第24話 収納魔法できるようになりました

「紹介するよ。彼らは全員僕の技術室のメンバーで、手前からスラシュ、ジェニ、エド、コリー、バーンだよ。今日は名前だけでも覚えて帰ってね」


「室長、その紹介はあんまりっすよ!」

すかさずのツッコミ、えっと……スラシュさんだったかな。


「いやあ、ごめんごめん。ほら、君達も調査団もみんな忙しいしさ、省ける時間は省いたほうがいいかなあって思っ――」

「いやいやいや、室長ホントはただ面倒だっただけっすよね? これまで室長にどれだけ振り回されてきたと思ってるっすか、バレバレっすよ! 大体紹介した名前だって今の並び順と違うじゃないっすか。それ自分の作ったリストの記載順そのまんまっすよ。それってそもそも紹介する気が無いって事っすよね。紹介なんだからせめて名前と顔を一致させないとこの後の調査に支障が出るっすよ。て事でやり直しを要求するっす!」


おお、モリスさんの言葉を遮っての長台詞。この人できるっす!

そしてモリスさんの名前だけ覚えさせる疑惑!?


「ははは、悪かったよスラシュ。じゃあ軽く紹介ね。この騒がしいのがスラシュ、最近は語尾に『っす』を付けるのがお気に入りみたいだけど、飽きたら変わるから。このあいだまでの『なり』は酷かったなあ。もう『っす』でいいんじゃない? 案外似合ってると思うよ。っていうか今までの中で一番ましだと思うよ?」


「う……そうっすか、分かったっす。それに室長に真面目に紹介されると大ダメージを受けるって事もよく分かったっす。これ以上被害者を出さないために、残りのメンバーは自分が紹介するっす」


が、頑張れスラシュさん。


「こちらがジェニさん。みんなの憧れ、技術室みんなのお姉さんっす。優しいだけじゃなくって時空間魔法師としてもかなり優秀なんすよ」

「ちょっとスラシュ君、恥ずかしいからそれくらいでやめてね。まったくスラシュ君はいつも大袈裟なんだから。ジェニです。今日はよろしくお願いします」


「で、次がエド。それとこちらがコリー、そして彼がバーンっす。3人とも自分の先輩なんすけど、3人揃ってもの凄く口数が少ないんすよ。まあ声をかければ最小限の返事はしてくれるっすけどね。そんな感じなんでこれ以上紹介の内容が思い浮かばないっす。まったく、そんなんだから室長に紹介を端折はしょられるんすよ。さあ、後は自分達で自己紹介して下さいっす」


「エドです」

「コリーです」

「バーンです」


「多分印象が薄くって覚えるのが難しいと思うっす。もし誰が誰がかあやふやな時は『ジョンズ』って声を掛ければオッケーっす。たまたま3人とも名字がジョンズなんで」


「おいおいスラシュ、君の紹介も大概だと思うけど? ……まあいいか。そんな訳だからみんなよろしくしてあげてね。それでこちらが調査団のメンバーだけど、オートカ達には以前の案件で会ったことがあったよね。で、こちらがヒトツメギルドのギルドマスター、ブラック氏だ。君達も噂くらいは聞いた事があると思うけど、彼があの『最強職員』だから。くれぐれも失礼が無いようにね」


「よろしく頼む」


ギルマスってこういう紹介になるんだ……

『最強職員』ってホント何なの? 役職じゃなければ何? 称号なの? 二つ名なの?

ってあれ? 皆さん急に緊張してる……?


「で、こちらがカルア君。今回の転送トラップの第一発見者となった冒険者君だ。このトラップを発動させちゃったって事から分かると思うけど、それなりに時空間魔法の適性を持ってるよ。まあ次世代の時空間魔法師の卵、ってところだね」


「カルアって言います。皆さんよろしくお願いします」

「あら、可愛い時空間魔法師さんね。どう? 時空間魔法に興味があるなら私が指導してあげましょうか?」

「いや、あの……それは……」


「すまないねジェニ君。実はカルア君には僕が指導する事になっててね。まあもしかしたら君にも何か頼む日が来るかもしれないが、彼には出来るだけ変なクセを付けて欲しくないからね。まずは基本に忠実に、だよ。今の彼にはそれが一番大事だからね」


「ふーん、この子ったら室長のお眼鏡にかなったって事ですか。まあそう言う事ならその日を楽しみにしてますね。それと今の室長の言い回しにあったちょっと引っ掛かるところにも今は触れないでおきます。私に関しても彼に関しても、ね」


何だろう、このピリッとした緊張感。

今のやり取り、特に変なところとかも無い普通の会話に聞こえたけど……

もしかして二人の間で理解している別の意味があったりするのかな。

あ、それって『デキる大人同士の会話』って感じ?


