第40話 重要参考人とともに現場検証です

「で、驚いてあたしんトコにやってきた、ってのかい」

「そうなんです・・・」


魔力が増えていることに気づいた僕は、急いで身支度を整えてベルベルさんの所へ。

ひと通り昨日の事を説明したんだけど・・・


「話を聞くだけじゃあはっきりした原因は分からないねえ。で、どれくらい増えたんだい?」

「どれくらいって言ったらいいんだろう。ちょっと視てもらっていいですか?」

「まあそのほうが早いか。どれどれ・・・」


じっと僕を見つめるベルベルさん。

といっても目を合わせるんじゃなくって、焦点を合わさずに全身を見てる感じかな。

でもちょっと背中がむず痒いような感じ。普通こんなじっと見られてる事ないし。


「ふーん、だいたい1割くらいかねえ。じゃあ循環やってみな」

「はいっ」


循環開始。

もう慣れたから一瞬でできる。


「やっぱり1割くらい増えてるか。で、循環した感じは前となんか違ったりするかい? やりにくいとかねつっぽくなるとか?」

「いえ、特に感じは変わらないです」

「ふーむ・・・。わかった、もう止めていいよ」


循環停止。ぷしゅーーつ。


「この魔力量があって、一晩にしてそれが1割増えたと。そりゃあ驚くだろうねえ。あたしだってびっくりだよ。で、その原因が・・・」

「原因が?」

ごくり。


「・・・サッパリわからないね。まあ昨日あった何かが引き金だろうとは思うけどね。ってことで現場検証でもやってみようかね。カルア、これからフィラストダンジョンに行くよ」

そう言って何かを耳に当てたベルベルさん。何かの魔道具かな?


「ミレア! 今日これからフィラストダンジョンに行くよ。10分待ってやるから急いで来な! ・・・あん!? 文句言うんじゃないよ! なにオートカ? ああ、あいつも呼ぶよ。・・・そうかい、じゃあ呼んどいてくれ。 ・・・ああ、モリスもこれから呼ぶとこ・・・やかましい!! いいからとっとと来な。あと9分だよ!!」


いったん魔道具を耳から離し、それにちょっと目をやってからもう一度耳に当てる。


「モリスかい? ああ、さっそくこいつを使うことになったよ。・・・いやテストじゃないよ、用があってかけたんだ。・・・ああそうさ、カルアの件だよ。今すぐここに来な。5分以内だ。1秒でも遅れたら、分かってるだろうね。・・・あん? ロベリー? 知らないよ! ちゃんとあんたが言いくるめな!!」


なんとなく分かった。これ、通信具だ。

耳から離している時は、通信の相手を選んでるのかな?


「ブラックかい? みんな連れてそっち行くから部屋を用意しときな。フィラストの件だよ。・・・ああ、さっきカルアからね。で、たぶんそれに関連するだろうって問題が発生してね、その現地調査だ。・・・あ? あんたも案外打たれ弱いね!? しっかりおし! ほら! 最強職員なんだろう!?」


ベルベルさんの声しか聞こえないけど、相手が何を言ってるのか大体分かっちゃうよ。

もちろんこの通信具の機能じゃないだろうけど。


「通信具って初めて見ましたけど、そんな小さいものなんですね」

「ああこれかい? こいつは特別製さ。昨日モリスの所に集まって作った試作品だ」

「ああ、それで昨日・・・。でもそれだったら僕も一緒に作りたかったな」

「だからだよ! モリスのやつにあんたが加わったりしたら、どんな斜め上の機能が付いちまうか想像もつかないからね! ・・・まあ結局目の届かないところで別の事をやらかしたわけだから、はぁ、一体どっちが良かったのかねえ・・・」


あ、あはは・・・すみません。


「まあそういう訳だからさ、現在チーム用特別製通信具の製作中、ってやつだ。ああ、あんたの分はもう少し待ちな。この試作品をもとに、最適化と小型軽量化した完成品ってやつをモリスが作ってるからさ」

「うわぁ、僕の分もあるんですか。楽しみです!」

「ああ、楽しみにしてな。そういやあモリスがあんたの分にはなんとかセンサーを付けられないかなんて言ってたけど、なんだったかねえ」


あ、急に楽しみじゃなくなったかも。




あ、モリスさん。ん? ロベリーさんも?

