第7話 魔法属性の適性を調べてみました

「それじゃあ、おやすみなさいカルア君。送ってくれてありがとうございました」

ピノさんを家まで送りた僕は、そんなピノさんの笑顔に見送られ家路についた。

それはもう盛大に後ろ髪を引かれまくりつつ。


そしてさっきぶりの我が家に到着。

さあ、早速魔力を増やすトレーニングを始めよう。



まずは魔力を空っぽにするところからだよね。


あの本、ピノさんが言うところの『ゴブま』には、回復魔法は石ころにかければいいって書いてあった。


石ころに回復魔法ってどうなるんだろう?

もちろん、やっとことは無い。

だって回復魔法だよ。ふつう「石ころを回復したい」なんて思うことある?


僕はテーブルに石ころを置く。

ピノさんからの帰りに拾ってきたやつだ。

あとはこれに回復魔法をかけると・・・さてどうなるかな?


「回復」

石ころがぼんやり光って・・・以上。

まあそうだよね。


そしてそれから・・・


魔力が空になるまで、

「回復」


魔力が空になっても、

「回復」


ひたすら回復を繰り返した。

そして何となく気づいたことがある。

それは魔力が残っていない状態で魔法を使おうとした時の感覚。

身体中からだじゅうから魔力をギュッと絞り出そうとしているような・・・変な感覚。


これで身体が「魔力足りないぞ」って感じて、増やそうと頑張るってことなのかな?

そしたら明日の朝にもの凄く増えてたりして。

「カルア君、たった一晩で一体何があったんだ!? やはり君は人類の希望だ!!」

なーんて、ギルマスに驚かれたりなんかして・・・ふふふふ


そんな幸せな空想をしつつトレーニングしていたら、いつの間にか寝てしまっていたらしい。気がついたら朝になっていた。


魔力は、何となく増えてる? ・・・うん、ほんのちょっとだけど増えてる気がする。

いやこれ絶対増えてるよ。すごい。ちゃんと増えるんだ!

そうと分かれば・・・寝る前だけなんてもったいないよね。これからは起きてる間もずっと続けよう。


でもその前に、僕にはもう一つのお楽しみが残っている。

そう、魔法属性の適性を確認するんだ。


『ゴブま』に調べかたが書いてあった属性は「火」「水」「光」「土」「時空間」とついでに「風」「氷」。

今すぐ調べられるのは・・・「火」と「水」、あとは水のついでに「風」と「氷」か。


「光」は昼間は難しそうだ。やるのは夜暗くなってからだろうな。

「土」はすごく欲しい。だって魔法師のトップがあれだけ推すんだから。でも調べるのには砂が必要と。後で探しに行こう。

「時空間」。僕はもう回復が使えるから書いてあった調べかたはできない。専門家を紹介してもらうしかなさそうだ。


ということで、まず僕は手燭てしょくのろうそくに火をつけてテーブルに置いた。

我が家の手燭は飾りのついたちょっと豪華なものだ。亡くなった両親は道具にこだわる派だったみたいで、ちょっとした小物でも結構趣味のいいものを使っていた。

そんな両親を見ていたので、僕も持ち物にはちょっとこだわるようにしている。もちろん財布と相談してだけど。


さて、「ろうそくの火に魔力を注いで、火が揺らぐか大きくなれば適性あり」だったよな。風が入らないように一旦窓を閉めよう。


さあいよいよ魔力を注ごう。

ドキドキしてきた。少し呼吸が荒くなる。

いけないいけない。落ち着いて深呼吸して・・・はぁああ・・・ふうぅぅぅ・・・

よし大丈夫。呼吸も落ち着いてきた。


あれ? もしかして本に書いてあった「鼻息かも」って案外適切な指摘だったのかも。

なんて考えているうちにいつもの状態を取り戻した。

よし。


ろうそくの火に神経を集中、そして魔力を注ぐ。

するとろうそくの火は・・・


消えた。


消えた場合はなんだっけ・・・ええっと確か・・・「安物のろうそく使っちゃダメ」。

いや安物は使ってないよ! これでも道具にはこだわる派!

だからきっと単なる偶然。気を取り直してもう一度やってみよう。

火をつけて魔力を注いで・・・


消えた。


なんで!?


もう一度やったけど、魔力を注いだ瞬間に火が消える。

これはもう偶然じゃない。

きっと魔力が何か作用しているはずなんだろうけど、『ゴブま』も想定外の現象って事?


