52 基本ステる
事業団のサイトには、探索者専用『探索行記録』という掲示板がある。
探索者たちが任意でその日のチームの予定を書き込む場。
一つは探索予定地点。
迷宮という茫漠と広がる地下世界は、どこまでも狭い洞窟が続くってわけじゃない。
ぼんやりと発光する植生繁る鍾乳洞の天と地を、数百メートルに及ぶ石柱が支ている。
都市の廃墟がひっそりと岩壁に連なっている。
まことしやかに囁かれる移動する魔物の生成工場──なんてのが本当にあるのかもしれない。
各所でさまざまな特徴があり、驚異があり、脅威がある。
そんないくつもの探索地が、だいたい略称で書き込まれてた。
円盤、精錬山、渓谷、呟き回廊に森の神殿。
一つは帰還予定時刻。
事業団が公式に救助隊を派遣することはないため、当初ここはあまり使われてこなかった。
しかし、予定通りに帰還がないことに気付いた知り合いの探索者が有志による救助隊を作り救助に向かい、無事帰還を果たしたことが幾度かあり、以来、徐々に活用されるようになってきた。
◆
そんな掲示板を眺めていると、イエミチとイッサンが合流。掲示板には書き込まない。知り合いもいないので。
「いやお前らナメてんな、迷宮を」
会うなりそう言うイッサンに僕はイエミチと首を傾げた。
「格好だよ。服装だよ」
僕はパーカーの上にミドル丈のミリタリージャケット。
イエミチはカジュアルなジーンズスタイルに、アウターは着物の羽織だ、かっこいい。
対してイッサンは金属糸が折り込まれたツナギ。迷宮区内、防具屋で売ってるやつ。色のバリエーションがいろいろあって、イッサンのは茶色だった。
防刃・防弾・耐衝撃に優れた、探索者には初心者からベテランまでお馴染みの定番装備。ちょっとごわごわしてて、ちょっと重い。
「いやオシャレかっ。なんだお前ら」
「俺は、父から渡されて……。なんか、[異境]に着てったらいい感じだったって」
「なんだそりゃ」
「たぶん異境の
「そんなことがあんのか」
覚醒するのは人間だけじゃない。人間だけが特別なんじゃない。
「僕のもはろさんから貰ったおさがりだ」
「誰?」
「世界の裏で暗躍してる系の人」
「なんだそりゃ」
「目的は不明」
「なんだ愉快犯か?」
「代表理事のお孫さん」
「よろしく言っといてくれ」
僕はおざなりにうなずいた。
「まあそんな話はともかく、軽微の【
ビシ、と指さす。
「なんだとおっ⁉︎」
イッサンは大げさに仰け反った。
「イエミチのも似たようなもんだろうね」
「……く、そんな」
ノリよく打ちひしがれたのは一瞬で、イッサンは少年のように期待に目を輝かせて言う。
「なあなあ!」
言わんとしてることが手に取るようにわかった。
「俺のは?」
「わかった。次持ってくる」
「うおおっ! やったあっ!」
「ビキニアーマーでいい?」
「ヤだよッ⁉︎」
▼
『
かつては様々な機器やケーブル等でごちゃごちゃしていたらしいが、今はそんなことはない。
大きな電光掲示板に本日の迷宮内の死亡率、温度、イレギュラー情報に探索中のパーティ名。
受付カウンターとずらりと並ぶ自動
5メートルくらいある金属の四角いトンネル──セキュリティ・ゲートを通る。何を調べるためのゲートか知らないが、金属・危険物の持ち込みでないのは確かだ。
扉を開けて入った先に防疫と収集物受け取りの閉塞管理エリアがあり、そこを通り抜けるとトンネルのように整えられた広間。
そして、そこにぽっかりと口を開けた迷宮の入り口。
幅40メートル。巨大な長方形の入り口、緩やかに地下へと続く。
そしてその脇には盛大に焚かれた──護摩。
張り巡らされた壇線。
林立する護摩札。
ちらほら見える坊さんたち。
これまでの電光掲示板だの防疫設備だのなんだのからの差がハゲしい。
進んでいくと、ビーチチェアでくつろぐグラサン派手シャツのヤクザがいた。ヤクザ?
まあいいか。
▼
迷宮の、いわゆる侵入口の坂を下る。
両側の壁には札──護符がべたべたと貼ってある。
壁だけに留まらず、天井や足元にも仏教的、密教的、神道的、修験道的、陰陽道的、道教的、忍術的、呪術的な
それらの大半が大した効果もないが、逆に言えば微弱な効力は発揮している。日々新たなものが作成され、より強力な護法の開発、検証がなされている。
そんな周囲をきょろきょろと確認しながら歩いていると──。
──ポーン!
