第39話 逆襲のフィラストダンジョンです
ピノさんへのプレゼント。
今決まっているのは、魔石を錬成したアクセサリーって事だけ。
どうしようかなぁ。
僕の願い・・・
そのアクセサリーが、綺麗で可愛くって、ピノさんの役に立って、ピノさんを守って、そして何よりピノさんに気に入ってもらえたら。
その為にできること、今の僕にできる最高のこと・・・
そう、最高の魔石を用意して、最高のデザインで最高の錬成をして、それに最高の付与をしよう。
まずは魔石か。今僕に用意できる最高の魔石っていったら、・・・やっぱり金属バットだよね。
今まで見た中で一番大きかったし。性能とかも他より良かったりするのかなあ。そうだったらいいなあ。
台座とかチェーンに使う金属はミヒャエルさんから良いのを貰った。あ、もしかして魔剣みたいにその金属と魔石を混合したら何かできるかも。
ああ、紛らわしいけど金属バットは金属じゃないよ。「金色属性バット」だし。
次は付与。んー、何を付与したらいいかな。『転移』とか『ゲート』はすっごく便利だよね。それと『収納』も。『錬成』は・・・うーん、いまいちピンとこないかな。『空間ずらし』は物騒すぎ! 『結界』は絶対付けたい。守り石ってやつ。あと他には何かあるかなあ・・・
デザインはあれだよね、この間王都のお店で見た、いろんなアクセサリー。あんな感じで可愛く作れたらいいな。ピノさんだったら絶対かわいい系のほうが似合うと思うんだよね。これは錬成でいろいろ形を変えながら考えようっと。
あ、その前に何のアクセサリーにするか決めなきゃ。どうしよう?
そういえば、昔母さんが持ってるアクセサリーを見せてもらったことがあったっけ。
父さんに貰ったとかって、いろいろ自慢してたなあ。
ふふ。今度は僕がプレゼントする事になったんだよ、母さん。
指輪? いやいや、さすがに僕でも知ってるよ。
指輪は意味深だからね。初めてのプレゼントで指輪とかありえないでしょ。
それはまた今度。
他には、ペンダントとかネックレスとかブレスレットとか、ってあれ? ペンダントとネックレスって何が違うの? うーん、よくわからないからどっちも「首飾り」ってことでいいや。
ブレスレットみたいに手に着けるアクセサリーって他に何かあったっけ・・・ナックルダスター? いやあれは武器だ。アクセサリーじゃないよ。第一ピノさんには似合わ・・・、あれ? 似合うのかな? いやでもこれは無し!
って、何で母さんのアクセサリーケースに? まさか、あれも父さんから!?
あとは・・・、ああ、髪飾り。バレッタとか
そうそう、ピアスとかイヤリングなんかもあったっけ。でもピアスって穴を開けなきゃいけないよね・・・うーん。あ、イヤリングだったらいいんじゃない? んーー、なんだかすぐに落ちちゃいそう。無くしちゃったら、きっとピノさん悲しむよね。
となると、首飾りかブレスレットのどっちか、だよね。
魔石を付けるなら首飾りのほうがいいかな。
ブレスレットだと、魔石を付けたら大きくて邪魔になりそう。
よし、首飾りに決定!!
それに明日の予定も決定。
明日はフィラストダンジョンに金属バットの魔石を採りに行こう。
さっき帰る時にベルベルさんが「明日は用事があるから休みだよ。来たって誰もいないからね! いいかい、来んじゃないよ! 絶対来んじゃないよ!!」って言ってたからね。
そんなに念を押さなくてもねぇ。誰もいないのに行くわけないよ。
逆に行きたくなったり・・・しないよ?
「おはようございまーす」
「あれ? おはようございますカルア君。今日はお勉強に行かない日って言ってたから、そのままお休みにするのかと思ってましたよ」
「最近ずっと勉強とかだったから、気晴らしも兼ねてちょっとダンジョンに行こうかなって」
「カルア君・・・」
「はい?」
「気持ちはわかりますけど! それにもうフィラストダンジョンに危険を感じないってのもわかりますけど! でもやっぱりダンジョンはダンジョンですからね! 気晴らしに行くなんて、そんな心構えじゃ駄目ですよ!」
うわっ、久しぶりにピノさんに本気で怒られた!
