次節のための間奏曲

42 アクト・チューン 次節のための間奏曲




 気付けば、交差点の前にいた。


 場所は繁華街とオフィス街の境、高級ブランドショップが並ぶ通り。


 人通りはなく、周囲の建物の明かりも軒並み落ちている。等間隔に並ぶ街路灯のオレンジ光と信号機のLED灯が闇を切り取っていた。


 通りの端に、回転灯を光らせた夜間清掃ロボットが、むいんむいんとごみを回収している。


 近くで犬がしきりに吠えていた――影に向かって。


 こんもりと盛り上がった小山のような影が、ごそごそと動いている――屈んでいた上体が持ち上がる。


 我知らず一歩後退った。


 犬が甲高く鳴いてびくりと飛び退ると、さっさとその場を逃げ去った。


 九十年代モデルの紺系セダンが、スピードを落とし横をすれ違い、走り去っていった。


 信号機に届きそうな、黒く塗り潰された巨大な影には、巨大な顔がのっかっていた。

 筋張って、黄色味を帯びた赤い顔。歯と目玉の白色がやたらと目立つ。

 顔の中心から、まるで花びらのように皮膚が切り開かれている。

 筋張っているように見えたあれは、顔の筋肉が剥き出しになっているためだ。切り剥がされた皮膚は、髪の毛で縛って固定されている。余った頭髪が触手のようにうねうねとうねっていた。


 生々しい肉でできた人面花の巨大オブジェのような姿。


 目蓋がないため剥き出しの目玉がぎょろぎょろと忙しなく動き、やがて俺を捉えた。


 唇のない剥き出しの歯がガツガツと噛み合わされた後、ゆっくりと口腔が開く――。



『あたしのだからぁああ! あたしんのだからぁぁぁああああッ!!』



 やっぱりか。

 世界が変わり始めたことで、もしかしたら、夢なんかじゃなかったのではと、思っていた。


 ウォルラスに備えるため、精神魔術の知識を得た頃から、もやがかかったようだった記憶が少しずつ鮮明になってるような気がしていた。



『あ、あた、あたっ、あたしんの、あたしんのっ…………』



 アイツを生き返らせることを望んで、何年経った?





『あたしんのなんだからあああアアアア────…………おまえ』








  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る