と端末の通知音。
イッサンが手首の
ここはもう迷宮の最上層。ネットワークとの通信は切れている。
「うおおお! 来たっ、インストールきた────ッ!」
この状況で端末へのインストールはステータス・アプリ以外にはない。
見せられたステータスはこんな感じ。
▼
アナタ ノ アビリティ・スコア デス
タキヤタロウ
【レベル】11
【AP.】20
【筋力度】10
【耐久度】11
【精神度】11
【知性度】15
【器用度】17
【敏捷度】13
【魅力度】 9
【運勢度】15
【Ability】
[特技/skill]
──
[追加特技/extra skill]
──
[特質/attribute]
【Spell Slot】
1日の呪文数
──
【Title】
──
◎ You can get skills & items !
Would you like to use your AP ?
▼
「あれ? これ間違ってるね」
僕がそう言うと、イッサンは不安そうに顔を歪めた。
「なに? どれ?」
「称号に性豪がない」
「あってたまるか!」
「ざーんねん」
「ったく、というか落ち着いてんな、イエミチも。ステータスだぞ? なんでお前らそんな冷めてんだよ」
「いやすでに持ってたし」
「俺も」
イエミチも端末のスクリーンを見せてくれた。
▼
アナタ ノ アビリティ・スコア デス
イトウイエミチ
【レベル】22
【AP.】38
【筋力度】49
【耐久度】14
【精神度】12
【知性度】17
【器用度】19
【敏捷度】43
【魅力度】20
【運勢度】10
【Ability】
[特技/skill]
[追加特技/extra skill]
──
[特質/attribute]
──
【Spell Slot】
1日の呪文数
──
【Title】
・
◎ You can get skills & items !
Would you like to use your AP ?
▼
「あのー、俺とレベルが倍も違うんですけど。俺、年上なのに。それになんだよ49て」
「ね。すっごい。魔力だなんだの影響が出るまではトップアスリートでも45から50の間って話だったし」
「……少し見ない間に変わってる。前は剣術なんてなかった」
「前は『戦闘術』だったね。最近枝分かれしたんだよ。『剣術』と『武術』と『戦闘術』に」
「あ、それ知ってんな。なんだっけ、たしか一時期、騒ぎがあったんだよな二ヶ月くらい前? 戦闘術が剣術に変わってるって、話題になってすぐまた戦闘術に統合されて、少ししたらまた分かれたっつって。それでやっぱシステムの管理者がいるだろうとかいう」
「へぇー……」
イエミチが興味あるのかないのかうなずいた。
「探索者の動向を窺ってるんじゃないかって積極的に希望要望願望は発言してった方がいいんじゃないかってな。で、シンは?」
「僕の? いいよ」
▼
アナタ ノ アビリティ・スコア デス
アオノシン
【レベル】24
【AP.】18
【筋力度】18
【耐久度】37
【精神度】44
【知性度】25
【器用度】19
【敏捷度】24
【魅力度】28
【運勢度】15
【Ability】
[特技/skill]
・魔法
・
・藍
・青剣
・
[追加特技/extra skill]
・初級回復術
・軽傷治癒
[特質/attribute]
──
──
【Spell Slot】
1日の呪文数
0レベル 2
1レベル 1
【Title】
──
・青鬼の
◎ You can get skills & items !
Would you like to use your AP ?
▼
ステータス・アプリは隠したい項目は隠せる。ただし改竄はできないけど。
「なんかお前のはレベルとか数値の前に、聞いていいのかもわからない項目がありすぎる。とりあえずシンはもうAP使ったんだな」
「使ったー」
◆
主にレベルアップ時に増えるが、それだけでなくわりといつの間にか増えてることも多い。
検証勢が頑張ってはいるが確かなことはわかっていない。
モンスターとの戦闘が上りやすいとは言われているが、迷宮に入っただけで上がったという報告や、メンバーとの訓練で上がった報告もあり、それどころか街への買い物で上がった報告まであるため、なんとも言えない。
ただレベルアップ時の加算が一番大きいとは言われている。
◆
APを使用して取得したものはエキストラ・スキルの欄に並ぶ。
取得したのが魔法の場合は、さらにレベルに応じたスペル・スロットを取得しなければならないが、より高いレベルの呪文スロットを取ると、そこより低いレベルの呪文スロットの数も一緒に増えるので、魔法をメインに考えてるなら高レベルスロットを取得したほうがAPの節約につながる。
しかしそこには当然のように例外があり、裏道があり、抜け道──に見える正道がある。
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