第25話 収納魔法じゃなかったみたいです
フィラストダンジョンからギルドに戻ると、ちょうどモリスさんも王都から戻ってきたところだった。
「やあ、やっぱり同じくらいだったね。ブラック君、魔物部屋はどうだった? と言っても『カルア君の【スティール】がどうだった?』についての答えが返って来るんだろうとは予想しているけど」
「……」
「……」
「おや、ブラック君もオートカも何だか疲れてるようだね。あれから何か疲れるような事でもあったの……って、まさか……いやまさかね。流石にそれは無いよね?」
「実はカルア殿が――」
「ちょっと待ってオートカ! 深呼吸するからちょっと待って!!」
「はあああぁぁぁふうううぅぅぅ……よし、ドンと来い」
「カルア殿が【収納】を使いました」
「がふっ! ……いや大丈夫、大丈夫……一応、覚悟した範囲内だよ。半信半疑ではあったけど」
「カルア君、【収納】出来るようになったっていうのは本当かな? ちょっと見せて貰ってもいいかい?」
「はい」
さあ、モリスさんびっくり作戦発動だ!
僕が【収納】の魔力の板を出すと――予想していたのとはちょっと違うリアクションが返ってきた。
「ん? ……これ……何?」
「【収納】の入り口ですけど」
何か凄く腑に落ちないと言うか怪訝な表情。
「ちょっと待って、これ僕の知ってる収納と違うなあ……ねえカルア君、コレってどんなイメージで発動させたの?」
「ええと……モリスさんが言ってた通り『魔法の鞄』のイメージです。見えない魔法の鞄を手の上に置いた感じ? 鞄の大きさよりも沢山の物が入るってイメージが凄く難しかったです」
「まあそうだよね。別の空間って言われてもイメージしにくいよね。それで君はどうやって解決したの?」
「鞄の中を広げるイメージがどうやっても出来なかったから、鞄の口が『入口』でそこから『別の収納場所』に繋がってるって考えたらどうだろうって思いました。それで収納場所だったら仕切られてたり棚があったりするんだろうなって。ちょうどうちの地下室がそんな感じの倉庫だったので、そんな感じの場所に繋がるイメージです」
あれ、モリスさんの様子が……?
ちょっと待って、このパターンって確か前にも……
でも今回はモリスさんの言った通りにやった訳だし、変な事なんて無いよね?
「うーん、これってどう見ても【収納】とは別の『何か』なんだけど……。でも話を聞く限りそんなおかしな点も無かったし、ホントどうしようか……」
暫く何か悩んでいたモリスさんだったけど、そのうちポンと手を打った。
「あ! そうだよ、スキルを見たらいいんじゃないか。ああそうか、そうだよそれで解決だ。という訳でカルア君、君のスキルってどうなった? ボックスは無事追加されたかな?」
ん?
……あれ?
「自分のスキルって、自分で見る事が出来るんですか?」
「え? ちょっと待って、君は自分のスキルをどうやって把握してるんだい?」
「前にギルドで調べて貰いましたけど……?」
「もしかして……自分のスキルの見方を知らない?」
「見る事が出来るって今初めて聞きました」
凄く不思議そうに僕を見ていたモリスさんだったけど、僕が首を傾げると今度はギルマスに顔を向けた。
「ええっと、ブラック君?」
「ほとんどの冒険者は、自分にどんなスキルがあるかをギルドで一度調べたら、その後は気にする事など全く無い。普通はスキルが変動する事など無いからな」
「ああ成程、それが冒険者の常識って事か。うん、これは僕のほうが悪かったね。確かに魔法からスキルが派生するなんて普通は知る訳なんて無いか」
納得の表情で『うんうん』と頷いたモリスさんは、再び僕に問い掛けた。
「じゃあ自分のスキルの見方だけど――カルア君、君は以前に『スキルの声』を聞いた事があるよね?」
え?
