第38話 似た者同士って事じゃないですか

スーパーカルアだああぁぁーーーっ!


・・・うわああぁぁぁ!! スーパー恥ずかしいっ!!


魔力の循環がだんだん収まって、ベルベルさんに「今のこれがアイドリング状態だね。もし循環が止まりそうになったら意識してこの状態に戻すんだよ」って言われた頃になって、やっと普段のテンションに戻れたけど・・・


今になってみればさ、魔力がぐるぐる回って気がたかぶってたせいだって分かるよ?

分かるけどさ・・・

ああっ! どうしてあんな事を言っちゃうかなぁっ!!

さっきの僕の馬鹿っ! 封印しなきゃいけない黒歴史が増えちゃったじゃないかっ!!


あーもうっ! 穴があったら入りたいよ!

いや、むしろ率先して掘りに行きたい気分だよっ!

そうだよ、土魔法でさっ!!


って、あ、土魔法しらない・・・


「あのミレアさん、僕、土魔法って錬成しかやったことないんですけど、今穴があったら入りたい気分なんですけど」

「ああそっか、掘りたいのね? うんわかるわかる、だってスーパーだもんね」

「ぐはぁぁっ」

「ああっ、ごめんねカルアくん! 追い打ちとかじゃないから! 単なる同意だから! 同調だから! えぐってないから! ね?」


ポロっと零れた言葉の刃が、今の僕には鋭利すぎる。


「・・・、大丈夫、大丈夫です。そ、それで、『ゴブま』に書いてあった地形操作って、やっぱりそういう事ができる魔法なんですか?」

「そうだね。土を動かす魔法だから、いろんな事ができるよ。穴を掘ったり埋めたり、固めたり耕したり。土木建築農業と、もうどの分野でも大活躍の魔法だねっ」


「『ゴブま』でも土魔法をすごく褒めてましたよね」

「便利だからね。仕事に就くなら一番有利な属性じゃない? これに水属性まで持ってたりしたら、もう一生安泰ね。左団扇よ左団扇」


「さあふたりともそのへんにしときな。そろそろ魔力操作に戻るよ。カルア、あんた今ようやく魔力が循環するようになったんだ。言ってみれば、やっと人並みになったってところなんだからね。今日やるはずだった魔力操作の訓練は、今これから始まるんだよ」


あ、そうだった。

なんとなく雰囲気と勢いでもう終わったみたいな気分になってたけど、一番最初でつまづいてたんだった。

ミレアさんも「あっ」って顔してこっち見てる。やっぱり勘違いするよね。

ってあれ? なんか表情が険しくなった?


「あれれ? ちょっと待ってください、ししょー」

「さて、それじゃあまずは・・・って、急になんだいミレア?」

「カルアくん・・・、魔力増えてない?」


ミレアさんの声に、ベルベルさんもじっと僕を見て・・・うう、居心地悪いよっ。


「確かに増えてるね。っていうかこれは・・・」

「ししょー、ひょっとして何か分かりました?」

「多分だけどね。これ、増えたんじゃあないよ。魔力が循環するようになった事で、本来の量を感知できるようになったんだ。つまり・・・」


「もともとこれだけの量を持ってたってこと? いや、だってこれ、ししょーの10倍くらいありません?」

「まずい、まずいよこいつぁ。この魔力量を見られただけで、カルアがおかしいってばれちまう。どうする? どうしたらいいってんだい!? ミレア、あたしたち、やらかしちまったよ!!」


「ししょー、『あたしたち』じゃあないですよ。私はししょーに言われたとおりのお手伝いしただけですから、カウント外です」

「あんた、ひとりだけ逃げる気かい!? 逃がしゃあしないよ。あたしが一体何のためにあんたを魔法師長にしてやったと思ってるんだい!?」


「この為だった!? ししょー!?」


「まあ何もあんたひとりに押し付けようなんて思ってないから安心しな。あたしも一緒に解決策を見つけてやろうじゃないか。ふふふ、なに礼は要らないよ。師弟ってのは一蓮托生ってもんだからね」

「ううう、いつの間にか師匠が私の手伝いするみたいになってるし。私ぜったい弟子入り先を間違えたよー」

「ほら、いつまで泣き言言ってんだい! さあ、さっさと気持ち切り替えな!!」


ええっと、僕、いつまでこのコント見てたらいいんだろう・・・

なんだか今回は僕が何かしちゃったわけじゃないみたいだし。

あれ? でも結局一番困るのってやっぱり・・・僕?



