第43話 一部副音声でお送りしています?
「モリス、私は反対しましたが?」
「私もだ。盗み聞きのような真似を」
「細かい事を気にすんじゃないよ。いいかい、あの子らをそれとなくサポートするには現状把握ってやつが必要だからね。だいたいあんた達も気づいてるんだろう? あの組み合わせの危険性ってやつにさ。こちらとしても対策が必要なんじゃあないかい?」
「私は弟弟子くんたちの恋の応援ができればいいかな-。オートカ先輩、一緒に応援しましょうよ」
「は、はあ・・・、しかし盗聴というのは流石にやり過ぎでは」
「盗聴じゃなくって、お・う・え・ん、ですよー。でもちょっとだけ見直しましたよモリス先輩。たまにはいいこと考えつくじゃないですかー」
「あはははは、ちょっと思わぬ方向に議論が進んでるけど・・・。僕としてはカルア君の『プレゼント』ってやつをちょっと警戒してるだけなんだよ。あとからカルア君に説明してもらう事にはなってるけど、それだと大事な何かが抜け落ちてそうなんだよねえ」
「む、確かにそれは一理あるが・・・」
「もう引き返せないんだ。今更ぐちぐち言っても仕方ないだろう。さあ、もうそろそろカルアが動くはずだよ。傾聴しな!」
ここは基礎魔法研究所の所長室、オートカの「仕事場」だ。
モリスの転移でここに来た5人。
彼らの座るソファの前のテーブルには、受信用の魔道具が置いてある。
送信用の魔道具があるのは先ほどまでいたマリアベルの店。つまりこれは、まぎれもない盗聴。
自身の研究室にはロベリーがいるため、モリスは転移先をこの部屋とした。
彼女が敵になるか味方になるかが、まったく読めなかった為だ。
実際、ほんの僅かな違いでロベリーはどちらにもなりうる。
それは、ちょっとした一言やその時の彼女の気分次第・・・
『あの、ピノさん!』
「始まったね。さあ見せてもらおうか、天然の初恋同士の甘酸っぱさとやらを」
「見るんじゃなくって聞くんですけどね。ししょー」
「細かいよ!」
『えっとですね、ほら、このあいだ王都に来た時に、アクセサリーをプレゼントする約束、してたじゃないですか』
「ほーーー、ピノもやるねえ。あの時にそんな約束を取り付けてたなんてさ」
「ピノちゃんがおねだりしたのかな? それとももしかしてカルア君から? きゃああ」
『え? じゃあ・・・もしかして・・・』
『はい! ピノさん、今お渡ししていいですか?』
「おっと、来たよ来たよ! よーし、行けカルア!」
「がんばれーー」
『で、では早速ではございますが』
「ぶふーーーっ! か、カルア君面白すぎ! ここにきて何の司会者!?」
「緊張っぷりが半端ないねえ」
『えっと、どうしました?』
『あの、それが、実は・・・』
「なんだいなんだい、トラブル発生かい!?」
「どきどき、はらはら」
「口で言ってんじゃないよ」
『えっとですね・・・、アクセサリーを作ったんですけど、ケースとか袋とか、そういった入れ物を用意するのを忘れて・・・』
「あーーーっ、やっちまったねえ。まさかプレゼントを裸のままで渡す事になるのかい? こいつはちょっと気まずいねえ」
「初々しさ全開の失敗ですねー」
『そんなの全然気にすること無いじゃない! ううん、かえってほっとしたっていうか・・・そうね、きっとこのほうが私達らしいって思うの。いいじゃない、こんな感じで。ね? だから、そのまま普通に手渡してくれたら、私もうれしいな』
「こっ、こいつは・・・」
「ななな、なんて包容力! さりげなくフォローしつつも実はしっかりマウント取ってる感じ? こ、これは、伝説の『ふんわりマウント』ですよ!!」
「どこの伝説だい・・・」
『はい! じゃあピノさん、これ、今の僕の精一杯で、ピノさんのために作りました。受け取って下さい!!』
「キタキターーっ! さあ何を出す? 何を作ったってんだい!?」
「手堅く行ったかそれとも変化球? まさかここでウケ狙いとか?」
