第41話 魔力増の謎とプレゼント作りです
「で、あんた達、この料理、どう思った? ああ、聞きたいのは美味かったとかじゃあないからね。美味かったのは間違いないさ。ただ最後のパフェだけは・・・、じゃあなくって! 魔力の増加に関係するかについてだ」
「あの、気のせいかもしれませんが、この肉、魔力を多く含んでいませんか?」
「ああ、それは僕も感じたよ。なんだろうねえ、普通の魔物肉も多少は魔力を帯びてるものだけど、それと比べて随分多く感じるよねえ。ただ、あくまで感覚的なものだから、実際のところはどうなんだろう。ねぇオートカ、君のところの計測器って、この料理なんかも測る事って出来たりするかい?」
「ええ、計測器からの相対座標を指定するだけですから、対象が何であれ計測は可能です。今日は使用予定が無かったはずですから、機材室にあると思いますよ」
「じゃあちょっと一緒に取りに行こうか。校長、いいですよね?」
「ああ、頼むよ」
「じゃあ転移するよ? 行き先は君の部屋で良いんだよね」
「だからあれは仕事場で私の部屋じゃ・・・、まあ今はいいです。じゃあモリス、それでお願いします」
そうしてふたりは転移して・・・5分くらいで戻ってきた。
「じゃあオートカ、ちょっと準備しててよ。それでカルア君、次は君が一緒にお出かけする番だ。ちょっと僕と森にラビット狩りに行くよ。3分で」
「あ、はい。いつでも行けます」
「よし、じゃあ行こう。すぐ行こう」
そして次の瞬間、僕たちは森の中に立っていた。
「さてラビットはっと・・・ああ、いたいた。あっちにちょうど3匹いるね。いいかい、今回確認したいのは、それぞれ違う手段で狩った彼らに、どれだけの量の魔力が残留されているかだよ。という事だから、まず1匹めは君のスティール、その次は魔道具で魔石を抜いて、最後の1匹は普通に首を落としてお持ち帰りだよ。じゃあラビット君たちのもとにレッツゴーだ」
ということで、僕たちはモリスさんが見つけた3匹のラビットのもとへ。
「君は一番左のラビットをスティールしちゃって。そのあと僕が真ん中のラビットの魔石をこいつで抜いて、そのまま右のラビットも処理するから。じゃあやっちゃって」
「はい、スティール」
「よし、じゃあ僕の番ね」
そう言ってモリスさんは魔道具を起動、次の瞬間にはラビットの背後に転移して首をスパッと。
崩れ落ちる2匹のラビットを収納してもとの位置に転移、現れて落下しかかっていたラビットの魔石を収納。
ってちょっと手際が良すぎない!? もしかして開発室の人って、これが当たり前なの?
自信無くすんだけど・・・
「じゃあ戻るよー」
「たっだいまー。オートカ、準備できてる?」
「ええ。これから先程の金属バットとその料理の残留魔力を計測するところです」
「オッケー、じゃあそれが終わったら今狩ってきたラビット君たちの計測もよろしく」
そして始まったラビットの計測。
「これがカルア君のスティール、これが『魔石抜き』、これが直接攻撃ね」
初めて聞いたんだけど、「魔石抜き」っていうのは、スティールの魔道具を使って魔石を抜き取ることなんだって。スティールスキルとの関連性を隠すために付けた名前で、その名前で正式発表したそう。
「まあ安全策は二重三重に用意しないとね。それにほら、君以外にだってスティールを持っている人たちがいるからさ、その人たちにも悪い影響が出たらまずいしね」
そっか、確かにそうだよね。
「では計測を初めますね」
まずはそのままのラビットを計測して、解体してから調理前の食肉状態でもう一度。
最後にピノさん得意の香草焼きにしてから計測、その後はスタッフの皆さんでとっても美味しく頂きました。
「なるほど。ひととおり結果が出ました。では」
「「けっかはっぴょーー!」」