考えても分からないや。次いってみよう。

次は、水。


ろうそくを片付け、テーブルにコップを置く。

水差しでそのコップの縁いっぱいまで水を注ぐ。

ちなみにこの水差しもおしゃれ。両親のだけど僕もお気に入り。

さて、水の適性はどうかな?


水の適性は、あふれた水の量で判断する。少しあふれればちょっと適性あり、多くあふれれば凄く適性あり。分かりやすい。

泡が出たら風魔法、これは水の中に風が吹いたってことなのかな?

凍ったら氷魔法。これは凄く納得できる。っていうかもうそのまんま。


そして僕がコップの水に魔力を注ぐと、なな何と! コップの水が! 何と!

徐々に減っていった。


はあぁ!? 何コレ!?


またも『ゴブま』の想定外。

減るって何? 何がどうなったら水が減るの? 蒸発したってこと? でも水蒸気は出なかったし。コップに穴が・・・あいてないし。お気に入りのコップだから穴あいてたら泣くし。


火は消える、水は減る・・・どちらも適性がマイナスってこと? いやマイナス適性とか意味不明すぎる。それともこれが魔法? だったら逆に凄いんじゃない?

火を消す魔法で火災を止め、水を消す魔法で水害を防ぐ、そんな冒険者・・・


『やりたいようにやればいい。なりたいモンになればいい。目指すモンがあるんだったら目指せばいい。自分の人生だ。自分で決めりゃあいいんだよ。周りの意見? 聞きたいんなら聞きゃあいい。それだって自分で選択したことだろう?』


ありがとう主人公ヒーロー。あとでギルマスに相談してみるよ。それと防災冒険者は目指さないことにするよ。




さて、おなかが空いてきたことで、まだ起きてから何も口にしていないことに気がついた。

と同時に、ふと「今朝はピノさん来ないんだな」なんて考えた自分に気付き、苦笑する。

朝起きて一人なんて、ここ数年当たり前だったんだけどな。


まあ朝はギルドが一番忙しい時間だからね。用もないのに来るわけがないさ。

でも大丈夫、だって昨夜ピノさんが「これ明日の朝ごはんに食べて下さいね」って香草焼きを取り分けておいてくれたから。

二日続けて豪華な朝ごはん。ピノさんご馳走様でした。



ギルドに到着すると、朝の受注ラッシュは一段落したようで、ゆったりとした雰囲気だった。

「おはようございます」

僕の挨拶に気付いたギルド職員や何故か朝から一杯やってる人たち。思い思いに手を挙げたり挨拶を返してくれたりしてくれた。

そしてカウンターからは、

「おはようございますカルア君。今朝は随分ゆっくりですね」

とピノさん。


そのカウンターに僕は向かい、

「おはようございますピノさん。今日は朝起きてすぐ魔法の適性を調べてたんですよ」

「ああ、さっそくやってみたんですね。どうでした? 何か適性ありました?」

「それが、ちょっと昨日の本に書いてない変な結果になって。ギルマスだったら何か知ってるかなと思って来たんです」


「ギルマスだったら執務室にいますから、相談できるか訊いてきますね」

「ありがとうございますピノさん。よろしくお願いします」

「ちょっと待っててくださいね」


奥へと消えるピノさん。

しばらく待っていると、ギルマスと一緒に戻ってきた。

「おはようございますギルマス。わざわざすみません」

「いやなに、問題ない。私も君の魔法適性には非常に興味がある。むしろ聞かせて欲しいと思っていたところだ。さあ早速こちらで話を聞こう」


ギルマスと個室に向かう。

ピノさんはお茶を用意してくれるようだ。

「さて、それじゃあ話を聞かせてくれるかな」

僕は、昨日読んだ本の事、昨夜本の通りに魔力トレーニングを行い、今朝になったら若干魔力が増加していたこと、そしてそのあと行った属性の適性判別の結果を伝えた。

その話の最中、給湯室で淹れてきたお茶を出してくれたピノさん。

そのまま当然のように僕の隣に座るが、その動作はあまりに自然で疑問に感じる余地が無い。

一気に話し終えた僕は、お茶を一口。ほぅっ・・・


「なるほど。まず魔力の増加だが、一晩で僅かとはいえ認識できるほど増加するというのはペースとしては非常に速い。どこまで増えるかは人によるが、カルア君の場合はなかなか期待できそうだな」


やった!