『わっ、ステキなペンダント! すっごく可愛いし綺麗ね。・・・・・・えっと、カルア君、ひとつお願い言ってもいいかな?』
「手堅く行ったー-。 そっかー、いくら冒険者でもここで冒険はしないか-」
「待ちな! ここでピノが何かしでかしそうだよ!」
『その・・・、つけてくれる?』
『はっ、はゐっ! ょろこんでっ!!』
「グハアァァァーーーーッ!」
「ミレアっ!? くっ、やりやがった! ピノのやつ、ここに来て大技炸裂させやがったよ!! あれで恋愛初心者だって!? ありえないだろう!!」
『でっ、でででっ出来ましたピノさん』
『あぁあ、あ、ぁりがとぉうござぃます、カっカルア君』
「ずいぶん時間がかかったねえ。ペンダント着けるのにそんな時間・・・いや待て、自分で着けるんじゃない。誰かにペンダントを着けてもらうって事だから・・・」
「えっと、ししょー? こう前から手をまわすか、後ろから手をまわすかでしょ? ふわぁ、どちらからでもかなり際どい体勢に・・・」
「モリスっ! 映像は!? 映像はないのかい!?」
「いやあ、さすがにそこまでは、ねえ」
「はっ! 遠見は? 遠見は出来るんだろう? それを共有すれば!」
「カルア君って転移の前兆も感知しちゃうから、すぐに気づくんじゃないかなあ」
「この役立たずっ!! なんて使えない奴なんだい!!」
「ええーーー・・・」
『えっとその、実はその首飾りって、このブレスレットと対になっているんです』
「な、なんだって・・・」
「これは予想外のもってけダブルだー! カルア君、追撃のプレゼントですよー!!」
『これも、つけてもらって・・・いい?』
「ぴっ、ピノーーーーーっ!!!!」
「駄目、私もう、ピノちゃんに勝てる気がしない。・・・はっ! むしろピノ様って呼ぶべき!?」
『そっ、それでですね、えと、せっかく魔石を使ったので、付与もしてあるんです』
「そうそう。それそれ、それだよカルア君。ようやく大事な話を始める気だね。さあてカルア君、君は一体なにをやらかしたんだい? 全部聞かせてもらおうじゃないか」
「ししょー、とりあえず一番面白そうなところは過ぎたみたいですよ」
「ああ。あたしゃもう疲れたよ。血圧もだいぶ上がっちまったみたいだねえ」
『はい、やっぱりピノさんを守ってくれるものにしたかったので、結界を張れるようにしました。『結界』でも『界壁』でもいいので、魔石に指示すれば起動します。中からは剣でも魔法でも攻撃できて、外からの攻撃はすべてはじきます』
「なるほど。まあそうだよねえ。普通に考えたら守り石にするよねえ。さすがのカルア君でも、ここは無難な所に落ち着いたってところか。そうすると、もうひとつ役立つ付与をブレスレットにってところかな。うんうん、よく考えてるじゃない」
『それで次に『転移』です。自分の行きたい場所を思い浮かべて魔石に転移を指示すれば、その場所に転移できます。行き先を指定しない場合はピノさんの自宅の前が転移先になります。これは非常脱出用です。あと転移できるのは行ったことのある場所だけなので、もし行きたい場所があったら言ってくださいね。僕が知ってる場所だったら、僕の転移で一度一緒に行きますから』
「え? ちょっと待って! ひとつの魔石に複数の付与? いやだって、あの結界がすでに複数付与だよ? その上に別の付与、しかも転移だって? いやいや、転移の魔道具なんてそんな簡単にプレゼントするようなものじゃないよ? 転移の魔道具って王族の緊急避難用だからね! それにだって結界とかは付いてないからね!」
「ちょっとししょー、聞きました? カルアくんってば転移の設定にかこつけてお出かけの約束取り付けようとしてますよ-」
「ああ、あとはもう若いふたりにまかせて」
「しっかりしてくださいししょー。お見合いのお世話焼きさんみたいになってますよー」
