次は僕の番。

「じゃあ、お願いします」

「はい・・・、おや?」


え? やな反応。


「ふむ・・・分かりました。終了です」

「何かおかしかったですか?」

「ああいえ、たいしたことでは。さて、これで全員のデータが出揃いました。直近の魔力量のデータも頂いてますから、それと比較した上昇値を発表します」

「ああ、やっとくれ」


「それでは。まず皆さんの保有する魔力量ですが、一部の例外カルア殿を除き、ほぼ同程度です。そして、今回の上昇量もまたほぼ同程度でした。そしてその上昇量ですが、全員ほぼ2倍になっています」

「やっぱりスーパ」

「ミレア?」

「はーい、もうやめまーす」


「次にカルア殿ですが、こちらは前回の計測からほぼ変化ありませんでした。多少増えているようですが、さほど大きな変化ではありません」


よかったぁ。

何か変な反応されたから、変化がないのが逆に嬉しい。


「ふーむ、モリス、どういう事だと思う?」

「んーー、前回のカルア君の上昇量が彼の一割程度、そして彼の魔力量は僕たちの10倍を超えるくらいだよね。だとすれば、カルア君が初めて金属バットを食べた時の上昇値と今回の僕たちの上昇値はほぼ同程度、いや僕たちのほうが若干少ないかな」


「ふむなるほど、比率ではなく量で比較すればそうなるか。ではカルア君の今回の増加が少ない点についてはどのような推測が?」

「そうだねえ。考えられるのは『初めて受け入れた魔力は上昇率が高い』って事かな。体がビックリしちゃうとか。それが2回目以降はもう慣れちゃって『そんな慌てて最大値を増やさなくてもいいや』って体が判断してるとかね。まあ所謂いわゆる『初回特典』ってやつ?」


「まあありそうな話ではあるね。今のところはその仮説を採用しとこうか。この先はオートカ、あんたの所に任せたよ。ただし、『スティール』『魔石抜き』『マリョテイン』のブーストは無しでだよ。これについてはここだけの秘匿事項にする」

「わかりました。魔力量の増加あたりもうちの対象分野ですからね。秘匿事項についても承知しました。社会影響を考慮すると、迂闊に世には出せませんから。ただ、今回検証しなかった『魔石抜き』はどこかのタイミングで検証したいですね」

「ああ、それはそうだね。まあとりあえず今時点では、残留量がスティールの約半分だったからその比例って仮説にしとこうかね」



「ねえちょっと、カルア君?」

そっと近づいてきたモリスさんが小声で話しかけてきた。

「はい?」

「さっきのプレゼントの話だけどさ、もう準備できてて今持ってるの?」

「あはい、いつでも渡せるように持ってます」

「じゃあさ、僕たち全員ちょっと席を外すからさ、今ここで渡しちゃいなよ。こんな絶好のタイミング、なかなか無いよ?」


そうなのかな? 晩御飯の後とかに渡そうと思ってたけど、早いほうがいいのかな?

うーん、急に言われても・・・どうなんだろう。


「よし、そうと決まればみんなにそれとなく部屋から出るように伝えるからね。じゃあカルア君、がんばってね」


あれ? いつのまにか話が決まってる?

でもせっかく気を使ってくれたんだし、そうしようかな。



「みんな、ちょっといいかい?」

モリスさんがベルベルさんたちの方に近づいて話しかけてる。

そこから先は小声で話してるみたいでよく聞こえないや。

ピノさんに聞こえないようにって事だね、きっと。

ベルベルさんとミレアさんはすごい笑顔。こういうの好きなのかな?

逆にオートカさんとギルマスの表情はなんか険しい感じ?


「ああカルア君、ちょっと僕たち急ぎで出かけてくるから、しばらくの間ピノ君とふたりで留守番しててくれるかい? といっても今日は閉店してて来客もないだろうから、ここにいてくれるだけでいいよ。じゃあよろしくね」


そう言って返事を待たずに全員連れて転移していった。

モリスさん、手際良過ぎで素早過ぎ!



