54 システム




『かわらちゃん! またねー!』


「瓦ちゃん?」

「はい?」

「アナタ、瓦ちゃん?」

「はい?」

「屋根の?」

「そんなわけないでしょう。河っ原の方です」

「ああ! 苗字か。名前かと」

「なんでですか」

「いや、ちゃん付けされてたから」

「……それが?」

「え?」

「え?」

 ︙

「……っていう話」


 イッサンに一人芝居を見せられていたがとりあえず。


「ごめん、なんの話?」

「だから出会いの話だよ」

「ああ、彼女との?」

「いや?」

「はい?」

「付き合ってねえよ?」

「ああ付き合いたいって話ね」

「…………出会ってないよ」


 唐突にイエミチが会話に入ってきた。


「は?」

「急にどした? イエミチ」

「……出会ってないよ」

「え? カワラちゃんと?」

「出会ってないよ」

「急に怖い話になったっ⁉︎」


 結局なんの話かわからないままだった。


 時刻は午後四時過ぎ。

 僕らは連れ立って『明王堂』に向かった。

 受付で『瞑想室メディテーション・ルーム』を借りる。多少魔法を使っても大丈夫なようになっているが、破壊魔法は射撃場等への移動を。とのこと。


「アア……」

「なんっか、重い感じがあるな。空気が、というか。雰囲気がというか」

「はいっ、吸ってぇー……吐いてぇ、マナを身体に取り込む運動ーぅ!」


    ▼


「それじゃあ、始めようか。研究も、軍事作戦も最初の原則は同じ──てことで、何を知らないかではなく、何を知っているかを確かめまっす。そのままゆっくり深く呼吸しながら聞いてね」


 三人床に座る。僕が二人に向かい合う。


「昨日、とりあえず当面のAPの使い方は僕に任せてくれるってことなんで、二人には呪文枠スロットを解放してもらいました」


 二人がうなずく。


「改めてその辺を含めたスキルの説明をしたいと思います。聞き終わった後、自分をどう構築していくか考えずにはいられないようになっているでしょう。今日はこの『瞑想室』に籠って、ついでに魔力マナを蓄え覚醒を促していきたい、と。そんな感じで」


 二人がうなずく。僕もうなずく。


    ◆


タキヤタロウ

【レベル】11

【AP.】 3

【Spell Slot】

 1日の呪文数

  レベル0 3 

  レベル1 2

  レベル2 1


    ◆


イトウイエミチ

【レベル】22

【AP.】 6

【Spell Slot】

 1日の呪文数

  レベル0 4

  レベル1 3

  レベル2 2

  レベル3 1


    ◆


「見ての通り、スロットを新たに解放すると、下のレベルの枠も軒並み増えます。チョト、オトク」

「でも枠だけじゃ魔法使えないぜ?」

「そうだねーってことでもない」

「ん?」

「二人には出来るだけ高レベル帯の魔法習得を念頭に置いてまずは動いてもらいたい。実際にそうするかどうかはまた後でも考えられるので──」


    ◆


【Ability】

  [追加特技/extra skill]


 APを使用して取得した技能・魔法がこの欄に記される。

 発動に詠唱は必要なく、イメージするだけでよい。だがやはり、言葉にする方がイメージし易く発動も容易な為、あえて名称を唱えるのが一般的。その方が周囲の者にも何をしようとしているのかが分かり、パーティー連携の助けにも成るため、探索者チームのスタンダードになっている。


    ◆


「エキストラ・スキルの利点。それは一度覚えてしまえば誰が使っても同一の力が出せること。体調や集中力や練習の不足で失敗することはない。そして、魔力量や資質によって本来、扱うことができない魔法もAPさえ支払うことができれば使用可能になること」


「ん? そりゃどういうことだ? 前半はわかったけど後半のはまるで──」


「そう。逆に言えば、魔力や資質が十分で、しっかり勉強して練習すれば、APを使うことなく習得できる。僕のステータス見たでしょ? そうやって覚えた魔法は[追加特技/extra skill]じゃなく、[特技/skill]の方に記載される。呪文レベルが低めの魔法はわりとみんなが習得できる技術なんだよ」


「そのためには、まず……魔力が必要で、」

「今、俺たちは『瞑想室』で魔力を溜め込んでいるわけか」

「そゆこと」


    ▼


「実はこのステータスのシステムには特技と魔法の区別がつけられていない。習得したエキストラ・スキルは使えばなんでもかんでも[呪文枠(スペルスロット)]を消費してしまうけど、実際は魔力の運用と身体操作なんかで使える技能なんかもある。試験の時にあった恐怖を振り撒くような【威圧】とか。なんとなく魔法の存在を【感知】するとか、魔力の動きで対手の動きを【予見】するとか、ね」