「スキルの、声?」
「そうだよ。君が以前に聞いたと言ってた『スキルが進化しました』って声。スキルが進化したなんて話は他に聞いた事が無いから絶対とは言い切れないけど、まあそれは『スキルの声』で間違い無いと思うよ。ちなみに『スキルの声』は僕も聞いた事があるんだけど、僕が聞いたのは『スキルが派生しました』って声なんだ。【収納】の魔法から【ボックス】スキルが派生した時に聞こえたんだ。この『スキルの声』はね、実は研究者とかの間ではよく知られてる話なんだよ」
へえぇ、アレって誰の声だったんだろうって思ってたけど、そういう事だったんだ。
「あれってね、スキルそのものが自分に伝えてくれている声って言われているんだよ。だから『スキルの声』なのさ。まあ他に考えようがないんだけどね。何故かって言うと、スキルってのは意識を集中すると今の状態を自分自身に見せてくれるからなんだ。だったら声に出したって別におかしくは無いよね? って事だからカルア君、ちょっと今から試してみようか。君が以前聞いたスキルの声を思い浮かべながら、スキルの状態について集中して考えてみてごらん」
目を閉じて言われた通りに集中! スキルスキルスキル……
あ! 見えた!
「どうだい? 君のスキルには何があった?」
「ええっと……【コアスティール】と【ゲート】の二つです。あれ? 【ボックス】は無いみたいだ」
ドサッ
何かが落ちたような音?
反射的に目を開けると、そこには床に崩れ落ちたモリスさんの姿があった。
どうしたんだろう……
「【ゲート】? 【ゲート】って言った? ……嘘だよね、【ゲート】って……そうだよ、きっと僕の聞き間違いさ。最近色々と疲れが溜まっていたからねえ。まあそんな事もあるさ。ああゴメンねカルア君、ちょっとうっかり聞き損ねちゃったみたいだからもう一度君のスキルを教えてくれるかい」
「【コアスティール】と【ゲート】でした。【ボックス】は無かったんですけど……」
「やっぱり【ゲート】……。ははは、【ゲート】だって。………………どうしよう」
「あのモリスさん?」
さっきから凄くすごーく不吉な感じなんですけど……?
「――分かったよ、こうなったらもう仕方がない。どのみち逃げ場なんて最初から何処にも無いんだ、だったら受け入れよう――受け入れるしか無いんだから。そうさ、受け入れて前に向かって進むんだ。いつもの僕のように……。うんうん【ゲート】ね、OK理解した。よし、再起動だ!」
立ち上がったモリスさん、何やら再起動したらしい。
……自分でそう言ってたし。
「ならば次だ。【コアスティール】? うん、進化したんだから名前が変わるのはある意味当然。魔石は魔物の核だから名前に『コア』が付いたって事かな。『ダンジョンコアはダンジョン自身の魔石』だなんて学説が気にはなるけど、まあ流石にダンジョンコアを【スティール】なんて出来っこないさ。今は気にしなくて大丈夫……。よし、カルア君の【スティール】は今日から【コアスティール】だ。呼び名が変わるだけで何の問題も無し! それよりも、今考えなければならないのは……やっぱり【ゲート】だろうなあ――」
モリスさんは溜息を吐きながら大きく首を左右に振り、そして僕に話し掛けた。
「さてカルア君、今回君に派生したスキルが【ゲート】だと言うのならば、君のその謎魔法は【収納】ではないだろうね。おそらく【転移】の一種だろう」
「えっ、だって僕【遠見】とかしてませんよ? 確かに小石や魔石は消えたけど、手を入れたらちゃんと取り出せたし」
それって【転移】とはちょっと違うと思うんだ。
「まあ聞いてくれ……。君のその板状の魔力、それこそが【ゲート】スキルなんだ」
【ゲート】スキル……?
「【ゲート】ってのはね、所謂『伝説のスキル』なんだよ。かつて存在したと言われる古代の王国、その伝説に出てくるスキルなんだ」
おおー! 『古代の王国』! 『伝説のスキル』! 超カッコいい!
「その伝説っていうのはね、こんな話なんだ……」
そしてモリスさんはその伝説を語り始めた。……真面目な顔で。
「遥か昔の事さ……。それまで戦争などとは無縁だったとある平和な国が、親交のある隣国から突如として攻め込まれたんだ。突然の侵略――あまりに想定外の突然のその出来事に、何の備えも出来ていなかったその国は徐々に追い詰められていった」
仲間だと思っていた相手から……そんなのって……
「でもね、その国が亡びる事は無かった。敵国を打ち倒し、その苦境を打ち破る事が出来たんだ。その国の王子が持っていた【ゲート】スキルによってね」
おおっ、王子様のスキル!!