『魔法の鞄とかってすごく便利ですから、『ボックス』も付与しました。なんだか僕のボックスって魔力の負担が少ないみたいなので、容量をでっかくすることができました。だから多分大丈夫だと思いますけど、もし足りなくなったら言ってくださいね。何とかしますから』
「は、ははは。ボックスもだって? ひとつの魔石にそんなに詰め込めるものなのかい? これはカルア君が凄いのかロベリー君の付与術が凄いのか・・・。どちらにしてもあのペンダントはもう『魔道具』とか呼べるレベルのものじゃないよ。ピノ君、あれ普段使いできるかなあ。・・・ああ、守り石として渡されたって事は、普段から身に着けとかない訳にはいかないのか。あーあ、気の毒に」
「いやモリス、大事なところを見落としてますよ。カルア殿は『容量をでっかく』と言ってました。それってどれくらいの容量なんでしょうか?」
「!?」
『エラシコ!?』
「逆方向へのフェイントに引っ掛かった、ってかい。また分かり難いところを・・・」
「ししょー、ここは拾わなくていいですよー」
『こちらはですね、『通信』の機能が付いてます。えっと、これです、これが通信相手なんですけど』
「まさか、昨日見たばかりの通信具をもうコピーしたってのかい? とんでもないね!」
「ブレスレット型かぁ。それもいいなあ。次世代機の参考にさせてもらおうかな」
『こんな感じで相手の顔を見ながら話をすることが出来ます。こちらにはほら、ピノさんの顔が映ってますよ。自分の顔じゃなくって他に見せたいものがある場合は、そう指示すれば相手にはそれが映ります。自分の見ているものを相手に見せたい時に使ってくださいね。あと、応答する時の指示で何も見せないようにもできます』
「え?」
「モリス、あんたの通信具よりも性能がいいんじゃないかい? 実用面でもよく考えられてるみたいだしねえ」
「ははは、インフラ技術室長、カルア君に代わってもらおうかな・・・」
『私が一番通信したい人、よね? カルア君、私の通信相手になってくれる?』
『はっ、はい! よろこんで!!』
「「きゃぁぁぁーーーーーーーーっ!!」」
「校長・・・」
「あははは、あの校長が乙女になっちゃったねぇ」
『あ、はい。えっとですね、その首飾り、落としたり盗まれたりしないように、ピノさんの体から外れた瞬間にブレスレットの中に収納されるようになっています。ブレスレットにもボックスを付けておきましたから。あ、こちらも容量はでっかくしてありますから、よかったら使ってくださいね』
「・・・」
「・・・」
「・・・」
「ブレスレットはペンダントの盗難対策グッズ、だそうですよモリス」
「ははは、ブレスレットのほうだけでも途轍もない価値があるんだけど、わかってるのかな?」
『カルア君、気にするところはそこじゃないの。そこじゃないのよぉぉ・・・』
「これは同意せざるを得ないですね」
「ピノ様、かわいそう」
「ふーん、ピノのやつ、昔あれだけ散々やらかしてきたってのに、カルアには随分手を焼いてるじゃないか。それとも多少は常識が身に付いたって事かねえ。そうだったら少しは気が休まるってもんだが・・・。ところでミレア、あんたホントにこれからピノの事そう呼ぶ気なのかい?」
「ははは・・・ああそうか、今回もまたこのパターンだったかぁ。たしかに付与したひとつひとつは想定内だからね。これはセンサーに引っかからなくっても仕方ないかな。しかしこの複合っぷり、これがあのモヤモヤの正体だった訳か。いや、これはどうやって精度を高めたらいいんだろう? アルゴリズムを改良して正式版の通信具に反映させるには・・・」
「はぁ・・・とりあえず終わったようだよ。そろそろあたしの店に戻ろうか」
あ、みんな戻ってきた。
「ただいまー。カルア君どうだった? お、ピノ君が着けてるペンダント、あれが君のプレゼントってことなのかい?」
「はい、おかげでピノさんに渡す事ができました。モリスさん、ありがとうございました」