「うがあぁぁ!! モリス先輩とカブったーー!! ちがう同族じゃない! キャラかぶりじゃないのーーっ!!」
「静かにおしっ!!」
頭を抱えて藻掻くミレアさん。なんだかなあ・・・
「さて、それで計測した結果ですが・・・」
何事も無かったかのように話を続けるオートカさん。さすがです。
「まず調理済みの金属バットですが、こちらには相当量の魔力が残っていました。といっても比較となるデータが無いので、現時点で判明しているのはここまでです。次にラビットによる残留魔力量の比較ですが、こちらは狩り方により明確な差が出ました」
「やっぱり想定どおりかい?」
「そのとおりです。狩ったままの状態、調理前、調理後のすべてにおいて同様の結果でした。最も魔力量が少ないのが通常の狩り方、次いで魔石抜き、最も多かったのがスティールによるものでした。通常を1とすると魔石抜きは5でスティールが10、つまりスティールで狩った魔物には通常の10倍の魔力が残留している事になります」
「違いはあるだろうと思ってたけど、10倍ってかい!? なんとまあ・・・。これはやっぱりあれかね、普通に狩ると魔石に吸い込まれちまう魔力が、行き場を失ってすべて体内に残っているから、って事なのかねえ」
「そう考えるのが自然でしょうね。ただ、それにしては魔石抜きとスティールの差が大きすぎる気がします。他にも何か要因がありそうですね」
「そうだねえ。まあ仮説としてはパっと幾つか挙げられるけど、確定するならちゃんとデータを取らなきゃね。ただまあ、今日知りたいところはもう分かったから、もっと詳しく調査するにしてもそれは後日って事でいいよね。という事で話を進めるけど、校長、ピノ君が何やらやらかしたかもっていうのは?」
「ああ、そいつはね、この子の言う『マリョテイン』ってやつさ」
え? マリョテインが何か?
えーっと、ピノさんは・・・・あ、「やっぱりそれかー」みたいな顔してる。
「ピノ、このマリョテインって、あたしのレシピから変えてるだろう?」
「ええ。前にちょっと配合を間違えちゃったんですけど、何だかそちらのほうが美味しくって。それで色々試してみて、一番美味しくなるように変えたんですよ」
「やっぱりそうかい・・・」
右手で額を押さえて溜息をつくベルベルさん。
変えたのが良くなかったってこと?
「『良薬口に苦し』なんて言葉があるけど、このマリョテインは薬じゃなくって調味料だろ? だから美味しく感じるってのは体がそれを求めてる、つまり効果が高いって事なんだよ」
「なるほど。確かにそういうものかもしれませんね。それで校長、そのマリョテインの効果というのはどのようなものなんですか?」
「効果は、魔力トレーニングによる最大魔力量増加のサポートだ。つまり・・・」
「摂取した魔力の吸収率を高めると同時に、体内に蓄積できる魔力を増やす効果、ですか。なるほど、話が見えてきました」
「ああ。つまりだ、カルアがあり得ないほど魔力が多い食材を用意して、ピノがその魔力をあり得ないほど吸収できる料理を作る。それを食べたカルアがあり得ないほどクソまじめにトレーニングする。そいつを毎日繰り返した。ふたりがかりでやらかしちまった訳だね。まったく、天然ふたりの傍迷惑な共同作業さ」
「「あは、ははは・・・」」
「まあでもね、どうもカルアの魔力はそれ以上に増えすぎてると思うんだよ。半分はこれが原因だとしても、まだ他に何か大きな原因ってやつが残ってそうな気がしてならないんだよ。主にカルア自身にさ」
「そうだねえ、カルア君だしねえ」
「ええ、カルア殿ならばありえますね」
「カルアくん、まじカルアくん!」
「ぅぅ、また胃が・・・」
「ギルマス、お薬です」
あれ!? ピノさん、いつの間にかそっち側!?
