47 二次募集開始




シン、代々木でじき第二次募集が始まる。お前はそいつに応募して迷宮に潜ってくれ。東京大強襲アサルトを阻止するんだ』

『うーん、僕には無理じゃ?』

『大丈夫。君の血はすでに目覚めてる。ここから一気に伸びるはずさ。瞑想を欠かさないようにね。それにひとりでやる必要はないんだ、仲間がいる。きっと新しい仲間もね。だから頼んだよ。そのための仕掛けもある。一応ね。たぶんね』


    ▼


アナタ ノ アビリティ・スコア デス


アオノシン

【Lv.】24

【AP.】18

【STR】18

【CON】37

【WIL】44

【INT】25

【DEX】19

【AGI】24

【CHA】28

【LUC】15


【Ability】

  [特技/skill]

    ・魔法

     ・初級ベーシック II

     ・藍

    ・青剣

     ・初級ビギナー

  [追加特技/extra skill]

     ・初級回復術

     ・軽傷治癒

  [特質/attribute]

    ・鬼人の血統ブラッドライン・オブ・アースラ

    ・藍相承アジュア・シアレテカリィ・リンクス


【Spell Slot】

 1日の呪文数

  0レベル     2

  1レベル     1


【Title】

 ・黄白鬼ラーフラ

 ・青鬼の弟子ジンニ・アプレンティス


 ◎ You can get skills & items !

   Would you like to use your AP ?



    ▼


 探索者の二次募集が始まった。


 期間中は毎日応募を受け付けている。

 一日目、二日目は長蛇の列を見てラーメン食べて帰った。


 五日目。

 あまり減ったように見えない。

 また思わず回れ右して帰りそうになったけど、このままだとズルズルと先延ばしにしそうなので、意を決して列に並んだ。

 数時間後に流れ作業で名前入りのチケットを渡された。

 今日は受付だけで、明日8時から時間厳守で試験開始のようだ。昨日受付した者たちは今日試験を受けてるのだろう。


   ▼


 翌日。

 代々木迷宮区と呼ばれるようになった高い壁の中、広いグラウンドに通されて、朝からほとんど説明もなしにいきなり体力テストが始まった。


「君たちの能力を見せてもらう」


 そんなことだけ言われて。


 重い荷物を抱えてぐるぐるとグラウンドを歩く。200人くらいだろうか。

 荷物は重さおよそ10キロ。さらに中に10リットルの水と食糧。

 面倒なのはその荷物に背負い紐等が無いことだ。みんな肩に担ぐなりして、いつ終わるのかわからないまま歩き続ける。そのうち続々と出る脱落者。


 僕は、女性の応募者が荷物を頭に載っけて手で支え、さくさく歩いているのを見てマネすることにした。


 目立っていたのはチラホラと見える覚醒者だろう人たち。

 荷物を軽々と小脇に抱えてる者、まるで風船にするように荷物をポンポンとお手玉して歩く少女。空中に静止した荷物を棒で押して歩き続ける人。


    ▼


 一時間に十分の休憩。

 お昼に一時間の休憩。

 水分補給や食事は担いだ荷物の中から。

 途中から荷物を抱えていない職員らしき男女が何人か後ろから歩き始めた。声をかけられた人がグラウンドを出ていく。


「果たしてアレは合格なのか失格なのか……」


 汗をかきかきつぶやいた。


「たぶん最後尾から追い抜かれた人は失格なんだろう」

「おや?」


 答えが返ってきて驚いた。反対を向くと知った顔。登校初日に「楽しそうでうらやましい」と言ってなぜか勝手にへこんでた彼だ。


「ヤア、青野森。自分は伊藤家路イトウイエミチ


 眉尻の下がった沈鬱な表情でそう言った。


「あ、うん。よろしく」


 いや彼はこれが普通で別に憂鬱だとか思ってるワケじゃないかもしれない。勝手な思い込みは失礼だ。


「アア、憂鬱だ」


 思ってた。


「どうした? ってかなんて呼べばいい?」

「好きに呼んでくれ」

「わかった、じゃあ家路だからイエローだね。僕のことはブルーって呼んでくれていいよ」

「わかったアオノ」

「あ、うん」


    ▼


 後ろから来る職員に追い抜かれる心配はなさそうだと確認してから、疲れを誤魔化すために話しながらイエミチと一緒に歩く。

 まさかイエミチもいるとはね、と聞くと、彼はなんと父親の命令で来たらしい。


「いやそれ大丈夫? 死の危険があるんですけど」

「自分は迷宮は初めてだけど、異境に入った経験はあるんだ」

「へえ」


 イエミチのお父さんは道場も経営している剣術家で、最近は自衛隊に協力して異境に入ることも多いらしい。新たに覚醒したもの──ルガルタであるのは間違いない。


「父は才能はあるとは言ってくれるが、しかし自分は父の足元にも及ばない。剣は好きだし、門下生たちはみないい人だけど、自分が道場を継がなければいけないのかと思うと…………無理。無理目のムリ」