「さてと、お互い紹介も終わった事だし早速調査を始めるよ。あらためて説明するけど、このダンジョンは最初の部屋に転送トラップがあるんだ。その発動条件は時空間魔法の適性を持つ者がいる事。今まで見付かってこなかった事から、ある程度高い適性に反応すると予測しているよ。今日の目的はその魔法適性に関してそのおおよそのしきい値を特定する事だね。でその調査方法だけど、時空間魔法師の適性が少ない方から一人ずつ調査団と共にダンジョンに入って、トラップが発動するかを確認するんだ。トラップはダンジョン内に転移してから第一歩を踏み出した瞬間に反応するよ。そこで反応しなければそのまま転送装置でダンジョンを出て次の人と交代。どうかな、分かったかい?」


その場の全員が頷く。

今日は参加しないけど、僕も一緒に頷く。

僕もきっと調査メンバー、だしね。


「うん。それでダンジョンに入る順番だけど、最初はバーン、次がコリー、それからエドでジェニ、最後がスラシュね。トラップが発動したら次はひとり前の人がもう一度入る。それで発動しないことを確認したら終了だよ。あっそうそうブラック君、魔物部屋の素材、必要なら持って帰ってくるけど、要る?」


「いや、実はここ暫く供給過多で」

「ああ成程。まあ確かにそうなるだろうねえ。じゃあ今日は持ち帰りは無しだね。さあ行くよー」



そして入口で見送るモリスさんを残し、オートカさんたちとバーンさんがダンジョンに入って……

すぐに戻ってきた。


「おっけー、じゃあ次行くよー」

モリスさんの指示で次はコリーさんが入って、やっぱりすぐに戻ってきた。


そしてその次のエドさんも。


「結構敷居が高いね。閾値が高くて敷居が高い。うん、これは言わない方がよかったかな。よしじゃあ次はジェニだ。さあ行こう」

あれ、今度はなかなか出てこない……?

あ、モリスさんがうんうんと頷きながら一人で入ってった。

そうか、トラップがジェニさんに反応して発動したんだろうな。

あれ? でもその場合後から入ったモリスさんも魔物部屋に転送されるのかな?

どうなんだろう……?


「さて、カルア君は練習開始だな。私は彼らを休憩所に案内してこよう」

出番を終えたエドさん達がギルマスに連れられて休憩所に向かってゆく。

あれ? やっぱりみんな緊張してる? 歩く手足が同じ側……




さてと、僕は【収納】の練習を始めよう。

「僕の手の上には見えない魔法の鞄があります。はい、今鞄を開けました。ここに地面に落ちてたこの小石を入れますよー。はい、入りま――」


せんでした。

だよね、そんな簡単に行く訳無いよね。

今まで簡単に出来てきたからもしかして今度も、って思ったけど流石に【収納】ともなるとね。それに魔力だって――


……あれ? 僕今魔力どうしてたっけ?

手を出して、イメージして、それを口に出して……

魔力使ってないね。昨夜と同じだね。ただの独り言だったね……


よし、気を取り直してもう一度だ。

手のひらを上に向けて――

その上に魔力を集めて――

そしてそこにイメージするのは魔法の鞄だ。


って……あれ? 鞄の中ってどうなってるんだろう?

それが分からないと上手くイメージが出来ないなあ。

どうイメージすればいいんだろう……?

まあダメで元々、まずは一度やってみようか。


って事で――

右手で持った小石を左の手のひらに落とす。

石はポツンと左の手のひらに乗って、そのまま何事もなく……


ダメかあ。

やっぱりちゃんとしたイメージが出来ていないから、だよね。

うーん、鞄のイメージ……イメージ…………


鞄の中がとっても広い。

でもそれだけだと鞄の大きさは超えられない。

じゃあ……鞄の入口の向こうは別の場所に繋がってる……?