「さて、ここでの検証は以上だ。今日は全員寝る前に魔力トレーニングをやるんだよ。それで明日どれだけ魔力が増加したか報告しな! カルア、あんたがやってるトレーニングは『石ころに回復魔法』って言ってたね?」
「はい、そうです」
「って事だ。全員同じ方法で実施するんだよ。回復を使えないやつはいるかい? ・・・よし、いないね。あとカルア、今日はこれで解散だけど、あんた時間があるからってトレーニング時間を増やしたりするんじゃないよ。いつもと同じくらいの量にしとかないと比較にならないからね!」
あ、そうだ。
「あのベルベルさん、そのことでちょっと相談があるんですけど」
「ああ、なんだい?」
「トレーニングの前に魔力を空っぽにするのが大変なんです。なにか良い方法とかないですか?」
「・・・また相談されたほうが激怒しそうなくらい贅沢な悩みをぶち込んできたね。と言ってもあんた程の量の魔力を使い切る、ってのは確かに大変そうだ。いつもはどうしてるんだい?」
「えっと、遠くの国まで転移してすぐに戻るのを繰り返したりとかしてます」
「そいつはまた途轍もない魔力の無駄遣いだね。聞くだけでクラクラするよ。まあたしかにあんたの魔法で一番重たいのは転移だからそれも仕方ないか。で、それでもまだ使い切るのが大変と。うーん、どうしたもんかねえ」
「ししょー、使うんじゃなくって魔石に注入しちゃったらどうです?」
「ああ、その手があったね。ただそうすると今度は、魔力が目一杯充填されたその魔石をどうするかって問題が出てくるね」
「それだったらうちに任せてよ。ほら、これから魔石抜きが増えるだろ? そうしたら入荷する魔石の大部分が抜いた魔石に置き換わって、今ギルドの機器に使ってる通常の魔石の入手が困難になるんだよね。だからさ、カルア君の余った魔力はギルドの燃料源にさせてもらうよ。こっちで空っぽの大きな魔石を用意するからさ、そいつにチャージしてくれるかい。いくつか用意しておいて、魔力を使い切って空になったのをここに持ってくるようにするよ」
「モリス、あんたカルアの魔力をあてにし過ぎるんじゃないよ。何かあってギルドが回らなくなったら大変だからね」
「ははは、たしかに。そうならないように、充填済みの魔石を予備としてたくさん用意しておくのと、カルア君が不在の時には30人がかりくらいで充填できる体制を構築しておきますよ。そのあたりはインフラ技術課の得意分野ですからね」
「ならいいさ。あとカルアにちゃんと代金を支払うんだよ?」
「それはもちろん。っていうか、カルア君の魔力量だと、これだけを仕事にしてもかなり裕福な生活ができちゃうだろうね。君ひとりで一体王宮魔法師何人分くらいの充填量になるやら」
なんだか冒険者以外の仕事の選択肢がどんどん増えてくんだけど・・・
「じゃあみんな、今度こそ帰るよ。明日はうちに集合だからね。それじゃあモリス、発進」
「ははは、僕とうとう乗り物扱いだよ。じゃあカルア君、またねえぇぇ・・・」
「さて、我々もこれで終了だな。ああそうそう、今日の金属バットも換金でよかったのかな?」
「はい、それでお願いします」
「うむ、わかった。じゃあこのままギルドまで転移を頼む」
「お願いしますね、カルア君」
「はいっ」
ギルマスとピノさんをギルドに送り届けてそのまま金属バットを換金。金属バットも立て続けにたくさん納入したけど、そのうち買い取り停止になったりするのかな? 今度訊いてみよう。まあそうなった時は食べる分だけ持って帰るようにすればいいか。金属バット、美味しいしね。
さてと、今日やることはトレーニング以外は全部終わったから、いよいよピノさんへのプレゼントを作ろうか。
昨日決めたとおり、プレゼントするのは首飾り。
カットされた宝石みたいな魔石がチェーンからぶら下がる、シンプルなデザイン。
魔石はあまり大きくすると邪魔になるし可愛くないから、程々の大きさで。
チェーンにも魔石を混合すれば、首に着けたままでも魔力の通りが良くなるはず。
チェーンの色も綺麗になるしね。
付与するのは、「ボックス」「転移」「界壁」「通信」かな。
収納じゃなくてボックスにしたのは、魔力量を抑えるため。
逆にゲートと転移では転移を選んだ。どうしても見た目が違うし、ゲートの場合は「魔力の門を作ってからその中に自分で入る」という動作が必要になる。転移だったら「遠見して他の物体と重ならない場所に転移」をすべて自動化できて、緊急時に使いやすいから。
界壁はもちろんやりたい放題のオートカさんタイプ。
それで通信だけど、イメージするのはさっきベルベルさんが使ってたあの通信具。あのイメージでだけど、相手を誰にするかはピノさんに訊いてからじゃないとね。あ、あれも出来ないかな。ダンジョンコアの映像をギルドに送るみたいな機能。相手の顔を見ながら話すとか、自分の見ているものを相手に見せるとかできたら便利かも。
そうだ、落としたり盗まれたりしないような機能を付けられないかな。
んー・・・、ピノさんから離れたら、首飾り自体がどこかに転移するとか?