「みなさん急にどうしたんでしょうね、カルア君」

「え、あ、はい、そうですねピノさん」

まずい、ちょっと緊張してきた。

気付かれないようにゆっくり静かに深呼吸して・・・すぅぅはぁぁ


「あの、ピノさん!」

「はい? えっと、どうしましたカルア君。あれ? ちょっと汗かいてる? 暑いの?」

「ぁいえ、そういうわけじゃないです」


落ち着け、僕。


「えっとですね、ほら、このあいだ王都に来た時に、アクセサリーをプレゼントする約束、してたじゃないですか」

「そうですね。私、すっごく楽しみにしてるんですよ? でもそんなに慌てなくていいですからね。カルア君もいろいろ忙しいですから」

「いえ、それなんですけど、昨日ようやく出来上がったんです」


「え? じゃあ・・・もしかして・・・」

「はい! ピノさん、今お渡ししていいですか?」


ピノさん、みるみる顔が真っ赤に。

でもきっと僕も同じくらい真っ赤なんだろうな・・・


「は、はい・・・。お願いします」

「で、では早速ではございますが」


あれ? 僕今何言ってるの? ちょっと緊張しすぎて・・・

あ、そうだ、ボックスからアクセサリーを出さなきゃ・・・

って、あっ!!!

しまったぁぁぁーー!!!!


急に動きを止めた僕に、ちょっと不思議そうな顔になったピノさんが、

「えっと、どうしました?」

「あの、それが、実は・・・」


まさか、こんな大事な事を忘れるなんて!!


「えっとですね・・・、アクセサリーを作ったんですけど、ケースとか袋とか、そういった入れ物を用意するのを忘れて・・・」


そう! 首飾りとブレスレットが出来たところで完全に舞い上がって、入れ物の事を忘れてた!! 普通こういうのってお洒落な入れ物に入れて渡すよね!!


「・・・ぷっ、ふふ、ふふふふっ。あはっ、あはははっ」

「すみません、ピノさん」

「ふふふっ・・・、ううん大丈夫、なんだかカルア君らしいなって思ったら、急に可笑しくなっちゃって。ごめんね、急に笑っちゃって」

「あいえ、そんなのは全然いいんです。ただちょっと申し訳なくって」

「そんなの全然気にすること無いじゃない! ううん、かえってほっとしたっていうか・・・そうね、きっとこのほうが私達らしいって思うの。いいじゃない、こんな感じで。ね? だから、そのまま普通に手渡してくれたら、私もうれしいな」

「ピノさん・・・」


ピノさんのフォロー・・・いや、きっとこれって本心から言ってくれてる。

だって・・・だってピノさんだから。


「はい! じゃあピノさん、これ、今の僕の精一杯で、ピノさんのために作りました。受け取って下さい!!」

そう言って、まずは首飾りを手の上に出した。

「わっ、ステキなペンダント! すっごく可愛いし綺麗ね。・・・・・・えっと、カルア君、ひとつお願い言ってもいいかな?」

「はい、なんですか?」

「その・・・、つけてくれる?」


ぐくっ! そ、その表情、上目遣いっ・・・破壊力っ!!

Yes以外の選択肢なんて、今この世界に存在してないよっ!!


「はっ、はゐっ! ょろこんでっ!!」

ピノさんの後ろにまわって、ピノさんが軽く手で髪を持ち上げた首元から前に手をまわして・・・チェーンの片側を反対の摘んでででで・・・


ふわっとしたいい香りが・・・っ

くっ、気をしっかり持て僕っ! まだ道半みちなかば、ここで倒れちゃ駄目だ!!


留具ををを・・・留具をリングに通したららら・・・で、できた。

ミッション、コンプリーーーートっ!!


「でっ、でででっ出来ましたピノさん」

「あぁあ、あ、ぁりがとぉうござぃます、カっカルア君」


お互い真っ赤になってフリーズする僕たち・・・

が、頑張れ僕! まだだ、まだ終わってないんだ!!


「あ、あのですね、ピノさん?」

「はっ、はい何でしょうかカルア君!?」

「えっとその、実はその首飾りって、このブレスレットと対になっているんです」


よし言えた。そして手のひらにブレスレットを!

「なので、これも一緒にどうぞ!」


ちょっとびっくりした表情のピノさん。

そっとブレスレットに手を伸ばし、そして自分の手に着けようとして・・・

「これも、つけてもらって・・・いい?」


Yes以外の選択肢なんてーーーっ!!


カチリ

「つつつっ、着きましたぁ」

「ああありがとうございますっ」


「はぁぁ、はぁぁ、はぁぁ・・・」

「ふぅぅ、ふぅぅ、ふぅぅ・・・」


それぞれ横を向いて呼吸を整える僕たち。

大丈夫、まだやれる。頑張れる!