でも確かにそうだよね。これは僕が悪い。怒られて当然だよ。
「すみませんピノさん! 十分注意します! 絶対油断もしません! 心も入れ替えますっ! いえ、もう入れ替えましたっ! 新生ホワイトカルアですっ!!」
「くすっ・・・もう調子いいんだから。・・・でも本当に気をつけて行ってきて下さいね。前みたいな事は、もう絶対嫌ですからね」
「はいっ。もちろんです」
「よしっ、じゃあ気を付けていってらっしゃい。無事の帰還をお待ちしています」
「それじゃあ行ってきます」
ニヨニヨと笑顔を浮かべるみんなの見送りで、フィラストダンジョンに出発!
これ絶対さっきのピノさんとのやり取り見てたよね!? 聞いてたよね!?
「カルアぁー、気を付けて行けよー! ピノちゃん泣かせちゃあ駄目だぞー」
「前みたいな事は、絶対嫌だからなぁー」
ほらやっぱりっ! あーもうっ! すっごく恥ずかしいよっ!!
物陰でさくっと転移してダンジョンに到着っと。
「さあ、油断せずに行こう」
気を引き締め直してから入り口の装置にカードをかざし、ダンジョン内へ転移。
そこから一歩踏み出せば、ダンジョン内は赤い色に。うん、いつもどおり。
出口の転送装置にカードをかざすとトラップ発動、そして魔物部屋へ。これもいつもどおり。
「界壁」
展開したのは、オートカさんの「やりたい放題障壁」を参考にした界壁。
外からの攻撃は防いで、中からはやりたい放題。「ずるい」って言ってたのって誰だったっけ。スラシュさんだったかな?
目の前を埋め尽くす四種混合バットたち。当然界壁の中には入ってこれないけどね。
ああそうか、ひとりでこの部屋に来たのってあの時以来だ。思えばあれがすべての始まりだった・・・
そのあとは、調査団の人たちとかモリスさんやギルマスと一緒だったっけ。オートカさんだけはいつも必ず一緒で、僕たちを障壁で守ってくれてたなあ。
なんてことをしみじみ考えてたけど、うん、そろそろ頃合いだね。
じゃあ、空間把握からの・・・「スティール」
目の前に現れた魔石はそのままボックスに。
これを3回繰り返したら、トラップはすべてを出し尽くしたみたい。
バット素材は買い取り停止中だから部屋の隅に移動。部屋中スッキリ、階段の在り処もよく見えるようになった。
うん、収納を経由して片付けるのってすごく簡単便利だね。おすすめ。
階段を降りると、やっぱり出てきたのは金属バット。この間と同じだね。そういえば金属バットって、毎回属性が違うんだっけ。界壁を展開してるし、ちょっと見てみようかな。
・・・おお、火の魔法だ。火の塊がふよふよ飛んできた。界壁に当たってすぐ消えたけど。
なるほど、今回は火属性だったってことか。じゃ、
「スティール」
うん、やっぱり金属バットの魔石は他のよりちょっと大きいよね。ダンジョンのボスだからかな。
金属バットは売れるから回収して、っと。
下の階へは・・・やっぱり行けないや。うーん、何が条件なのかなあ。
上の階から扉を出て転送の間、そして外へ。うーーん、のびのびー。
さて、じゃあ2周目、行ってみよー!
そしてまた転送の間に到着。
なんだけど・・・あれ? そういえばこの先って、行けるのかな? いつも魔物部屋に転移してたから、行った事がないや。
よし、折角だから見に行ってみよう。
フィラストダンジョンは地上1階と地下2階の3階層。地下2階にはダンジョンコアがあって、結界に守られている。
のだけど、あれ? もうすぐコアに到着するはずなのに、ここまで魔物が1匹も出てきてないよ? ああ、もしかして魔物部屋に出張中?
ということで僕は今、ダンジョンコアの前にいまーす。
おおー、確かに結界に守られてるね。あ、この結界って時空間魔法の感じだ。ってそれはそうか、ギルドが管理してるんだから。魔道具は本部で作られたのを使うよね、ふつう。
それで部屋の隅には・・・ああ、あった。あれが監視の魔道具みたいだね。誰かギルドで見てるかな? 手を振ってみようかな・・・、うん、怒られそうだ。「ダンジョンでふざけちゃ駄目」って。やめとこうっと。
あれ? あれあれ? この感じってまさか!? ・・・ってやっぱり出た!!
でもどうして? コアが結界で囲まれてからは出なくなったんだよね?
なぜ出てきたの、金属バットさん!