「まじ? なんつーか、ゲームでいうシステム外スキルとか、プレイヤーズスキルみたいなのがあるってことか?」

「それは僕知らないんだけども」


 イエミチも魔法の話より興味がありそうだった。


「まずは魔力を感じよう。感覚を研ぎ澄まして。んだ」


 魔力に親しむことから始めよう。

 ルガルタとはいわない、【知覚の覚醒アウェイクンド・アウェアネス】を得るまで漕ぎ着けたい。


「そして同時にモンスターと対峙した時に起こり得る危機を体感してもらいまーす」

「起こり得る危機?」

「麻痺、毒、拘束、加速かな? とりあえず」


「エ?」

「え?」

「エ? ……体感?」

「え? 本気か?」


    ▼


『ギャやアアアあああ────ッ⁉︎』


「基本的にチームで攻略するのが迷宮探索である以上、魔法を使わないメンバーであってもその効果範囲やタイミングを把握していなければスムーズな連携は望めない。で、それは実際にやってみなければわからない。でも初心者じゃ一日に二~三回しか使えないため回数こなして慣れるってことが難しい。んだけど、二人とも僕とパーティ組んで良かったね! 回数こなせるよ!」


「ちょ、待っあがが──⁉︎」

「うぐぐ……」


「魔法によっては視覚での判断がしにくいものもある。たとえば今かかってる【束縛円バインディング・サークル】が罠的に設置されていたり──、」


『シビビビビビ』


「【範囲金縛りマス・パラライズ】といった範囲が広めで起動が早めの魔法。気付いても範囲外まで退避できなかったり。味方のそれで実戦中、敵と一緒に棒立ちになることもしばしばあるようだ。『電脳ラウンジ』の過去ログ漁って得た情報だけどね」


「──これはアレだぞお前! 『パーティ仲間拘禁拷問毒殺未遂事件』だ! 訴えてやる!」

「ごめんね?」

「軽いッ‼︎」


    ▼


「──にしても、APを使用せず魔法が習得できるとか、呪文枠の温存が可能だとか、公開したら大騒ぎだな」

「どうかなー」

「え、なんでだ? すぐに検証勢が走るだろ?」

「それはそうかもだけど。自分がAPを使って取った魔法の情報を簡単に公開する気になるかな? 呪文や魔法陣を見せる? 確実に見せた相手が自分より先んじることになるのに?」


 イッサンが難しい顔で唸りつつ言う。


「そうなると、誰かが善意で良かれと思って公開するのもビミョー、か?」

「……うん。感謝もされるだろうけど、すでに取得しちゃってる人からは不満も出るだろうね」

「不満、で済めばいいけどな」

「……それって、どう、なんだ……?」


 イエミチが不満そう、な気がする感じで腕を組んだ。

 イッサンが苦笑する。


「いいヤツばっかじゃねぇから」

「うん。迷宮とは関係ない所でステータスを得た人もそこそこいるみたいだし、そういう人って良くも悪くも話題になってる能力者ってやつが多いらしいしね」


 イッサンが繰り返す。


「いいヤツばっかじゃねぇからなあ。ってなると、徐々に広まるのを待って、全体で検証しようって機運が高まるのを待つしかねぇ、のか?」


 そろそろ時間。

 各々立ち上がり、『瞑想室』の出口に向かう。


「その機運はたぶんどっかがコントロールするよ」

「そうなのか?」

「うん。トップチームの連中はすでに気付いている人らもいるだろうし。少なくとも〝R〟関連のクラブチームなら上の方はもう知ってるでしょ。それを見据えた人材の育成を考えてるっぽいし」

「マジか。〝R〟ってそんなに抜きん出てんのか」

「いや〝R〟だけじゃないんだろうけど、あそこには『ヴァーミリオン』がいるからね」


 そしたらイエミチが手を挙げた


「それよりむしろ、どうしてそんなにアオノは詳しいのか、の方が、気になる……けど」

「あ、うん。検証を手伝わされたからね。まあ情報は共有してくれたし、助言もくれるからいいんだけど」


 言いながら扉を開ける。


「誰によ?」

「あれだよ。世界の裏で暗躍してる系のヒト」

「ああ、代表理事のお孫さんか」

「覚えてたんだ?」

「おう、よろしく言っといてくれ」


 連れ立って『瞑想室』を出ると、一人の男が待っていた。

 なんか、丸い感じの男だ。



『きさまがシンか?』














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