「いや、だから遊びに行くんじゃないって。ほらもう着いてるから。ね、ここ、ここだからさ。ホントに校長のところだろう? ちょっとロベリー君・・・みんな見てるから」

「え? あ、みなさんこんにちは。それとお騒がせしてすみません。室長がまた急に出かけるなんて言うものだから。・・・まったく室長! 今日は大事が会議があるって、あれほど」

「悪いねロベリー。きょうはあたしの案件だ。誰が集まるのか知らないけど、会議のメンバーにはそう言っといてくれ。そうすれば誰も文句は言わないだろうさ。万が一文句を言うやつがいたら『そいつの名前をあたしに報告することになっている』って伝えてやんな」


「はぁ・・・、まあそういう事でしたら。じゃあ室長、今回もまた調整とリスケをやってきますから、私を研究室に送ってってください」

「はは、苦労かけるね」


モリスさんとロベリーさんが消えて、モリスさんだけがまたすぐに現れた。

頑張ってくださいロベリーさん、いつもお疲れ様です・・・

「モリス、普段からちゃんとしてないから、いざっていう時にこうなるんだよ!」

「いやあ、ここ最近その「いざっていう時」が多すぎたんですよ。まあ校長もこれからそうなりますって」


「嫌なこと言うんじゃないよ! 縁起でもない!! ・・・といっても、まあ覚悟はしてるけどさ。だってカルアだし」

「通信具の他にも何か必要なものがあれば用意しますから、そんなしょぼくれた顔しないでくださいよ。ね、校長」

「誰がしょぼくれた顔だい!?」



あ、次は入り口からオートカさんの登場。

「お待たせしました、校長」

「大丈夫、あたしも今来たところさ」

「どこのデートイベントですか・・・」


時々冗談みたいなのを入れてくるよね、ベルベルさん。

こういうとこ、やっぱりミレアさんの師匠なんだなあって。

あ、そのミレアさんも来たみたい。


「はあはあはあはあ、はあはあ、はあ、んぐっ、うえっ! はあ、はあ、はぁ、はぁ・・はぁ・・はぁ・・・、し、ししょー。お、おくっ、遅れずに・・きまし・・たよー」

「ああ、時間内だよ。いいから息を整えな、鬱陶しい!」

「ひっ・・ひどい・・・」


うんうん、今のは酷い。


「他人事みたいな顔してんじゃないよ! 一番酷いのはあんたなんだからね!!」


う、す、すみません・・・

あの、みんなも真顔で頷かないで・・・



「はぁ、じゃあまずはヒトツメのギルドに行くよ。詳しい話はそこでブラックと合流してからだ。モリス、全員転移しな」


あれ?


「あの、王都は門で出入りの記録を残す規則になってるからって、いつも門を出てから転移してるんですけど?」

「ふん。いいかいカルア、規則なんてものはね、文句言ってくる奴がいなけりゃあ守る必要なんて無いんだよ。後でバレようが、あたしと一緒だったんだから誰も文句なんて言いやしないよ」

「ええーー、それで良いんですか?」

「常識だよ! あんたももう少し常識ってもんを勉強しな!」


常識なの!? ホントに!?


「大丈夫、カルア殿の考えているとおり、規則を守るのが正しい常識です。ただ、それがマリアベル氏に通用しないというのもまた、この界隈かいわいでは常識なんです」


そんな! そんな常識って!! ・・・ちゃんと覚えておかなきゃ。


「さあほらモリス、とっとと転移しな。ブラックの奴が向こうで部屋を用意してるはずだよ」

「はいはい。じゃあみんな集まってー、よしじゃあ行くよ-。いちにの転移ぃ」




いつものギルドの部屋に転移すると、そこにはもうギルマスとピノさんが待っていた。

今日のピノさんは関係者っていうか「重要参考人」なんだって。んー、何だろ?