「ミレア、魔力の隠蔽ってまだ実用化されていないのかい?」

「はい。研究段階ですけど、まだ取っ掛かりも見つかっていません」

「駄目か。じゃあ魔力の吸収や放出は?」

「吸収はたぶんカルアくんの魔石を使えばできると思いますけど、この魔力量だと・・・」

「あっという間に頭打ちか。なら放出はどうだい?」

「出来なくはないと思いますけど、その放出も一緒に感知されちゃいますよ?」

「チッ、それじゃあ何の解決にもならないね。もっと他には何かないのかい!?」

「あとは何か魔法を発動し続けて、常に魔力を空っぽにしておくとか」

「それじゃあ逆に最大量がどんどん増えちまうだろう!?」


なんだか難しい話をしてるけど・・・

「あのー・・・」

「何だいカルア? 今あんたの事で頭を悩ませてるところだ。たいした用じゃなけりゃ後にしな」

「いやその、魔力の循環、めましょうか?」

「「それだあっ!!」」


てことで循環を止めて、っと・・・

「今止まりましたけど、どうですか?」

「さっきまでの視え方に戻ったね・・・」

「ていうかししょー、こんな簡単な事に何故気付かないんですか!!」

「あん!? そりゃあんたもだろう!? サラッと自分のこと棚に上げてんじゃないよ!! ったくどこでそんなに性格ひん曲がっちまったんだいこの娘は!」

「むー、私は素直ですー、ししょーの影響ですう」


はぁ、またコントが始まったよ。

それにしてもなんかこのふたりって、全然違うタイプに見えて実は似た者同士?

いや、っていうか、このままケンカ別れとかしないよね!?

そんな事になったら、すっごく気まずいんだけど・・・



「さてと、それじゃあそろそろ次の訓練に進むかね」

「ふふー、さぁさぁやりましょー、ししょー」


え、終わったの!? そんないきなり!?

えーっと・・・、まさかホントにコントだったなんて事、ないよね?

どうしよう、このノリについていける自信がないんだけど。

どうしよう、もう弟子入りしちゃったんだけど。



「いいかいカルア、あんた普段は今までどおり魔力は循環させないでいな。それで魔法を使う時だけ瞬間的に循環させるんだ。って事だから、最初に必要なのは素早く循環と停止を切り替える訓練だ。なに、これだって魔力操作のいい訓練になるからね。かえってちょうど良かったってもんさ。さあ、それじゃあ10秒おきに循環と停止を繰り返しだ。そら、始めな!!」

「はいっ」



それから色々教えてもらって、魔力操作の訓練が終了。

ホントの魔力集中もちゃんと使えるようになったし、循環と停止もパパっとできるようになった。あと身体強化スーパーモードも。

そして『ゴブま』には魔力操作の項目が追加されたんだけど・・・


◇◇◇◇◇◇

【魔力を動かす】

魔力操作はすべての基本。動かせないなんてもうホントだめだめですよ。

体の中をぐるぐる回して必要な所にはギュって集中。魔力循環きっちり回せ。

1.体の中を回っている魔力を感じ取りましょう。自分の中に集中して。

2.右手の魔力の流れをせき止めてみて。溜まったら今度は流す。繰り返して。


◆ポイント

・右手が疼く? じゃあ次は左眼を試してみて。10代なら何かに目覚めるかも。

・魔力循環の速さを変えるのもいい練習。目指せスーパーモード!?

・体に魔力が回ってない? あー、そんな人もいたなあ。ひとりだけ。

◇◇◇◇◇◇


ところどころに特定の誰かへの悪意を感じるのは、・・・僕の気のせいかな?





翌日。

今日は歴史とか計算とかの一般教養を勉強する日だって。

そういう勉強も嫌いじゃないけど、やっぱり魔法とかのほうが楽しいよね。

まあ試験に出るんじゃ、やらないわけにはいかないんだけどさ。


と思ったら、途中でミレアさんが乱入。

「ししょー、カルアくんの魔石についてオートカ先輩に訊きたいことがあるんですけど、呼んでもらっていいですかー」

「うちの通信具は今故障中だよ。直接行って呼んできな」

「ちぇー、わかりましたよー。早く直しといてくださいね」


そう言って飛び出していくミレアさん。

今日も飛ばしてるなあ。


「あれ? モリスさんみたいに手紙を転移させたりってしないんですか?」

「ああ、あたしもミレアも時空間魔法の適性はそんなに高くないからね。オートカの所までだとちょっと遠すぎるのさ」

「そうなんですか。なんかちょっと意外です」


「あんた、何か勘違いしてるようだけど、時空間魔法の適性って相当レアなんだよ? ちょっと適性があるだけでも凄いことなんだからね」

「え? でもモリスさんとかスラシュさんとか・・・それにジェニさん達とかも」

「やっぱりね。あいつらは国中から集められた時空間魔法のエリート集団だよ。魔法を覚えたてであんな連中とばっかりつるんでたら、そりゃあ勘違いもするだろうさ。それにあんた自身も・・・こんなんだからねぇ」


こんなん・・・って。


「まあうちにもバカみたいに時空間適性が高いむすめがひとりいるんだけどね。あのがいれば頼めるんだけど、まったく何処をほっつき回っているんだか」

「へー、その人ってベルベルさんの娘さんですか? 一度時空間魔法の話を聞いてみたいです。会ったことないけど、いつも何処かに出かけてるんですか?」


「ああ、あたしの下の娘さ。あのもあんたと同じでカバチョッチョが大好きでね、『ちょっとカバチョッチョの足跡そくせきを辿ってくるね。聖地巡礼ってやつ?』なんて言って何年か前に飛び出して行っちまったんだよ。たまに一瞬だけ戻ってきちゃあまたすぐにどっかに跳んでっちまうんだ。さて前回帰って来たのはいつ頃だったかねえ」


聖・地・巡・礼!

なんて羨ましい!!

それにしても「ちょっと」が年単位でって、スケールが凄いな。


「ぜひ聖地巡礼の話を聞いてみたいです! 今度戻ってきたら伝えてもらっていいですか?」

「まあ、そう言うと思ったよ。あんただしね」

「あ、あははは・・・ええっと・・・あ、他のご家族はどうしてるんですか?」


「ああ、上の娘はもう結婚してるよ。そうそう、その娘の子供が魔法クラスに通ってるんだ。あんたが編入する学年だから仲良くしてやっとくれ。あたしの孫娘だけあって、あたしに似て美人で性格もいい娘だけど・・・、手を出すんじゃないよ?」


「出しませんよ! ・・・・・・・・・・・・ピノさんがいるし」

「あん!? 何だって?」

「なっ、何でもありませんから! それよりも勉強の続き、お願いします」

「ああ、そうだね。もう時間も少ないからね、詰め込むよ!」





基礎魔法研究所、所長室。

先ほど訪れたモリスにより、今日は普段とは違ってかなり賑やかである。


「いやあ、こうしてオートカの部屋に来るのも久しぶりな気がするねえ。前来た時と全然変わってないじゃない。相変わらず殺風景な部屋だねえ。ぬいぐるみでも並べてみたらどう?」

「いや、ここは仕事場で私の部屋じゃありませんよ? それにぬいぐるみというのは・・・糸くずが舞って機材に悪影響がでそうですからね、やめておきましょう」


「あはははは、気にするのはそこか。なんとも君らしいよ。それにまあ、ぬいぐるみってのはどちらかというとミレア君の趣味って感じがするよね。ああ、ミレア君といえば、この間の突然の襲来には驚いたねえ。そのうえまさか彼女までチーム入りするなんてさ。あの場の成り行きとはいえ、これもまた想定外の出来事だったねえ。あそうそう、ミレア君の事だけどさ、君たちそろそろくっついちゃいなよ」


「なっ!?」


「そんな驚く事かい? 君だって彼女の気持ちには以前から気づいているだろう? あれだけあからさまなんだしさ。彼女、僕たちの一学年下だったよね。あれ、でも彼女も飛び級してるんだっけ? でもきっと僕たちとそんなに年は離れてないよね?」


「彼女は2年飛び級ですよ。我々が1年飛び級ですから、年齢は2才下になるはずです」

「へえぇ、オートカもちゃんと彼女のこと把握してるんじゃない。君だって彼女のこと憎からず想ってるんだろう? あんまり待たせちゃ悪いよ?」


「ええ、まあ・・・」


「いやあ、しかし彼女も優秀だねえ。18才で王宮魔法師長やってるんだからねえ。歴代最年少なんだろう?」

「それは我々も同じですけどね。校長ので当時の連中の役職が軒並み空席となりましたからね。まあ、そこにねじ込まれた我々は『ベルマリア女史の手駒』なんて陰で言われてますけど」

「あははは、まあやり易くていいじゃない? 煩い連中はいないし風通しはいいしね」

「ふっ、確かにそうですね」



トゥルル トゥルル トゥルル

机で鳴ったのは、所内有線通信具内線だ。

オートカが3コールで応答ボタンを押すと、スピーカーから受付の声が流れた。

『所長にお客様です。応用ま・・・あれ!?いない!?』

「オートカせんぱーい、ミレアが研究のお誘いにきま・・・げ、モリス先輩!?」


「ああ、もう来たようだよ。はは・・、すまないね、ありがとう」

『・・・はい、失礼します』



「それで今日はどうしました、ミレアさん?」

「魔石の件でししょーの所だったんですけど、通信具が壊れてて来ちゃいました」

「それは、『魔石の研究でマリアベル氏の所に行った』ら『私に用があり連絡しようとした』けれども『マリアベル氏の通信具が故障していた』ために『直接ここに来た』、という事でいいですか?」

「さすが先輩、ちゃんと私の言うことを理解してくれるんだから! ステキ!」


「いやそれはミレア君が端折はしょりすぎるからじゃあ」

「モリス先輩、ステイ!」


「ははは・・・オートカが『ステキ』で僕には『ステイ』か・・・ミレア君は相変わらず僕に手厳しいなあ。はあ、一体なんでこんなに嫌われてるんだろう?」


「わかりました。じゃあ我々もあちらに移動しましょう。受付に外出を伝えて・・・よし、モリス、転移をお願いします」

「はいはい了解だよ。他に忘れ物とかないかい? 大丈夫? よし、じゃあ『転移』っと」





「ししょー、ただいまー。オートカ先輩を連れてきましたよー」

「あーあ、うるさいのが帰ってきちまったよ」

「煩いなんて酷いですよ、ししょー。あ、モリス先輩お疲れ様でした。もう帰っていいですよ。ヵェ✓」

「いや君のが酷くないかい!? っていうか今最後に『帰れ』って言わなかった!?」



「あのベルベルさん? なんでミレアさんってモリスさんにだけあんな感じなんですか?」

「ああ、あれはキャラかぶりの同族嫌悪ってやつだよ」


「はあっ!? ちちちっ、ちっがーーーーーーうっ!! ししょー、それはあまりにあんまりですっ! いくらししょーだからって、言っていい事と悪いモリスがあるんですからね!! 私とモリス先輩の何処がキャラかぶりだっていうんですかっ!!」

「はは、さらっとまた僕の事ディスってるし・・・」


「人の言う事ろくに聞かずに言いたい事だけだらだら喋るトコだろ、人の迷惑考えずに突っ走るトコだろ、やたらとオートカに絡むトコだろ・・・」

「ああ、言われてみれば確かに行動がよく似てるかも」

「まあ、そういう事さ」


「いやあああぁぁぁーーっ!! うっそぉぉぉーーーーっ!!」



「そういうやかましいトコもだよ!!」

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