「次に火と水の適性判別の結果だが・・・正直この現象は私も聞いたことが無い。ちょっと待っていてくれ。昨日話した元王宮魔法師に訊いてみよう」

「ありがとうございます。お願いします」

「うむ。それで他の適性判別はどうするつもりだ?」


「今日これから砂を探しに行くつもりです。光の適性は夜暗くなってからやってみようかと。時空間はすでに回復が使えるので、どうやって調べたらいいのか分からないんです」


「砂か・・・。君は森の奥に川があるのを知っているかね。その川を少し下ると白い砂の河原がある。そこの白い砂はガラスの原料に使用されており、かなりサラサラしている。土属性の判別には適しているだろう」

そのあたりだったら今から行けば夕方までには帰って来れそうだ。


「素材としての依頼が出ることがある砂だから、ギルドでもある程度の在庫を持っている。そこから分けることもできるが、せっかくだから魔物討伐でもしながら行ってくるといい。今の君なら危険も少ないだろう。丸ごと持って帰れるよう魔法の鞄も貸し出せるぞ。近々貸し出しの制度を始めようと用意していたものだ。貸出料は取るが、狩った魔物を丸ごと持って帰れるから収支は間違いなくプラスとなるだろう」


その鞄、ダンジョンに行くときに借りたかった!

あの日諦めた素材の山が脳裏をよぎる。何往復も。


「ぜひお借りしたいです」

「分かった。では用意させよう。ピノ君」

「はい。すぐにご用意いたします」


「光に関しては、まあ暗くなってからやってみるといい。時空間はやはり専門家の案件だな。依頼はするが話を聞けるのは少し先になるだろう。だがまあ時空間魔法はどれも魔力喰いだ。時空間魔法が使えるだけの魔力量になるまでには十分間に合うだろう。それに冒険者に最も必要な回復魔法については、君はすでに使えているしな」


そうだね。魔力が使えないうちに適性だけ分かっても気が逸るだけだし。


「取り敢えず今訊きたかったのはこんなところか?」

「そうですね。これで全部だったと思います」

「うむ分かった。先ほどは危険は少ないといったが、それでも思いもよらないことが起きたりするものだ。君が体験したように突然転移トラップが発動したりとかな。だから油断せず、十分気を付けて行ってきてくれたまえ」


「はい、ありがとうございました」


ちょうどそこにピノさんが魔法の鞄をもってきてくれた。

「はいカルア君。こちらが貸し出し用の魔法の鞄です。これひとつでかなりの量が入りますから、日帰りなら十分足りると思いますよ。貸出料は持ち帰った素材の換金時に相殺します」


「ありがとうございます。じゃあ早速行ってきますね。ギルマス、相談に乗っていただきありがとうございました」

「うむ。ではな」

「じゃあカルア君、森に行く前には依頼票を確認することをお勧めしますよ。ついでにできる依頼が見つかるかもしれませんからね」


さすがピノさん。それもそうだ。せっかく行くなら効率よく。

そして見つけたピッタリの依頼。

「ガラス素材の砂の収集。ガラス工房より」

きっとこの依頼があるってこと知ってて言ってくれたんだろうな。





森を歩く。

何度も入った森だ。川の位置は知っている。

まずは川まで行き、そこから下流に向かう予定。


道すがら狙う獲物は魔物だけ。魔物じゃない動物は相手にしない。

だって魔石を持っていないから。スティールできないから。


ギルマスみたいに魔物のいる場所を見つけることはできないから、気づかれないようにそっと近づくなんて今日はできない。

僕を見つけて襲い掛かってきた魔物への対処がほとんどとなる。

何があってもすぐに対応できるよう、常に気を張っていなければならない。


と言ったそばから。


ガサガサガサ


少し離れた場所で茂みが揺れ、


「ブフォーーー」


フォレストボアが突進してきた。

ちょっと前の僕だったら慌てふためいていたところだが・・・


「スティール」


ズザザザザザーーーー


音もなく僕の前に現れた魔石。そして突進の勢いのまま地面を滑ってくるフォレストボアの死骸。

そのどちらも魔法の鞄に入れ、先を進む僕。

うん、強くなってる。そして今のって、我ながらすごくカッコよかった気がする。

思わずニヤける。いけない、油断禁物だ。

僕の冒険はまだこれからだ! って集中集中!!