うん、これならイメージ出来そうかも。


そうすると、繋がってる先はどうなってるのかな。

きっとただ広いだけじゃ無いよね?

だって魔法の鞄って、取り出したいものにちゃんと手が届くんだから。

って事は、中はちゃんと区切られて手を入れれば目的のものに手が届く、そんな場所になってるのかな。

大きな物を置く場所があって、小さな物の置き場は収納棚みたいになってる。


イメージ……出来たかも!

うちの地下室、倉庫に使ってるあの部屋が丁度そんな感じだから。

イメージするのはうちの地下倉庫……よし、そのイメージでやってみよう。

今度は何か出来そうな気がする!


さあ、もう一度!

手のひらを上に――

その上に魔力を集め――

そしてイメージするのは魔法の鞄――

その鞄の中は別の場所で――

そこはうちの倉庫みたいな場所……………………


手の上に魔力が集まり、それはやがてもやのような板のような形になり――そのまま安定したみたい。

これは……!?


そこに小石を乗せると……

やっぱりこの魔力は板状の形はしているけど靄のように物は通すみたい。

小石は板をすり抜けるみたいに落ちてゆき――でも手のひらには何の感触もない。

これは……もしかしてこの板の中に……

【収納】された!?


もしそうなら取り出す事だって勿論出来るはず。

次はその小石を取り出してみよう。

小石を取り出すように念じながら、魔力の板に右手を入れて――


小石、小石、こーいーしーー……

あっ、指先に固い感触あり。

そっとつまんで引き出すと……


やった!

この形、間違いなくさっきの小石だ!!

って事は……つまり……

【収納】が出来たぁーっ!!


よし!

よしよし!!

うふふふふふ………………

いきなり出来るようになっちゃったよ!!

モリスさん、戻ってきてこれ見たらもの凄く驚くんじゃない!?

よーしっ、それまでに完璧に出来るように練習だ!!

目標、モリスさんの驚く顔っ!!




「いやあ、外は空気が美味しいねえ」

「室長の【空間ずらし】、やっぱりあれ反則ですよ。絶対人に向けないでくださいよ? あんなの防ぎようが無いんですからね。それにオートカさん達の【障壁】! 何ですか、外からの攻撃は防いで中からはやりたい放題って! あんなのずるいですよ」

「いや『ずるい』と言われましても……」


モリスさん達が帰ってきたみたい。

辺りが一気に賑やかになった。


「さてと、ジェニで発動する事が分かったからもう一度エドで発動しない事を確認したら終了だよ。エド達はどこかな? おーい、エド―ぉ!!」

モリスさんの賑やかな呼び声に気付いたみたいで、みんなも休憩所から出てきた。

「よしっじゃあエド、もう一度行ってきて。オートカ達もよろしく。みんなはちょっとだけ待っててね、きっとすぐ戻ってくる筈だから」


そう言ってモリスさん達が見送る中エドさん達がダンジョンに入り……

そしてモリスさんの言葉通り、すぐに戻ってきた。


「よし、じゃあこれで調査完了だね。みんな、帰るよー」

「室長! 自分まだダンジョンに入ってな――」

「それでオートカ達はこのままヒトツメギルドに帰るのかい?」

「ちょっと室長?」


「ちょっとよろしいか? もし時間があるようなら私も魔物部屋を見てみたいのだが」

「ああそうか、管轄のダンジョンだからブラック君は見ておいた方がいいよね。じゃあ僕は一旦彼らを連れて本部に戻るよ。そのついでに向こうでちゃちゃっと転送トラップ発動危険度の測定具を作ってくるからさ。といってもエドの適性値を上限にアラートを出すだけの簡易版だからすぐに出来ちゃうと思うけど。多分君達が転送トラップ巡りしてギルドに戻る頃には僕も顔を出せるんじゃないかな。って事だからまた後でねぇーー」

