第6話 図書室で魔法について調べました
「さてカルア君、今日はこれで終了だ。事態が進んだら連絡しよう」
「わかりました。よろしくお願いします」
「うむ。ピノ君の仕事が終わるまでまだもうしばらくあるな。気力が残っているようなら二階の図書室に行ってみるといい。冒険者向けに書かれた魔法関連の書籍がある。この先どうするにしろ、魔法の基礎を身につけるのなら読んでおいて損はないだろう」
そう言い残し、奥の執務室へと続く通路を歩み去ってゆくギルマス。
その背中に僕は、
「ありがとうございました」
ギルマスは振り返ることなく、軽く手を上げて奥へと消えて行った。
「それじゃあカルア君、査定が終わるまでの間どうします? まあまあ時間がかかると思いますよ。もし図書室に行くのなら案内しますけど?」
僕は少しだけ考え、
「図書室を使わせてください。案内をお願いします」
「はい承りました。換金は帰る時でいいですよね」
「はいっ」
ギルドの図書室。
実は結構使ったことがある。
強くなりたくって、武器の使い方や魔物の倒し方について調べた。
なんとか使い道を見つけたくって、スキルについて調べた。
お金を稼がないといけないから、薬草なんかの収集について調べた。
魔法が使えるようにならないかと、魔法について・・・は実は調べていない。
魔法の本はいくら探しても見つからなかった。というか一冊も無かったんだ。
「ピノさん、僕図書室で魔法の本探した事あるんですけど」
「無かったでしょう?」
「ええ、そうなんです! でもさっきギルマスはあるって・・・」
「実はですね、魔法の本は国からの指示で許可制になってるんです。ギルマスの許可を受けた人しか閲覧できないことになってるんですよ」
「そうだったんですか。それは探しても見つからないわけだ・・・」
ピノさんに連れられて図書室を奥へと進むと、そこには地味な木の扉が。
「こんな扉があったんですねえ」
「別に扉があること自体は秘密ではないんですけどね。でも鍵を持った職員が一緒にいないと入れないんですよ」
そういってピノさんは扉を開いた。
あれ? 鍵は?
「ふふふ。『あれ? 鍵は?』って顔してますね」
はいそのとおりです。
「実は魔法の鍵なんですよ。規則で鍵をお見せすることはできないんですけどね。鍵が無いと開けられないし、それになんと、実はこの扉も魔法の扉なんです。鍵を持っている人がいないと、見えないし触れないんですよ。びっくりでしょう?」
ほんとそう。もう僕のびっくりが留まることを知らない。
もし世の中に連続びっくり記録なんてものがあるのなら、僕はダンジョンに入ってから今もずっと更新中だよ。
そしてピノさんと一緒に扉をくぐると、そこは小さな部屋。
窓はないけど不思議と明るい。これもやっぱり魔法なのかな?
部屋の壁には本棚があり、そこには10冊くらいの本が並んでいる。
その本棚の前にはテーブルと椅子。ここが本を読むところなんだろう。
そのテーブルの上には小さなベルが置いてある。ギルマスが個室で鳴らしたのと似てるな。
部屋の中央に進み、そこで僕のほうを向くピノさん。
はい、なんでしょう?
「この部屋のご利用にあたり、注意点をお伝えします。コホン。
1.この部屋は飲食禁止です。飲食物の持ち込みも禁止です。
2.この部屋からの本の持ち出しは禁止です。
3.この部屋の扉は開きません。出る時はベルで職員を呼んでください。
4.この部屋の利用はギルドの業務時間内に限ります。
5.この部屋の本は丁寧に扱ってください。消失・破損は弁償となります。
6.この部屋での魔法の使用は禁止です。
以上となりますが、何か質問はありますか?」
「あの、急に事務的なしゃべり方になったのはなぜですか?」
「マニュアルだからですっ。もうっ、そういう質問じゃないでしょ」
ああ、きっとそのマニュアルというのも、ギルドの謎技術で職員にしか見えない特殊な・・・
って何気なくピノさんの視線の先、僕の後ろを見ると。
壁に「利用規則」が貼ってあった。
あれを読んで聞かせるのがマニュアルってことか。うんなるほど普通。
「お仕事終わったらお迎えに来ますけど、もしご用があればいつでも遠慮なくベル鳴らしてくださいね」
今度はいつもの笑顔でそう話すピノさん。
つられて僕も笑顔で、
「はいっ」
「へぇ、やっぱりこれ全部魔法の本だ」
どの本も、背表紙にはすべて魔法関連のタイトルが書かれている。
とても簡単そうなものから凄く難しそうなものまで。
「うん、やっぱり最初に読むのはこれって事なんだろうな」
――ゴブでもわかるまほう教室
いやもう見るからに初心者向けっていうタイトルでしょ。
この「ゴブ」って、ゴブリンのことなんだろうな、やっぱり。
ってことは、ゴブリンマジシャンはこの本読んだゴブリンなのかな・・・
じっと本を読む眼鏡姿のゴブリンを想像しつつ、僕はこの本を読み始めた。
まず書かれていたのは・・・
『魔力が無い人、あなたは魔法が使えません。諦めましょう』
まあそうだよね。
『魔力がある人、あるだけでは魔法は使えません。頑張りましょう』
そうだよね。
『魔力が少ない人、それではたいした魔法は使えません。さっさと増やしましょう』
そうだろうけどねっ。
『魔力が多くて魔法が使える人、この本はあなたには必要はありません。今すぐ本を置きましょう』
初心者向けの本だもんねっ。
この本、冒頭から著者のセンス凄いな!