「そっ、それでですね、えと、せっかく魔石を使ったので、付与もしてあるんです」

「え? あ、そうか。そういえばアクセサリー屋さんでも付与の話してましたね」

「ええ。なので、作る時は最初から付与するつもりで頑張りました」

「そうなんだ・・・。嬉しいような怖いような。でもカルア君の付与だから、きっとすごくちゃんと考えて、私に必要なものにしてくれたって事よね。うん、どんな付与がされてるのか、教えてくれる?」


「はい、やっぱりピノさんを守ってくれるものにしたかったので、結界を張れるようにしました。『結界』でも『界壁』でもいいので、魔石に指示すれば起動します。中からは剣でも魔法でも攻撃できて、外からの攻撃はすべてはじきます」


「わ、まさに『守り石』ね。ステキな付与をありがとう、カルア君!」

「それで次に」

「え? 次?」


「『転移』です。自分の行きたい場所を思い浮かべて魔石に転移を指示すれば、その場所に転移できます。行き先を指定しない場合はピノさんの自宅の前が転移先になります。これは非常脱出用です。あと転移できるのは行ったことのある場所だけなので、もし行きたい場所があったら言ってくださいね。僕が知ってる場所だったら、僕の転移で一度一緒に行きますから」


「そ、そうなんだ・・・ありがとう。本当にがんばったのね」

「それで次なんですけど」

「More!?」


「魔法の鞄とかってすごく便利ですから、『ボックス』も付与しました。なんだか僕のボックスって魔力の負担が少ないみたいなので、容量をでっかくすることができました。だから多分大丈夫だと思いますけど、もし足りなくなったら言ってくださいね。何とかしますから」


「ソ、ソーナンダ・・・アリガトー。ガンバッタノネ」

「首飾りの付与は以上です」

「ほっ、よかった・・・以上なのね」

「はい。それで次にブレスレットなんですけど」

「エラシコ!?」


「こちらはですね、『通信』の機能が付いてます。えっと、これです、これが通信相手なんですけど」

昨日一緒に作ったもうひとつの魔石。ブレスレットにも別の形にも出来るように、今はまだ魔石のまま。

「ちょっと、僕の方からかけてみますね」

そう言って魔石に発信を指示。


「あ、なにか頭の中に音が聞こえる気がする」

「それが着信音です。魔石に『応答』を指示して下さい」

「ええ、分かったわ。えっと、コレでいいかしら? キャッ」

ピノさんの前に手のひらくらいの大きさの魔力の板が浮かび、そこに僕の顔が映っている。


「こんな感じで相手の顔を見ながら話をすることが出来ます。こちらにはほら、ピノさんの顔が映ってますよ。自分の顔じゃなくって他に見せたいものがある場合は、そう指示すれば相手にはそれが映ります。自分の見ているものを相手に見せたい時に使ってくださいね。あと、応答する時の指示で何も見せないようにもできます」


「あ、はい」


「それでひとつ訊きたいんですけど、この通信相手にしたい人って誰かいますか? その人に合った形に加工できますよ。例えば、ロベリーさんだったらピノさんとお揃いのブレスレットにしたりとか」

「じゃあカルア君で」


「え、あ・・・」


「私が一番通信したい人、よね? カルア君、私の通信相手になってくれる?」

「はっ、はい! よろこんで!!」

「よかった・・・」


すっごくうれしいっ!!



「あ、それで最後の機能なんですけど」

「ヒュッ!?」

「ぴっ、ピノさん!? 大丈夫ですか!?」


「え、あ、ごめんなさい。大丈夫、ちょっと呼吸と心拍が停止しただけだから。綺麗な景色が見えただけだから」

「よかった・・・って、それ大丈夫じゃないから!?」

「もう大丈夫。ちょっと緩急にやられただけだから、魂が。・・・それで何だっけ?」


「あ、はい。えっとですね、その首飾り、落としたり盗まれたりしないように、ピノさんの体から外れた瞬間にブレスレットの中に収納されるようになっています。ブレスレットにもボックスを付けておきましたから。あ、こちらも容量はでっかくしてありますから、よかったら使ってくださいね」


「う、うん。そうする」


「あ、そうだ!」

「ひっ」

「これって、『ペンダント』だったんですね。ちょっとペンダントとネックレスの違いが分からなくって、ずっと『首飾り』って言ってたんですよ」

「ああうん、チェーンだけならネックレス、そこに何かぶら下がってるとペンダントって思ってくれればいいかな。ああでもチェーンに直接融合してるみたいだから、それだとネックレス? でもこれだけ大きな魔石だから、やっぱりペンダントでいいと思う」


「そうなんですね。ずっと気になってたんですけど、すっきりしました」

「カルア君、気にするところはそこじゃないの。そこじゃないのよぉぉ・・・」

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