それでひと通りの説明と情報共有がすんで、次の話題は今日これからの事。


「要するに、昨日カルアが取った行動のうち、普段と違う何かに魔力急増の原因があるってことだ。それに、カルアが魔力バカになった原因にも繋がっていると睨んでるよ。あんたらだって興味あるだろう? こいつがたった数カ月で、人間離れした魔力量を持つことになった原因、ってやつにさ」


「うむ、たしかにそれには興味がある」

「私の本の読者さんからはー、『先生のおかげで魔力が増えました』とか『おかげで彼女とか彼氏が出来ました』、あと『人生がバラ色になりました。もう一生手放せません』なんて手紙が届いてますけどー、『人外になれました』なんてのは来たことないからね。だいたいあれって『あくまで個人の感想』だよー」


「それでカルアがやった普段と違う点だけど。まずは転移トラップをスルーしてダンジョンボスを倒したこと、金属バットの転移部屋をクリアしたこと、そしてその金属バットを晩飯にしたこと。まあこの三点なんだけどさ、これまでだってとんでもない速さで魔力が増えてきた訳だからね。それとも共通する部分はって言うと・・・」


「つまり一番怪しいのは、金属バットを食べたこと、という事ですか。そして金属バットは他の魔物より魔力を増やす効果が高かった、と校長は推測されているわけですね」

「ああ、よくわかってるじゃないかオートカ。まあそれだけじゃあないんだけどさ。あたしはそこにピノのやらかしも絡んでる、って睨んでるんだよ」

「え!? 私ですか? 私なにかやっちゃいました!?」


「まあまだ候補の一番手ってだけさ。というわけで今日これからの行動だ。いいかい、まずフィラストで昨日のカルアの行動をなぞってから、カルアの家でピノの金属バット料理を食べるよ。なんか質問は?」


なんだろう、それってすごく楽しいイベントみたいに聞こえるんだけど。


「はいベルベルさん、じゃあ私は皆さんがギルドに戻ってから合流ですね?」

「何言ってんだいピノ。あんたも一緒に行くに決まってんだろう」

「あれ、そうなんですか? 私最近狩りとかしてないからあまり戦えませんよ? だってほら、私のお仕事ってギルドの受付ですし」

「何とぼけたこと言ってんだい。金属バットの群れ程度、あんただったらひとりでだって軽く殲滅できるだろうが! それにさ・・・」


うわ! ベルベルさんのあの顔、いつもにも増して悪い顔!

「ピノあんた、カルアが魔物を狩るところ、見たくないかい?」



ダンジョンへは全員で行くことになりました。




ということでやってきましたフィラストダンジョン転送の間。

もう、ちょっと前まで馬車で揺られてここに来てたのは一体なんだったの?って感じ。

今じゃあこれが当たり前だって感じちゃってるんだから、慣れって怖いよね。


「じゃあ行きますね」

一歩足を踏み出して、部屋が赤くなって・・・

予定通り、そのままみんなで奥へ向かった。


「ふーん、たしかに魔物は1匹も出てこなかったねぇ。カルア君の言ったとおり、魔物部屋にリソースを集中してるからってのが正解なんだろうなあ。でもその割にコアの前で金属バットが出てくるとか、その辺りの整合性はどうなんだろうねえ」

「階段を降りるための条件にしているから・・・じゃあないですか?」


「ああそうか、そっちもあったかぁ。でもオートカ、そうだとすると前回カルア君は条件を満たしてるわけだから、今回は倒さなくても降りられるかもしれないね」

「たしかにそうですね。まあ今回は昨日と同じ行動をなぞるのが目的ですから、そのあたりの検証は次回で良いのではないですか? もっとも、条件を満たしているから今回は金属バットは出現しない、という可能性も否定は出来ませんが」


「あははは、どっちかねえ・・・ってどうやら出てくるほうが正解だったみたいだよ。まあ、倒す必要がないって可能性はまだ残ってるけどね」

「ほらほら、お喋りはそれくらいにしときな。じゃあカルア、昨日と同じようにやってみな」

「はい、じゃあ界壁を張るので皆さん集まってください」


界壁を張ると、みんな珍しそうに観察。

「ほほう、私の障壁と似ているようでちょっと違いますね。このあたりが光属性と時空間属性の違いなんでしょうか」

「そうだねえ。でもオートカ、カルア君は君の障壁を参考にしたって言ってたよ。つまり君がカルア君に見せた、あの障壁をさ」


「つまりあれですか、中からの攻撃を可能にしたと?」

「あったりー。大正解だ」

「それはまた・・・私結構苦労したんですよ、あれ開発するの?」

「そこはまあカルア君だからって事で、ね」

「まあ・・・そうですね、なら仕方ないか」

オートカさん! そこで諦めないで!!