ああ、でも一時的に外したい事もあるよね。
何かいい方法はないかな。
あ、ブレスレットも作っちゃおうか。それでそのブレスレットにもボックスを付与して、そのボックスの中に転移。着ける時はブレスレットのボックスから出せばいい。
うん、それでやってみようかな。
だったら作るのはまずブレスレットからか。
うーん、できるだけシンプルで邪魔にならないように・・・
魔剣と同じように魔石を混合してから形を整えて錬成、そしてボックスを付与。
うん、出来た。
次はいよいよ首飾り。
ひとつひとつ丁寧にやっていこう。
まずは金属と魔石を混合してチェーンに、次に魔石の形を整えてチェーンに付ける。お店で売ってたのは台座にはめ込むように作ってあったけど、せっかく錬成で作るんだから、チェーンと融合させちゃおう。あ、留具も作らなきゃ。
さていよいよ付与だ。
ひとつの中にこんないろんな種類の付与を付けるのって初めて。
ボックスはブレスレットと同じ要領でちょいちょいっと。容量はもちろんでっかく。なんか勘違いされてるみたいだけど、僕だって常識くらいちゃんと知ってるよ? 「大は小を兼ねる」なんて一般常識だって。
転移は自分で思い浮かべた場所に行けるようにして、あと念のためピノさんの家の前も登録しとこう。これは無指定で転移した場合の転移先として。緊急時用だね。
あとは体から離れた時に首飾り自身をブレスレットに転移するようにっと。
界壁は大丈夫。モリスさんのところで作ったことあるから。
次は通信を・・・あれ? 弾かれた? ちがう? あ、これって「もう入らないよ」って事かな? うーん、どうしようかな。魔石を大きくすれば入るんだろうけど、それはやりたくないし・・・。よし、通信は首飾りじゃなくってブレスレットに追加しよう。
さて、これをひとつのイメージにまとめてから首飾りに伝えなきゃ。
首飾り君、やること沢山だけど、ピノさんの為に頑張って覚えてね・・・
よし、付与できたっと。
じゃあブレスレットに通信を追加・・・あ、こっちも一杯みたいだ。どうしようかなあ。
よし、仕方がないから小さな四角い魔石を追加して、それに付与しよう。
うん、送る映像はその魔石を起点にするイメージ、受信する映像はその魔石の上にゲートみたいな魔力の板を出してそこに表示するイメージかな。
あとは音声。向こうの音声とこちらの音声を・・・
あれ? それってこっちの声が向こうで流れて、その声がまたこっちに送られちゃんじゃない? うん、絶対そうなる気がする。よし、届いた声は送り返さないようにイメージ。
通信先は後から指定するから、ね。
あ、通信相手の通信具も作らなきゃ。
うん、じゃあイメージ化して・・・頑張れ魔石くん! 君ならやれる!
よし、付与完了。
じゃあブレスレットに融合!
できたーーーーーっ!!
ピノさん、喜んでくれるかなっ。
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