 一方で、どうやらイエミチはルガルタではないようだ。


「なるほどね」


 つまりイエミチは自分で魔力を作り出せない。


「お父さんはただでさえ強かったのに、今はさらに強くなっている。門下生の中にも成長著しいのがいるのに、それに比べて自分はってことか」


 イエミチはわずかに目を瞠った。


「そう悲観するものでもない、かもよ?」

「?」

「異境にいると動きが良くなる?」

「アア、確かに。でも──」

「こっちだと元に戻る」


 頷く。


「お父さんはよくわかってる。魔力の濃い異境で魔力を取り込んだことで身体能力が上がった。こっちにも魔力はあるけど、まだまだ異境に比べれば薄い。こっちに戻ってきたことで魔力が消費されて身体能力も元に戻った。おそらく迷宮は異境よりも魔力が濃い。高地トレーニングならぬ迷宮トレーニングで魔力の覚醒を促そうってことじゃないかな」

「そうなのか? しかし父は一言もそんなことは……」

「うーん……そういう知識って持ってるのかな? 自衛隊も含めて、教える人がいて、教える仕組みや取り組みはなされているのかな?」

「アア、いやどうだろう?」


 そろって首を傾げる。


「もしかしたらお父さんは感覚でそこに辿り着いたのかもよ? すごいね」

「結局それって勘ってことじゃ……?」

「覚醒したもののカンを侮っちゃいけないよ。フォースを──いや違った、マナを信じよ」

「…………マア、いいか。希望があるなら」

「そそ」


    ▼


 16時を回って日が傾いてきて、ざわざわと騒がしくなってきた。


「なんかギャラリーが増えてきた?」


 やけに真剣な面持ちで見ている者もいれば、仲間内で話しながら見てる者、ビール缶片手に座り込んでるようなのもいる。


「第一次から潜ってる探索者さ」


 イエミチと振り返ると、息を弾ませつつ男がダルそうに片手を挙げた。

 気分を紛らわせるために会話に交ぜてくれと、どっかで聞いたようなこと言うので頷いた。

 多気タキと名乗った彼は23歳。「俺は去年の一次に落ちてな。体力づくりから始めて再挑戦」ということらしい。


「ギャラリーはスカウト目的だろう。あと二軍みたいなのを作っていて、後に続くヤツを育てようっていう人らもいるってな話だ。ほらあそこ見てみな。神野修じんのおさむ、第一期の最初から部隊を率いて探索を続けてる。唯一、第五層に到達してるのがあの人らだ」


 へー、なんて話していると、僕らのところにも職員が寄ってきた。何かと思えば、まさに今、話題にしていたジンノオサムさんからの伝言だった。ぜひ自分を訪ねて来いというお誘い。どうやら僕らの合格は疑いないみたいだ。

 伝言を持ってきてくれた職員に聞けば、僕らを一本釣りってわけでなく、いく人も誘ってる中の一人ってことのようだ。そりゃそうか。でも、悪いことじゃないだろう。


    ▼


 午後6時にテストは終了。

 無事ゴールできたのは四分の一に満たなかった。

 ゴールしても水を減らし過ぎた人も不合格になったようだ。

 僕たち三人は無事合格をもらえた。

 また明日の朝8時、時間厳守で来るよう言われ、チケットを渡されて解散となった。


    ▼


 翌朝。

 8時少し前に中央棟センター二階の中会議室に通された。

 イエミチが近づいてきた。多気さんもいる。


「昨日よりさらに減ってんじゃない?」


 言うと、多気さんがケケケと笑った。


「起きられなかったんじゃね?」

「え、まじ?」


    ▼


 その後は心理テストみたいなことをやらされ、事業団サイトの制限がかけられた映像を見させられたり、90分間の講習を受けた。

 どさりと長椅子に座り込む。

 もうお昼だ。

 中会議室に戻ると立食形式の昼食が用意されているところだった。

 お菓子なんかもある。


「すっしー!」


 僕は突撃した。


    ▼


 昼休憩後、中会議室で大人しく待っているが眠くなってきた。

 うつらうつらしていると、空気が粘着ねばつくように重くなったのがわかった。

 重いプレッシャー。誰かに見られている。

 この場にいる全員が戸惑い、落ち着きを無くす。

 吐き気を催したのだろう。口元を押さえて部屋から飛び出していく人らは昼食が仇になったよう、かわいそう。

 そこまで行かなくても悪寒に自身を抱える人、落ち着きなく行ったり来たりしてる人。

 そして、平然と本を読んでる人、油断なく周囲を窺う人。


「なんだこれ、すげえ気持ち悪ぃな」


 気味悪そうにしながらも割と落ち着いたままのタキさんが言ったが、僕は眠い。


「おい、この状況で寝ようとするな」

「意志を持って魔力をぶつけてきてるんだ。だいじょぶだいじょぶ、これもテストの一環でしょ」

「そうなのか。伊藤、お前も平気そうだな」

「俺は……経験あるから」

「そうなのか?」

「ン」


 そこでフッと重圧が消えた。

 すぐに何もなかったかのように職員が入ってきた。説明もなし。


「それでは皆さん、こちらの書面にサインをいただきまして終了です。晴れて皆さんも探索者の一員となります」


 タブレットを受け取る。

 細かい字がびっしりと。


「うへぇ……」


 念書かな?


「どういう書類です?」


 聞けば職員のお姉さんは優しく微笑んで答えてくれた。


「迷宮に行くのは自己責任で死ぬことも覚悟してるって書類です」

「あ、ハイ」


 僕は探索者になった。








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