なんて思ってたけど・・・
さすがギルドに置いてあるだけあって、内容が濃い。しかも分かりやすい。
これなら確かにゴブリンでも魔法が使えるようになるかも。もし読めればだけど。
そう、この本には理論や理屈なんてものは一切書いてない。
書いてあるのはただ目的とそのための手順だけ。
例えば、今僕が必要としていたのがこれ!
【魔力を増やす】
魔力を使い切ってからが勝負です。頭も魔力も空っぽにして頑張りましょう。
1.魔力をすべて使い切りましょう。使う魔法は何でもOK。
2.そこからひたすら魔法を打つべし。発動するわけないよね。でも全力でヤレ。
◆ポイント
・長い詠唱は時間の無駄。初級魔法で数をこなせ。
・火や水は発動しちゃったら危ないぞ。おすすめは光や回復。
・回復はそこらの石ころにでもかければOK。自分にかけたら後で太るかも。
うーん、実にシンプル。早速今夜からやってみよう。
それにしても、魔力が無い状態で魔法を使うことが魔力を増やすトレーニングになるなんて、目から鱗っていうか発見した人凄いな。
よし、魔力の増やしかたは分かった。
ならば、回復以外にもいろんな魔法を使ってみたい。
今日から僕は魔法師カルアだっ! ってことで、次は属性の適性について調べてみる。
【火属性の適性の調べかた】
料理に暖房に大活躍。光の適性が無くっても明かり替わりに。攻撃? まあ使ってもいいけど火事には気を付けましょう。
1.風のないところでろうそくに火を付けます。
2.ろうそくの火に魔力を注ぎます。
◆ポイント
・火が揺らいだあなたは適性あり。でもあなたの鼻息が原因かもね。
・火が大きくなったあなたは相性抜群。でも火で人生失敗しないように気を付けて。
・火が消えたあなた、安物のろうそく使っちゃダメ。
【水属性の適性の調べかた】風と氷もあるよ
いつでもどこでも水が出せるなんて勝ち組人生間違いなし。働くのが嫌? なら砂漠の国に行けばいいじゃない。でも悪い人には気を付けましょう。
1.
2.コップの水に魔力を注ぎます。
◆ポイント
・コップの水があふれたら適性あり。適性度はあふれた量で判別出るよ。
・コップの中から泡が出たあなた、それは風魔法だ!
・コップの水が凍ったあなた、それは氷魔法だ!
【光属性の適性の調べかた】
洞窟探検に大活躍。あとは? うーん、夜中に本が読めるとか? 近眼には気を付けましょう。
1.光の入らない完全な暗闇の部屋に入ります。
2.目に魔力を集めてじっと前を見続けます。
◆ポイント
・うっすらとでも見えるようになったら適性あり。でも目が慣れただけかも。
・気がついたら朝になっていたあなた、おはようございます。
・人生振り返っちゃったあなた、大丈夫きっとそのうちいいことあるって。
【土属性の適性の調べかた】
土魔法と聞いて地味だと感じたあなた、それは間違いです。地形操作から金属錬成までできる万能魔法なんですよ。でもやっぱり勘違いしてる人が多いので、風評被害には気を付けましょう。
1.出来るだけサラサラの砂を用意します。
2.砂に魔力を注ぎます。
◆ポイント
・砂の形が変わったら適性あり。自分の思い浮かべた形への変化にも挑戦してみて。
・砂が水分を含んだあなた、次は水の適性を調べてみて。
・砂が見つからなかったあなた、精度はちょっと下がるけど焼いた土で試してみて。
【時空間属性の適性の調べかた】
回復魔法なら分かりやすく恩を売れますよ。しかも自分の怪我だって治せるんだからもう最高。そんな回復魔法だって時空間魔法のほんの一部。どう? すごいでしょう。でもどれも燃費が悪いから魔力切れには気を付けましょう。
1.自分の爪に軽く傷をつけます。
2.傷に魔力を注ぎます。
◆ポイント
・傷が消えたら超適性あり。だって回復魔法が使えちゃったってことだから。
・傷が消えなくても大丈夫。回復だけなら勉強次第で使えるようになるから。
・こんな本で時空間属性の適性なんて分からないって。
僕はそっと本を閉じた。
うん、良く分かった。この本の著者はなんかもう絶対おかしい。
書いてある内容はすごくためになるのに、何だろうこのガッカリ感。
すごくすっごく参考になったけど。参考になったけどさ!