今日の金属バットは水属性だったみたい。

水がぴゅーーーって。

「スティール」

「さあ、とっとと戻ってトラップに引っ掛かりに行くよ!」



転送の間に戻ったら、そこからヒュっと魔物部屋へ。

もうここには特に何もないかな。普通に殲滅っと。


金属バットが一体だけ出る部屋。

ここも今更だよねえ。はい、スティール。


そして到着、金属バットの魔物部屋。

いやあ、今日も眩しいね。

「ギラギラと鬱陶しい連中だねえ。まったく、年寄りの目には優しくないね。カルア、とっととやっちまいな!」

今回も4ターンで殲滅完了。ずっと僕のターン! なんてね。


「はぁー、それにしてもカルア君のスティールって本当に凄いんですねえ。今まで何度も話には聞かせてもらってましたけど、聞くのと見るのじゃ大違いです。うん、びっくりだ」


いやあ、それ程でもないですよピノさん!


「あんた、これじゃあ戦闘じゃなくって収穫って呼ぶべきだろうよ。まったく! 魔物がかわいそうに思えるなんて、人生で初めての経験だよ。カルア、あたしゃあんたに初体験させられちまったよ」


いやあ! やめてくださいベルベルさん!!




「じゃあ僕の家に向かいましょうか」

ダンジョンを出たらそのまま家の前に転移。

「どうぞ、みなさん」

「うむ、邪魔する」

「へー、かわいらしいお家ですね、ししょー」

「ああ、そうだねえ。なかなか小奇麗にしてるじゃないか。なあピノ?」

「なんでそこで私に振るんですかベルベルさん!」

「おー、カルア君ち、地下室以外に入るのは初めてだねえ」

「お邪魔します、カルア殿」


そしてそのまま台所へ。

「ほほう、これがカルアとピノの初めての共同作業・・・じゃなくって合作したって鍋かい。はぁ、しっかし魔石で鍋ねえ・・・カルアもカルアだけど、ピノ、あんたも相変わらず大概だねえ」

「もうベルベルさんっ! って、はあ、もういいです。じゃあお料理を始めますから、皆さん待っててくださいね」


そうして料理を始めたピノさん・・・をボカンと口を開けているみんな。


「ちょっと、あのピノ君の動き、いったいどうなってるのさ!? 僕の気のせいかな? ピノ君が3人くらいに見えるんだけど!?」

「いや、凄いとは聞いていたが・・・人間にできる動きなのか? いや、戦闘に置き換えてみれば・・・、ありえなくはないのか」


「ししょー!? あ、あれが伝説の『女子力』ってやつですか? だとしたら私・・・」

「安心おし! あれは違う。あれは『女子力』じゃあないはずだよ! くっ! 『女子力』は・・・『女子力』はそんな恐ろしい力じゃあないはずだ!」



あ、もうそろそろ出来上がるかな。じゃあテーブルを片付けてっと。

「皆さんお待たせしました-。これが昨日とまったく同じレシピと材料で作ったものです。どうぞ召し上がってください」



食べ始めたらみんな黙っちゃった。

うんうん。美味しいものを食べると、やっぱり誰でも静かになっちゃうよね。



「ししょー、『女子力』・・・」

「ああ、これは・・・、いや違うっ! これはまさか・・・そうか、これがっ、これこそがっ! 伝説の『スーパー女子力』だあぁっ!!」

「『スーパー』を引っ張るの、もうやめてぇーーーーーーっ!!」



この師弟コンビ、もうヤダ・・・

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