「室ちょ――」


こうして最後もまたモリスさんの長ゼリフで締め、モリスさんと部下の皆さんは王都へと帰って行った。

凄く簡単そうにやってるけど、あの人数を連れて一瞬で王都に【転移】するんだから、やっぱりモリスさんって凄いよね。

そしてスラシュさんは最後まで……




「さてそれでは我々の方ですが……今回同行するのは私一人でいいでしょう。私は後からブラック氏達と帰りますから、ラキ達は先に馬車で戻っていて下さい。」

「分かりました。では団長、お気をつけて」


帰り支度を始める調査団のみんなを尻目に、僕達はダンジョンの前へと歩いて行った。

「じゃあカルア君、我々を魔物部屋に連れて行って貰えるかな?」

「分かりました……ふふふ、まるでギリーになったみたいです」

「ふっ、確かにな。では早速ギリーのカルア君に案内を頼むとしようか」

「ふふ、分かりました。ギリーにお任せ下さい」


そんな軽いやり取りをしてダンジョンの中へ。

そして僕が一歩踏み出すと、ダンジョンの中は(僕にとっての)いつも通り、一面赤い光に包まれる。


「ほう、これが報告にあった赤い光か。確かにこれは普段と明らかに違うな」

「じゃあ転送装置にカードを翳しますね。これでトラップが発動します」

御一行様、魔物部屋にご案内でーす。


「ではここで障壁を張ります」

すっかり手慣れた感じのオートカさん。今日もよろしくお願いします。

じゃあ僕も足元に魔法の鞄を……っとそう言えば今日は持ってきてないや。

だったら、覚えたばかりの【収納】の出番っ!

で、目の前に現れる魔力の板。うん、練習の成果でスムーズに出せた。

周りを見回してるギルマス達は気付いていないようだ。

ふふふ、気付いたらびっくりするだろうな。




――魔物の出現が始まった。


「おお、ここの魔物は全部壁から出現するのか」

「えっ、そうじゃない場合もあるんですか?」

「天井からとか扉からといったパターンもありますね。一番困るのは床から出てくる場合でしょうか」

「うむ。足元から出てこられるのはな。パーティの陣形が崩される恐れがある」


ああ、なるほど。

確かに前衛を素通りして後衛の周りに急に魔物が出たら困るかも。

……パーティ組んだ事は無いけど。

なんて事を話しているうち部屋は魔物で一杯になった。うん、そろそろかな。


「じゃあ、やりますね。【スティール】」


目の前に現れる透明な魔石、その向こうで地に落ちるバット達。

いつもの光景。


「おお! 話には聞いていたが、これは……凄まじいな」

「ええ。何度見ても身の震える思いです。モリスの【空間ずらし】、あれもとんでもない技ですが、この【スティール】はそれとは全く違う意味で途轍もない技です」

「ああ。一体ずつ【スティール】していく姿にも感動したものだが、時空間魔法と組み合わせる事でこれ程までに強化されるとは……」


これをもう3回繰り返し、そして殲滅は完了。

その時、とうとうオートカさんが気付いた。気付いてくれた!

「あれ……? カルア殿、魔法の鞄が無いようですが……?」


その声にギルマスも気付いたようだ。

「まさかとは思うがカルア君……、君は……もう収納魔法を?」


キタ!


「ふっふっふー、実は……使えるようになりましたっ!!」

「……」

「……」


どどーーん!


「カルア殿……全く君という人は……。モリスとは収納を使えるようになるのは早くて3日後くらいだろうと話していたのですが……」

「本当に……全く……一体何度私を驚かせれば気が済むのだね、君は」


やったぁ! びっくり作戦、大・成・功!!

これで後はモリスさんを残すだけだ。




気分は最高!

けど時間制限があるから今はここまでにしとかなきゃ。

僕は地面に落ちたバット達を指さしてギルマスに訊ねた。


「バットは持って帰らない、って事でしたよね?」

「ああ。ここ数日の君のおかげでバットは余り気味だ。単価が低いから他のギルドに転送するのもコストに見合わん。当面は買い取り停止だな」

「分かりました。じゃあそのまま下の階に降りましょうか」

「うむ。金属バットだったら喜んで買い取りさせてもらおう」


下の階に降りると、前回と同じように金属バットが現れる。

「……やっちゃっていいですか?」

「うむ。動く姿にも多少興味はあるが時間を使う程ではない。やってくれ」

「じゃあ【スティール】」


そして魔石と金属バットを収納し、僕達はダンジョンを出た。

次の階段は今回もやっぱり進めなかったからね。


「では我々も帰ろうか。カルア君、案内感謝する」

「はい。お疲れさまでした」




「――どちらかと言うと君に疲れたのだがな」

そんなギルマスの呟きは…………聞かなかった事にしよう。

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