「【ゲート】スキルは、『自分が今いる場所』と『過去に行った事がある場所』を繋ぐスキルなんだ。そして攻め込んできた隣国はこれまで親交があった――王族同士の行き来がある程にね。なので当然その王子も過去に隣国に訪れた事があった訳だ」
そうか、それならば……
「彼は起死回生の一手として、隣国の王宮内に【ゲート】を繋いだ。そしてその【ゲート】を使って精鋭部隊を直接王宮内に送り込んだんだ。そうなれば後はもう分かるよね? どれほど強固な守りを固めた国だって、その守りを全部無視して直接王宮内に攻め込まれたりしたら……ね?」
そんなの、どうにも出来ないに決まってる……
「こうしてその国は戦いに勝利した。王子とその【ゲート】スキルのお陰で無事に隣国の侵略を跳ね除ける事が出来たんだ」
やったぁ!
「とまあ、これが【ゲート】スキルにまつわる伝説さ。そしてその【ゲート】スキルなんだけど、それ以来使える者がいたという記録は残っていない。まあつまりこれがどういう事かと言うと」
王子様が国を守る為に使った伝説のカッコいいスキルって事だよねっ!
「『君が狙われる理由がまたまた増えちゃった!』って事だよ!!」
……え?
「いやだってさ、コレどう考えても戦争の道具にされるでしょう? だって『伝説の最終兵器』だよ? 自国にとっては最強の武器だし他国からしたら消し去りたい悪夢だ。当然どちらからも狙われるに決まってるじゃないか!」
そ、そんなぁ……
「ねえどうしようカルア君、君もう『歩く国家機密』状態だよ? もういっそ諦めちゃう?」
「ええっと……」
「はは、だよねえ。まあ諦めるっていうのは冗談だから安心してくれよ。でも流石にこう次から次へとねえ……。『穴を塞ごうと頑張ってたら隣にもっと大きな穴が開いちゃった』――ここ暫く僕はずっとその繰り返しさ。ちょっとは愚痴だって言いたくなるってものだよねえ?」
「うう、すみません」
悪気だけは無いんです……
「ああゴメンね。別に君を責めてる訳じゃないんだ。僕とした事がちょっと弱気にちゃったってだけさ。だから君が気にするような事じゃないし、君が謝るような事じゃないんだ」
そうは言っても、やっぱり原因は僕だしなあ……
「さあ、そんな事より【ゲート】の説明に戻るよ。さっき言った通り【ゲート】っていうのは二つの場所を繋ぐスキルなんだ。つまり、転移と違って【ゲート】はその名の通り門な訳だ。どういう事かって言うと『設置さえしてしまえば誰でも何人でも通る事が出来る』、そういうスキルだって事。これは推測だけど、魔力は繋ぐ時に大きく使うだけで維持にはそんなに必要無いんじゃないかな。スキルである以上は魔法として使うより魔力消費は少ないだろうし。君も使ってみて大して魔力を使った感じが無かったんじゃない?」
ああ、そういえば。
「その顔は心当たりあるみたいだね。まあそんなわけだから、君が【収納】したと思っているものって、多分君の家の地下室にあるんじゃないかな。どうだい、折角だから今からゲートを使って取りに行ってみないかい?」
僕の家の地下倉庫に……
それなりに大きい金属バット、それに何千もの魔石が散乱して……
大変だ、急いで何とかしなきゃ!
「行きます! モリスさん、一緒に来て貰っていいですか?」
「勿論さ。いいかい、さっき君は手の上に水平にゲートを設置してたけど、今度は人が通れる大きさの扉のイメージで設置するんだ。要領が同じで行先も同じだから、きっと簡単だと思うよ」
目を閉じてイメージする。
繋ぐ場所はこことうちの地下室――
【収納】だと思ってたさっきと同じ――
手の上じゃなくって『扉』として――
キュンって感じで体から魔力が飛び出し、そして僕の目の前に集まった。
そこに現れたのは、扉くらいの大きさの魔力の板だ。
出来た……。きっとこれが本来の【ゲート】なんだろう。
じゃあ、って頭を入れて中の様子を除いてみると……真っ暗で何も見えない?