「あははは、そう素直にお礼を言われると心が痛むねえ」
「え?」
「ああゴメン、こっちの話だから気にしないで」
「あ、はい」
「ピノ様、そのペンダントすっごく似合ってる-」
「ありがとうございます・・・『ピノ様』?」
「うん、私の女子力アップのししょーになってもらいたいなあって。でも『ししょー』って呼ぶとししょーとどっちかわからなくなっちゃうから『ピノ様』にしたんだよ」
「女子力、ですか? えっと、師匠とか言われても、教えられる事とか無いので・・・」
「うん、気にしないで。技を盗む気概でがんばるから」
「あの、お断りすることは・・・」
「無理」
「えええぇぇ・・・」
「おや、ミレアさん、何か落としましたよ? これ、王宮魔法師の徽章じゃないですか。こんな大切なものを」
「たいへーん。ありがとうございますオートカ先輩。あの、ひとつお願いがあるんですけど」
「えっと、な、なんでしょう」
「その・・・、つけてくれます?」
「「!?」」
「あれ、ししょー、この魔道具ってこれ単体で使うんでしたっけ?」
「ああそれかい? それだったらほら、このブレスレットと対になってるんだよ」
「そっかー、じゃあ、これも、つけてもらって・・・いいです?」
「「!!??」」
「ねえカルア君、私の気のせいかしら? なんだか・・・」
「たぶん間違いないと思います。これ絶対やられてますよ」
「そうよね、やっぱり・・・」
ピノさんとふたりでギルマスに視線を向けると・・・
すっ
気まずそうな顔で目を逸らされた。
「「くっ、確定か!」」
部屋中を冷気が渦まいている。
その中心にはもちろん・・・
「それでベルベルさん? どういう事か聞かせてくれますか?」
「おっ、落ち着きなピノ! モリスだ、モリスが言い出したんだよ!!」
「へえ」
「ぼぼぼ僕かい? いや、そう言われればたしかにその通りなんだけど、僕は付与の内容に問題があるんじゃないかって心配でね!? ほっ、ほら、実際その通りだっただろう!?」
「で、ギルマスは止めてくれなかったんですか?」
「い、いや! 私とオートカ氏で反対したのだが、その最中で強制的に転移されてだな」
「ふーん。じゃあさっきの揶揄うような行動は?」
「我々は一切感知していない! すべてはあのふたりの悪ふざけだ!!」
「ベルベルさん? ミレアさん?」
「ひえっ! おっ、老い先短い年寄りを虐めるもんじゃないよ、ピノ!?」
「ご、ごめんなさいーー、ピノ様ぁぁぁ!!」
「もう! もうっ!! みんな大ッキライ!! ふえーーーーーん・・・」
それからピノさんは泣き続け、みんなは必死に土下座して謝って・・・
そして僕も、
「ごめんなさいピノさん。晩御飯の後とかに渡すつもりだったのに、モリスさんの口車に乗せられちゃったから・・・。もっと注意してよく考えればよかったんです」
「えぐっ、ひっく・・・、カルア君は悪くないよー。それにこんなステキなプレゼントを・・・それなのに、この人たちが」
「「「「「すっ、すみませんでした、ピノ様!!!」」」」」
やがてようやく落ち着いたピノさんは、泣きやみ、そして、
「・・・わかりました、今回はもういいです。でも、でも次はないですからね!!」
「「「「「はいっ!」」」」」
そしてその5分後・・・
「それでカルア君、あのペンダントへの付与だけどさあ・・・」
「ししょー、さっきのピノ様の冷気って、あれ魔法ですかね-」
「あれはあたしにもわからないんだよ。昔っから時々あってさ」
「この間僕の研究室でもあったねぇ。確かロベリー君が・・・」
何事もなかったみたいにいつも通りのみんなの姿が。
ほんとにもう、この人たちは・・・ねえピノさん?
「「はあああぁぁぁ・・・・・・」」
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