でもまあ、とりあえず「スティール」。
もう出てこないかな? 出てこないよね? ボスだし。
・・・出てこない、ね。じゃあとりあえず金属バットさんを回収して戻ろうか。
転送の間に戻るまで、ずっと考えてた。予感っていうか、もしかして・・・
これで魔物部屋をクリアして金属バットも倒したら。
やっぱり!!
金属バットの部屋に出た階段、今度は降りられるよ!!
これはもう行くしかないよねっ!
ってことで階段を降りると・・・
「ちょっと! 眩しいんだけど!!」
部屋中金属バットで埋め尽くされちゃったよ!!
そして・・・何かいろいろ飛んできて界壁に当たってる。
火とか水とか石とか、よく見えないけど風とか。
そうか、金属バットの魔物部屋だったかぁ。
まあ、上の階も金属バットだったし、意外性はそんなに無いかな・・・
いや、でもちょっと待って。この部屋って実はかなり危険なんじゃない?
同じ属性の魔法で攻撃してもあまり効果ないし、どのバットがどの属性か見分けられないし。
やるとしたら、ひたすら物理攻撃するか、属性を見極めて魔法攻撃するか。でもどっちでやるにしても、この量を捌かなくちゃならない。
うん、やっぱり相当危険な部屋だね。ただしモリスさんは除く。
ってことで把握からの「スティール」。で、今出てきてるのは全滅と。
僕の場合は上の階とやること変わらないんだよね。
--スキルが進化しました
はぁぁ!?
この階でもやっぱり1回じゃ終わらなかった。
もうあと3回繰り返して合計4回、やっと追加バットが出てこなくなった。上の魔物部屋と同じ回数なのは偶然?
ともあれ、目の前の大量の金属バットとその魔石を全部回収して・・・っと。
あぁ・・・、これ、ギルマスになんて報告しよう・・・
目的の魔石も手に入れたし終了。で、もちろん帰りも転移で。
ギルマスへの報告は気が重いけど、だからって歩いて帰るのはちょっとね。
「ただいまー」
ほっとした顔のピノさん。やっぱり心配かけちゃってたみたい。
「おかえりなさいカルア君。大丈夫? 怪我とかしてませんか?」
「はい、大丈夫です。油断せずに行きましたから」
「ほ、よかった。じゃあ今から換金ですか?」
「あの、ギルマスいますか? 報告しなきゃいけない事があって・・・」
今度はハッとした顔になるピノさん。やっぱりそうなるよねぇ。
いやだって今までが今までだったし。いくら僕だって自覚はあるよ!
「・・・胃薬案件ですか?」
「ええ、たぶん・・・」
ピノさんの案内でギルマスの執務室へ。
ピノさんは部屋に入ってこない。きっとこれから胃薬とお茶の準備だ。あ、お茶じゃなくて
「さてカルア君、報告したいことがあるとか」
「はい。もう始めちゃっても大丈夫ですか?」
「ちょっと待て・・・すうぅぅぅ・・・はあぁぁぁ。よし、では話してくれ」
そしてギルマスに今日あったことを報告した。
赤くなったダンジョンをそのまま進んだ事、途中魔物が出てこなかった事、コアの間で金属バットが出てきて倒した事、転送の間に戻ったらトラップは普通に作動して魔物部屋に転送された事、金属バットの下の階に進めた事、下の部屋は金属バットだけの魔物部屋だった事、その下に進む階段がまた出たけど進めなかった事、そして最後に、スキルが進化した事。
話が進むにつれ、ギルマスは徐々に白くなり、スキルの進化の頃には真っ白になって俯いていた。
えっと、燃え尽きた?