ああそうか、地下室だったら明かりが無ければ真っ暗に決まってる。
「繋がったと思います。真っ暗で何も見えなかったけど」
「了解だよ。明かりは大丈夫、僕が光魔法で照らすから。よし、じゃあ行こうか」
まず僕が入って、すぐ後からモリスさん。
そしてモリスさんの光魔法が――
「光球」
辺りを照らし出した……
そこはやっぱりうちの地下室だった。
そして思った通り床には大量の魔石が一面に散らばり、金属バットは……あ、いた。部屋の隅、空いた一角に鎮座してる。
取り敢えず元からあった荷物に影響は無さそうかな……よかったよかった。
「へえ、ここがカルア君ちの地下室かあ。中々の広さがある立派な倉庫じゃないか。さてと、じゃあ床の魔石と金属バットは僕の【ボックス】に入れて運ぶよ。零れずに棚へと収まっている魔石はそのままでいいかな。カルア君、それでいいかい?」
「はい、お願いします」
「オッケー。はいじゃあ【収納】っと」
その瞬間、床に散らばった魔石と金属バットが目の前からパッと消え失せる。
ああ、これは確かに僕の『収納もどき』とは全く違う魔法だ。
「よし、じゃあ用も済んだし戻ろうか。君もいつまでもゲートを繋げたままじゃあ落ち着かないだろう? それとも家に忘れ物とかあるならついでに持ってくかい?」
「持っていきたい物とか特に無いので大丈夫です。皆さんを待たせちゃ悪いから、このままギルドに戻りましょう」
ギルドに戻った僕はゲートを消した。
うん、ゲートの操作は今ので何となく理解出来たと思う。
「さてブラック君、カルア君ちの倉庫から金属バットと魔石を回収してきたよ。金属バットは解体室でいいんだよね。魔石は何処に出せばいい?」
「これまでの魔石は執務室に纏めて保管してあるのでそちらに頼む」
「了解。じゃあちょっと置いてきちゃうからカルア君はここで待っててね」
はあ……『伝説のカッコいいスキルだ!』って思ったんだけどなあ……
結局、【収納】魔法と【ボックス】スキルもまだ出来て無いって事だし。
あんなに堂々と「出来るようになりました!」なんて言っちゃったのに『実は勘違いでした』なんて……ちょっとカッコ悪いよね。まあカッコ悪いのは今更だけど、さ。
なんて考えている間に、二人とも部屋へ戻ってきた。
「さてさて、もうみんな承知している通り、またまたカルア君に大問題が発生したよ。何と今度は伝説のゲートスキルだ! と煽りっぽく言ってみたけど……はは、どうしたものかねえ」
「これについては『誰でも使えるようにする』という訳にはいかないでしょうね」
「そうだな。もしそんな事になったら、間違いなく国中が――いや世界中が大混乱となるだろう」
「だったらもう答えは一つしかないか……。『隠し通す!』、これしかないねえ。スキルの隠蔽については【スティール】と同じかな。早々に【ボックス】を習得して、周囲にそれがカルア君の持つ唯一のスキルだと認知させる。でもカルア君の事だから、きっとついうっかりで使っちゃう事もあるよねえ。その時は……まあ【転移】と言い張るしかないか」
「【転移】を知っている人相手にはそれも難しいと思いますが……?」
「そう、それなんだよ。【転移】を使う人は特に違和感を感じるだろうね。だからさ、僕は決めたよ。僕も【ゲート】スキルを習得する! 元々【転移】は得意だし、カルア君からは【ゲート】に使ったイメージも聞けたからね、それを元にやってみるさ。そしてその【ゲート】スキルを、『見た目がちょっと変わっているだけのただの【転移】だ』と公表するんだ。そうすればカルア君も、僕から教わった風変わりな【転移】だって言い張る事が出来るようになると思うよ」
「しかし、それでもゲートスキルと結び付ける者が出るかもしれんな」
「ははっ、その時は僕もカルア君と一蓮托生だね。二人とも転移が使える訳だから、逃げようと思えば地の果てまでだって逃げられるさ。でもまあ、それは今から心配しても仕方が無いよ」
それからモリスさんは最後に一つ大きな溜息を吐き、そして半分呟くみたいにこう締め括った。
「ゲートに関しては以上だとして……後は【コアスティール】か。ははっ、今はただその対象が『魔物の魔石』に限定されている事を祈ろうか。あとついでに『これ以上進化しない事』も……ね」
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