長い溜息をついた僕は、目を閉じて天を、いや天井を見上げる。
疲れた・・・
とそこに扉をノックする音が。
そしてそろそろと扉が開くと、その隙間からピノさんの声が。
「ごめんなさーい、この扉って閉まってると中の音とか聞こえないので、開けちゃいますよー」
「はい、開けてもらって大丈夫です」
ピノさんの声に僕が応えた瞬間、扉がパッと開いて笑顔のピノさんが入ってきた。
「よかった。カルア君、私お仕事終わりましたよー」
「僕もちょうど今一冊読み終わったところです」
「ほんとですか。私とカルア君、タイミングピッタリでしたね」
嬉しそうなピノさん。僕も思わず笑顔になる。
「カルア君、どの本を読んでたんですか?」
「この本です」
僕はそう言って「ゴブでもわかるまほう教室」をピノさんの前に掲げた。
「ああ、『ゴブま』ですね。先輩から『初心者が読むにはちょうどいい内容だけど、魔法を舐める奴が増えそうな本』って聞いたことがあります」
「その先輩の評価、実に適切だと思います!」
「でもその本の著者ってすごい人なんですよ。現在の王宮魔法師のトップだそうです」
僕は思わず本を二度見する。
王宮魔法師の・・・トップ?
この、本の、著者が、王宮、魔法師の、トップ?
「うっそだぁーあ」
「カルア君・・・」
「あ、ごめんなさいピノさん、そういうつもりじゃなくってですね、ええっと・・・」
「ふふふ、大丈夫ですよカルア君。べつに怒ってませんから。だいたい皆さんこの話を聞くと同じ反応をするって、その先輩が言ってたのを思い出して・・・。ふふふ、先輩の言った通りでした」
よかった。一瞬僕のほうがおかしいのかと思っちゃったよ。
そうだよね、おかしいのはそのトップ率いる王宮魔法師たち・・・なわけないか。そのトップの人だけだよね。
「でも書いてある内容はすごくちゃんとしてるそうですから安心してくださいね」
「はい。僕もそう思います。早速今日から書いてある通りにやってみようって思ってたんですよ」
「ふふふ、参考になったのなら良かったです。それで、今日はもう終わりって事でいいですか?」
「はい。大丈夫です。ありがとうございました」
「はい、じゃあ本を戻して部屋を出ましょう」
ピノさんに連れられてホールに戻ると、受付にはもう誰もいない。
そして食堂からは、仕事終わりのみんなの賑やかな声が響いてくる。
うん、みんな今日も楽しそうだ。
「さあカルア君、換金するのでこちらにどうぞ」
受付カウンターに入ったピノさんから声がかかる。
「はい、それじゃあこれがウルフ6頭分の素材とラビットの毛皮の代金です。どれも全く傷が無い極上の状態だったので、通常よりも高額だったんですよ」
「それはうれしいです」
「あと魔石の分は代金に入っていません。これは後日他の魔石とまとめての換金となります」
「はい、それで大丈夫です」
「それで、これがラビット3匹分のお肉です。解体も一緒にやってもらっちゃいましたから、あとは調理して食べるだけです。香草焼き、私の得意料理なんです。楽しみにしててくださいね。」
なんだか、初めから今日も一緒に帰って一緒にご飯を食べることが決まってたみたいだ。そう決めたのはギルド? ピノさん?
まあ僕もピノさんと一緒にご飯って、実はすっごく嬉しいんだけどね。
少なくとも、毎日そうだったらいいのにって思うくらいには。
「はいっ! すっごく楽しみです!」
ラビットの香草焼き、得意料理っていうだけあって、もの凄く美味しかったです。
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