しばらく進むと川に到着した。

そこから川に沿って下流に進み、ギルマスが言っていた白い砂の河原に到着。するとそこには先客がいた。

その先客は一頭のフォレストブル。そう、ピノさん特製ビーフシチューのお肉だ。美味しかったなあ。


目の前のフォレストブルは、僕にはもうお肉にしか見えない。お肉が歩いている。お肉が河原で水を飲んでいる。お肉が僕を待っている!


「スティール」


お肉ゲット。ついでに魔石もゲット。

これはもう戦闘とは言えない。採取だ。魔物からしたら搾取なんだろうけどさ。


河原の砂も魔法の鞄へ。依頼分と自分用。もし土魔法が使えるようになったらガラスを錬成してみようと、自分用は少し多めに採取。ちょっと多かったかな? ギルドで鞄を返す前に家に置いて来なきゃ。



さて、用は済んだ。じゃあ街に戻ろう。

ここに来て初めて気づいたけど、河原から続く道がある。たぶんこれ、砂の採取依頼を繰り返すうちにできた道なんだろう。だからきっと街まで続く道だ。ここを通れば簡単に帰りつけるだろう。




油断したっ!!

気がついたときにはもう、1頭のウルフが僕に跳びかかってきていた。

スティールなんて使う暇がない。

僕は勢いよく地面に倒れ込むことで何とかやり過ごす。

そして今のうちに何とか離脱をと周囲を見回すと、すでに手遅れだった。

その時にはもう、僕は完全にウルフの群れに囲まれてしまっていたから。


僕は叫びそうになる自分を何とか抑え、大きく息を吸い込む。

よし、行ける!

そして僕は死を振りまく。


「スティール」「スティール」「スティール」「スティール」「スティール」「スティール」「スティール」「スティール」「スティール」「スティール」


目の前には10個の魔石、そして消えるウルフの気配。

まだ他にいるか?

僕は注意深く周囲を見回す。

目に見えるところにはいないようだ。

念のためもう一度。

「スティール」


目の前に現れる魔石がひとつ。何処かにまだ残りがいたんだ!

ならばもう一度!

「スティール」


今度は魔石は現れない。でももう一度。

「スティール」


どうやらもう大丈夫そうだ。

まず足元に転がる11個の魔石を魔法の鞄へ。

そして見える範囲に転がっている10頭のウルフを収納してまわる。

その最中に茂みの中に横たわる11頭目を発見し、これも収納。


今のは危ないところだった。

彼らは群れで狩りを行う。1頭目が跳びかかってきたあと、もし彼らが次の連携を僕より先に始めていたら、僕の命は無かったかもしれない。

今回、僕のほうが先に動けたのは偶然の結果に過ぎない。


それにしてもっ!!

まったく何をやってるんだ僕はっ!!

ボアとブルを簡単に仕留めたことで、自分でも気づかないうちに気が緩んでいた。これじゃあスティールが進化する前よりも弱くなってるじゃないか!


緩んでいた気持ちを引き締め直し、今度こそ油断せずに街へと向かう。

それからは何事もなく街に帰りつく事が出来た。

魔物は油断している相手に襲い掛かってくる、という今まで知っていたはずの常識をあらためて思い知った帰り道だった。



「ただいま帰りました」

家に自分の砂を置いた僕は、依頼の達成報告と換金のためにギルドにやってきた。

「おかえりなさいカルア君。依頼の砂は手に入りました?」

「はい。どこに出したらいいですか?」

「奥の素材置き場にお願いします。こちらへどうぞ。魔物とかもそこでいいですよ」


僕はピノさんに連れられて素材置き場へ。

用意された容器に砂を入れ、その横に11頭のウルフ、フォレストボア、フォレストブルを出した。


「たくさんとってきましたねー」

「はい。ウルフは帰り道で襲われたんですけど、ちょっとピンチでした」

「無事でよかったです、ホントに。一人でこんな数の群れに襲われたら普通ただじゃすまないところですよ。本当に危ないところでしたね」


反省しきりの僕の姿に、その事にはもう触れないでいてくれるピノさん。


「それにしてもカルア君、気づいてます? 一人でこれだけの魔物を狩って来れる冒険者、このギルドには他にいませんよ」

「え、そうなんですか?」

「ギルマスを除いて、ですけどね」

「ははは、ですよねー」





そしてにっこり笑ったピノさんはこう言ったんだ。

僕が予想して、いや期待していたとおりに。

「それじゃあカルア君、今夜は何が食べたいですか?」

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