50 激レアモンスター、スライム!
見学会が終わり、端末で資料を見ながら帰る。
ページをスライドさせて迷宮浅層に出るモンスターを確認する。
「こういうとこならいるのかと思ったけど、いないんだなー」
「何が?」
同じように資料を見てたタキさんが顔を上げた。
「スライム」
「なんだ、シンは知らねえのか?」
「何が?」
トントンとイエミチに肩を叩かれて振り向くと、一枚のカードを差し出された。
トレーディングカード。
渡されたそれを見ると、そいつがいた。
「スライム?」
「おおー、激レア」
覗き込んだタキさんが驚いて言う。
「レアなの?」
「レアだぜ。野生のスライムはいねえから」
「いないの?」
「そう。スライムは最近創り出されたんだよ」
◆
〈
なんでも取り込み、際限なくよく育ち増殖していく。この時点では、ただ自衛行動を取っているだけと言われているが、それが全てを呑み込む最悪の災害になり得る。食欲からじゃない。憎いからじゃない。ただ本能で殺す。
小さいうちに見つけたなら、火にくべるとか、酸や薬品で焼くなど、速やかに処理することが推奨される。森を、山を、街を、国を呑み込む前に。
◆
「そんなウーズの細胞から人工的に創り出された益獣がスライムというわけだ」
「益獣」
「都市部のごみ処理、湖沼・河川の水質浄化、有毒物質の無毒化、などの利用が期待できるそうで」
「へー」
「最初に創り出したのはアメリカの企業だが、日本でもすでに作り出すことに成功してる。そのカードのやつな。アメリカのドロドロしたやつと違って、日本のは通称グミって言われてる。研究者が抱き抱えてる動画が出回って、SNSでもやはり日本のがいいっつってかなり盛り上がってたんだぜ?」
「じゃあそのうちペットとしても売り出されたり?」
「ああ、それは当然あるものとして噂されてるようだぞ」
「当然?」
「開発企業があの『宇佐木グループ』子会社の玩具メーカーらしいからな」
「へえ?」
「それに『オカミ産業』が参入を表明したから、今やスライム事業の最前線は日本だっつう話」
「あー、聞いたことある気がする。オカミ」
「ぽっと出てきた瞬間、一気に名が知れたもんな。〈うつろいの壁〉を剥がし、突如出現した琵琶湖に浮かぶ摩天楼を本社に持つ謎多き大企業『オカミ産業』」
「なんか写真で見たことあるね。それでか」
「オカミ産業はまずはスライムで放射能の除去を目指す方針らしい。汚染地域に放し、汚染水に放り込んで放射性物質を消し去る」
「なんかあれだね。キング・オブ・モンスターズが産まれる未来しか見えないね」
やっぱそう思うよな、とタキさんは笑った。
▼
「んで、どうする? 迷宮。明日潜る?」
イエミチに目を向けた。
「いいよ」
「いや、待て。お前ら待て」
「ん?」
「訓練もなくいきなり行くつもりか?」
「まずはどんな感じか見たいよね」
「うん」
「マジか。……ってか、俺も入ってるよな? 俺もパーティの数に入っているんだよな?」
「ごめんなさい」
「いや待て待て待て待て」
「ごめんなさい」
「いやおいーっ⁉︎」
「だってタキさん無色だし」
「無職⁉︎」
「僕、青。イエミチ、黄」
「あー、いやお前はともかく、伊藤は無理くりだろ。じゃあじゃあ俺だって」
「えー」
「えーじゃない。俺の名前は弥太郎っていうんだ」
「タキヤタロウ?」
「そう」
「やっぱ色はないね。さよなら」
「待てコラ。弥太郎といえば小林一茶の本名が弥太郎だろ? ほら、一茶、茶色だ」
「無理矢理すぎない?」
「お前が言うな」
「しかも、茶って」
「いいだろ? な。俺も仲間に入れてくれ」
「しょーがないなあ。じゃあ今日から〝一茶(いっさ)ん〟て呼ぼうかな。ところで小林一茶て性豪だったらしいね。イッサン」
「え。なんか……やめてほしい。その呼び方」
▼
「なあ、真面目な話、先輩探索者に話を聞くのはありじゃないか?」
「うん?」
「神野修だよ。誘われてることだし、一度会いに行ってみないか?」
「あのイケオジね。いいね。イエミチは?」
「アア、構わない」
「じゃ、もらった連絡先にかけてみよう」
が、繋がらない。
「仕方ない、総合受付でアポ取れるか聞いてみよう」
イッチャンの提案に従って
そして僕らの耳に飛び込んできたのは、神野修の部隊壊滅の知らせだった。
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