そしてギルマスが左手をそっと前に差し出すと、いつのまにか部屋に入ってきていたピノさんがその手のひらにそっと一包。
続けて差し出された白湯でそれを流し込み、ピノさんにそっと一言。
「モリス氏を呼んでくれ」
「やあ呼んだかい? って呼んだんだよね。だって僕、呼ばれたから来たわけだし。ということで今日もまた跳んできたわけだけど、ブラック君、君、顔色が良くないねえ。何かやなことでもあったのかい・・・って、ちょっと待ってくれよ。今回僕のセンサーは無反応だったよ? まさか、まさかだけど・・・カルア君、また何かやっちゃったのかい?」
「スキルが・・・進化したそうだ」
「ごめん、ちょっとこれ聞き間違いかな? いや、よく聞こえなかったのかな? すまないけどもう一度、いいかい?」
「カルア君の、スキルが、進化した、そうだ」
「は、ははは、はは・・・・・・うっそ!?」
「それ以上ひとりで聞きたくなかったのでな。そこで話を止めてあなたを呼んだのだ」
ということで、もう一度経緯を説明。
「なるほど・・・ダンジョンを先に進むのは別におかしなことじゃない。魔物だって出てきたのを倒しただけ。階段は・・・まあ行けるようになったから行っただけって言えるか。で、スキルの進化は別にカルア君が起こした行動ってわけじゃないし。うん、これはセンサーに引っかからなくても仕方ないか」
「モリスさん、問題はそこじゃない。そろそろ現実逃避は終わりにしないか?」
「ひとりで聞くのが嫌だったから僕を巻き込んだくせに」
「すまないとは思っている。だが、より
「そうだけどさ。それはそうだけどさ! でもやっぱりねぇ。・・・・・・よし! もう切り替えた! 切り替えたよ僕は! そうさ、確かにこうしてても仕方がない。それじゃあカルア君、君のスキルが一体どうなったのか教えてくれよ」
「ちょっと待ってくださいね。実は僕も怖くってまだ見てないんです。今見ますから・・・えっと、コアスティール
「コアスティール
「はい、ゲートのままです」
「よかった。そっちまで進化してたりしたら、収拾つかなくなりそうだからね。うん、きっとゲートは大丈夫! ってことでコアスティールだ。それで何か変わった感じはあるかい?」
「いえ。残りの金属バットは進化したスキルでスティールしたんですけど、別に変わった感じはしませんでした」
「ふーむ、そうすると何が変わったんだろうねえ。まさか冗談で言ったダンジョンコアのスティール? いや、それこそまさかだよね。さすがにそんな簡単じゃないだろう。でもカルア君、間違ってダンジョンコアに向かってスティールしたりしないでくれよ? 大丈夫だとは思うけど、一応念の為ね」
「はい、気を付けます」
「とすると後はなんだろうねえ。今までスティール出来なかった魔物にもできるようになるとか? うん、それだったら可能性はあるか。君はまだこの付近の魔物にしか遭遇していないからね」
「はい、ダンジョンと森の魔物だけです」
「とすると、魔道具のスティールでも早いうちに他の魔物を試したほうがいいか。いや、もうどこかの機関でやってるかな。ってことでブラック君、とりあえず今日はここまでって事にしようよ。いいかな?」
「いや、あともう一点だけ。大量の金属バット素材があるらしいのだが、世に出していいものかどうか」
「別にいいんじゃない? 地下2階への行き方も合わせて公表しちゃいなよ。どうせ時空間魔法の適性がなきゃ行けないんだし、たいした騒動にはならないでしょ。それに、カルア君もまだ『固定』はできないんだから、ほっといたらボックスの中で全部腐っちゃうよ?」
うわ、嫌な想像っ!!
「わかった。ではそうするとしよう」
「うんうん、じゃあ僕は今度こそ戻るから。カルア君とピノ君も、またねえぇぇ・・・」
「ねえカルア君?」
「はいピノさん?」
「今日の晩ごはん用に一体確保ですよ。ふふふ、金属バットってどんな料理が合うかしら。いろいろ挑戦してみたいな」
「じゃあ残りはすべて買い取りでいいかな? 報告もすべて終わったようだし、金属バットは解体部屋に出していってくれ。魔石はどうする? これまでのものと一緒にここで保管するか?」
「いえ、今回の分は持っておくことにします。ベルベルさんのところでも使うかもしれないし」
「そうか、わかった。では以上だな。報告ご苦労」
今日の晩御飯は金属バットのフルコースだった。
金属バットのサラダに始まり、金属バットのスープ、金属バットの角煮、金属バットのステーキ、金属バットの炊き込みご飯・・・
どれもすっごく美味しかった。
金属バットの肉が美味しいのか、ピノさんの調理技術が凄いのか。いや、たぶんその両方だろうな。
でもピノさん、金属バットのパフェはちょっとやりすぎじゃない?
そして今日も寝る前に魔力トレーニング。
最近の悩みは、魔力を空っぽにするのが大変なこと。
効率よく魔力を消費する方法ってないのかな。今度ベルベルさんに訊いてみよう。
よし、なんとか空っぽになったから、あとは寝落ちするまで・・・
そして次の朝。
「なんで急にこんなに魔力が増えてるのーーっ!?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます