第27話 スティールの魔導具の試作品です

モリスさんの短期集中訓練が終わって1ヶ月、魔力があるときは時空間魔法のトレーニング、魔力が尽きたら魔力トレーニングな日々だった。

そのおかげで収納とボックスは構えなくても自然体で使えるようになったし、遠見や転移も動作の中に自然に組み込めるようになったんだ。


あ、そうそう、収納魔法って魔力が尽きると中の物が出てきちゃうみたいな話だったけど、僕の場合は魔力が回復するまで取り出せなくなるだけだった。

うっかり魔力トレーニングやろうとして魔力を使い切った時に気づいたんだけどね。

うん、そうじゃなかったら部屋がグチャグチャになるところだったよ。


この違いはすっごく大きいと思う。安心して魔力を使い切れるからね。

でも、これもまた普通じゃなかったらどうしよう。

今度モリスさんに会った時に詳しい話を訊いてみよう。

また変な顔されないといいんだけど・・・


魔力はトレーニングでかなり増えた。

今では王都まで転移で往復してもまだかなり余裕があるほど。

魔力トレーニングするために魔力を空っぽにするのがだんだん大変になってきたのが最近の悩みなんだよね。


すごい早さで魔力が増えたのは、きっとマリョテインのおかげ。

ホント、ピノさんにはどれだけ感謝してもし足りないよ。

そのピノさんだけど、前に約束していた王都行きの日が決まったんだ。


行くのはピノさんの次の休みの日。

マリョテインの材料が少なくなってきたんだけど、いくつか王都じゃないと手に入らない物があるから早めに行きたいんだって。

うーん、今から行く日が楽しみっ!



そんなある日、っていうか今日なんだけど、ギルドに顔を出したらそのままギルマスの執務室に通されたんだよね。

なんだか久ぷりのパターン。


「カルア君、よく来てくれた。実は先程モリス氏から連絡があったのだ 。 コアスティールの一般化技術が確立したと」


おお、さすがモリスさん。ついに誰でも魔石をスティールできるようになるんだ。


「何やらカルア君から貰ったプレゼントがヒントになったと言っていたよ。これから説明に来るそうだ」

「え? モリスさん来るんですか? うわぁ、久しぶりだなあ」

「そうだな。いい機会だから質問したいことなどまとめておくといい。もう少ししたら来るだろう」



そしてやってきたモリスさん。


「いやあブラック君もカルア君も久しぶりだねえ。どちらも変わりないようで何よりだよ。僕かい? 僕は今日も絶好調さ。なんたって大きな問題がひとつ解決したんだからねえ。これで調子が悪かったらじゃあ一体いつなら調子がいいんだって話だよ!」


うん、相変わらずのようだ。


「久しぶりですモリスさん。ギルマスから聞きました。誰でも魔石のスティールができるようになったって。こんなに早くできるなんて思ってませんでした。凄いですね」

「ふふん、そうだろうそうだろう。といってもまあ、色々悩んだ結果、決め手となったのはオートカが記録した金属バットへのスティールの魔力データと君から貰ったゲートの魔石だったんだ」


「ほほう、そのあたり詳しく教えてもらえるかな」

「もちろんさ。なんたって今日はその為に来たんだからね。もういきなりその話を始めちゃっていいかい? 僕はもう話したくってうずうずしてるんだけどね」

「是非頼む。だがまずはあちらのソファに移動しよう。ピノくん、お茶を頼む。君も参加するようなら君の分もな」


そして僕達はソファに場所を移した。

でもまだ話が始まる気配はない。本題に入るのはピノさんが来てからってことかな。

だったら今のうちにアレを訊いてみよう。


「モリスさん、ひとつ訊きたいんですけど」

「うん、何だい? 何でも訊いてくれよ。僕と君の間に遠慮なんて無用だからね」

「はい、ありがとうございます。それで訊きたいことっていうのは、収納とボックスについてなんですけど。以前モリスさん朝起きると収納した物が飛び出してるって言ってましたけど、あれって魔力が切れるからですか?」


「ああなるほど、その話ね。実はそれには2つのパターンがあってね、まずひとつ目はカルア君の言うとおり魔力切れによるもの。もうひとつは寝ている間に魔法を解いてしまう場合だね。これはほら、一度発動したらあとは放置できるスキルとは違って、魔法って意識しながら魔力を操作し続けるものだから」


ああ、なるほど確かに。


「あと魔力切れだけど、この場合は収納でもボックスでも同じように中の物は出てきてしまうよ。ただ違うのは魔力の消費量だね。何故かスキルになると魔力の消費量が凄く少なくなるからね。これはボックスに限らず他のスキルにも言えることなんだけど」


ふむふむ。


「でもカルア君、君の事だから本当に訊きたいことはそれとは違うことなんじゃあないかい? さあ、僕の準備はできてるよ。一体何が訊きたいんだい?」


さすがモリスさん、お見通しかあ。


「実はですね、僕この間うっかり収納したまま魔力を使い切っちゃったんですけど、中の物が出てこなかったんです。出し入れができなくなっただけで、収納自体はできたままだったんです。それで魔力が回復したらそのまま取り出すことができました」


「おっと、そう来たか・・・。うん、その挙動の事例は聞いたことないなあ。でも非常識とか想定外とかいうより、どちらかというと『興味深い』ね。イメージの仕方が他と違う感じなのかなあ。考えられるのは例えば・・・そう、空間を圧縮するというよりは、完全に別の空間に部屋を作る。これは君が以前に言っていたことだよね。僕の『空間ずらし』から着想を得た君独自のイメージだ。それを聞いた時に、もしかしたらとは思ってたんだ。想像するに、君の場合、その空間に対する『ゲート』によって出し入れしてるんじゃないかな。だから魔力を流さなくても空間自体は維持される」


おお、既に可能性として想定してたんだ・・・

さすがモリスさんだよ。さすモリだよ。


「それでね、まああまり考えたくない話ではあるけど、ボックスの使用者が死んだ場合だ。一般のボックスは中の物がすべてその場に現れる。一方で君の場合はおそらく誰も取り出せなくなるんだろうね。誰か中身を引き継ぎたい人がいるようだったら、スペアキーのような取り出せる手段を開発しておいたほうがいいと思うよ」


「ああ、それは大事なことかもしれませんね」


「そうだね。残念なことに冒険者の命は軽い。君も信用できる相手や家族ができたら考えてみたらいいよ。それとこの話とは別に、インフラ技術室の立場としては、この特性について考慮しなければならないことがある。それは魔法の鞄への付与についてだ」


「魔法の鞄、ですか?」


「そう、魔法の鞄に使用する場合、防犯の面で君の収納のほうが優れている。今の鞄はロックを掛けても盗まれて破壊されたら中の物は全て奪われるからね。もし君の収納を付与できるようになったら、例え鞄が壊されてもロックを解除されなければ中の物は奪われない。しかもスペアキーさえあれば持ち主が取り出すことができるだろ?」


「なるほど・・・」


「カルア君、この技術は画期的で革命的だ。そして何より素晴らしい点は、単なる新技術として公開できるから、君の身に危険がないということさ。ただ逆にクリアしなければならない点もある。それは空間へのアクセス方法がゲートに近いということ。ここに代替え技術を用意することさえできれば、大量生産で大儲けできるよ。やったねカルア君。これで遠い将来冒険者を引退しても安心だ。やっぱり冒険者たるもの、引退後の生活もちゃんと考えておかないとね」



そこにピノさんがお茶を持って戻ってきた。

そしてお茶を出し終え、そのままソファに座る。


「やあピノ君、お茶ありがとう。実はここに来ると君のお茶が楽しみだったりするんだよ。うちのロベリーも君の入れたお茶は美味しいって言ってたけど、うん、確かに美味しいよね」

「あれ? ロベリーって本部勤務って聞いてましたけど、インフラ技術室にいるんですか? っていう事は、もしかして付与術師として?」

「まあ、それも時々やってるけど、今は本人の希望で僕の秘書が主業務かな。ああ、君に会いたがってたから、カルアくんの件が落ち着いたら連れてくる約束をしてるんだ。まあ君たちが王都に来るのが先になりそうな気もするけどね」


「そうですね。王都へは近々行く予定です。ロベリーと予定が合えばいいんですけど」

「日が決まってるようなら伝えておくよ」

「ありがとうございます。こちらは私の次の休みに行く予定になっています」


「了解、そう伝えておくよ。ところで君のいない間に、カルア君が将来お金持ちになるかもって話をしてたんだよ。何だか君も無関係じゃあなさそうだから、後で彼に聞いてみたらいいと思うよ」


「ふふふ、そのあたりはカルア君の判断に任せます。カルア君、その話は今すぐじゃなくていいですからね。色々あって大変だけど、まずは冒険者として頑張りましょうね。それがカルア君の夢だったんだから」


「はい! ピノさん!」


「おっと、これは余計なお世話だったねえ。じゃあまあ、そろそろ本題に入ろうか。世界の技術革新とカルア君の安全の話にね」




「さて、以前僕が時空間魔法で魔石のスティールを再現した話はしたよね。あれって、カルア君のと比べてふたつ改善しなければならない点があったんだよね。それはスティールに膨大な魔力が必要だった点と魔石の純度だ」


魔力量と純度・・・


「なぜ大量の魔力が必要なのか。僕はその考察から始めた。考察にあたっては、まず初めに魔物の抵抗によるものと仮定した。つまり、魔物自身の魔力による自己防衛を突破する為に消費したってわけさ」


魔力による魔石の綱引きみたいな感じかな?


「だとしたら次に考えるべき事は、僕の再現とカルア君のスティールの差だ。ここでオートカのデータが役立った。カルアくんが金属バットの魔石をスティールしたときのデータだ。比べてみて分かったよ。僕が座標指定してそのまま魔石を転移させていたのに対し、スティールでは座標指定した魔石を『自分の魔力で包んで』から転移させていた。しかも包んだ魔力はその形を保ったままごく短い時間魔物の体内に残り続けたんだ。その結果、魔物が自分の中から魔石がなくなったの気づくのはスティールした後ってことになる。凄いよね、本当にスティールしてたんだよ。それと比べたら僕のは『強奪』だよ。そりゃあ抵抗もされるよね」


スティールスキルってそんな事までしてたんだ・・・

自分のスキルなのに全然知らなかった。


「そうとなれば、あとは実証実験だ。ってことで実際に魔物に試したんだけど、効果は劇的だったね。とてもスムーズに魔石を取り出せたよ。ただ、どうしても完全な透明にはならなかったんだ。次の疑問は、この不純物は一体何か? という事だった」


少し黒っぽくなるあれの事か。


「ただこれについては、おおよその見当はついていたんだ。通常の魔石と透明な魔石の特性の違いからね。通常の魔石はその魔物の性質が反映されていて、後からの魔力注入を受け付けない。一方で透明な魔石は一切の性質がないニュートラル、そして魔力の注入を受け付ける。だったらその違いは明白、魔物自身の魔力を含んでいるか否か。つまり魔物の魔力が不純物の正体ってわけさ」


「魔物の魔力、ですか」


「そう。君たちはもちろん実体験として知ってるよね。魔物には血液がないって事をさ」

「ああ、そうだな。動物には血液があるが魔物にはない。魔物は魔力を生命活動のベースとする故に血液を必要としない身体構造となっている、確かそういう話だったはずだ」


へーー、そうなんだ・・・なんだか魔物って解体が楽でいいなくらいにしか思ってなかったよ。


「うん、ブラック君の言うとおりだよ。そしてその魔力の流れの中心になっているのが魔石なんだ。それでさ、スティールの挙動にものすごく繊細な部分があって、どうやらそこで体内を循環して戻ってきた魔力が魔石に入るのを防ぎつつ、魔石に残った魔力を体内に送り出しきった瞬間に転移させているらしいんだ。これをどうやっても再現できなかった」


「え? それじゃあどうしたんですか?」


「うん、それについては諦めたんだ。完全な透明と比べると多少効率が悪くなるけど、十分実用範囲内の性能はあったからね。この魔石でも、後からの魔力のチャージと付与のどちらもできたんだよ。だから実用化を優先して、この状態で完成とした。カルア君の完全版はたまたまできた高品位なものとして販売することができるだろう」


すごいや。これで同じ動作をすれば完全にスティールできるって事だ。

あれ? でもこれって難しくない?


「なるほど。ということは、残る部分はそれを誰でもできるようにすること。であれば魔道具化する、ということか」


「そのとおり! どうしようか悩んでいた時にカルア君から貰ったゲートの魔道具が目に入ったんだ。ああそうか、スティールスキルを付与すればいいんだってね。まあスキルを解析した魔法だからスキルそのものじゃあないんだけどさ。でもこの魔石だったら魔法を付与できるからね。ということで出来上がった試作品がこれさ」


若干黒みを帯びた魔石で作られたスティールの魔導具をテーブルに置いたモリスさん。

そのまま、全てを出し切ったかのようにソファに沈み込んだ。



「さてカルアくん、これであと残された大きな課題は遠見による音の感知くらいだ。そして学校の新年度は数ヶ月後。そろそろどうするか決めておいてくれよ。入学するならば僕からも推薦状を書くからさ。僕の一番弟子って事でね」

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