第23話
私は、夢を見た。
ずっと前、私が虐められていた時の事だ。
「成績が良いから」「先生への受けがいいから」「魔法が使えるから」「容姿が少し良いから」
それだけの理由で殴られ、蹴られ、物を隠され、虐められた。
ある時は少数で、ある時は大人数で。ある時は男子だけで、女子だけで。混合している事もあった。
私に殴り掛かる拳が近づいてくる。いつものように、殴り飛ばされるのだ。
そう思って顔を防御した。
しかし、殴られることは無かった。誰かがパシッと軽い音を立てて拳を受け止めて、問いかけていた。
「貴方達はそれが楽しい?」
拳を受け止めた人は、そう問いかけた。周りはそうだ、楽しいんだ、邪魔をするなと騒いでいた。
「楽しいなら、一人を虐めても許される?
大多数だから許される?彼女が反撃しないから良いと思ってる?
……そんな事は、ないよね。だって……」
目をしっかり開けると、そこに居たのは居るはずの無いカイだった。
「貴方達は、自分達が持っていない事を妬んでいるだけだから。努力をしようとせず、ただ努力している彼女を下に見ることで自分達の方が上だと思わせたいだけだから」
……そうだ、私は努力したのだ。
周りの生徒が困らないように、人一倍勉強した。
教えられるように、人一倍努力した。
魔法の手本になれるように、誰よりも頑張った。
容姿だって、勉強だって、魔法だって、体術だって、どれも手を抜かなかった。
「手を抜かず、力を持っている彼女が反撃しないから虐めていい?なら力を使われたら?貴方達の為に努力した成果を貴方達にぶつけて、怪我をしたらそれで立場が逆転するだけなのに?」
そこまで言われて、ハッとした。私が今学校でやっている事はそれではないか。
怖がられる立場に。虐められる所から虐める場所へ。全て自分を守るために。
「スレイスはあなた達を守る為に力を振るわなかった。問題にしたくないから、誰にも言わなかった。
……頑張ったね、スレイス」
そう言って、カイは私の努力を。
初めて肯定してくれた。
「貴方は、確かに人々の模範となるべく頑張った。人を傷つけないように、努力し続けた。周りのために、頑張り続けた。
……さぁ、周りを見て。貴方は否定されるべき人間じゃない」
そう言われて強引に立ち上げられると、周りにはカイを始めとして、知らない人々から……けれど温かな賞賛が送られてきた。
私の、その努力を称える声。
頑張りを認めて背中を撫でる手。
私の涙をそっと拭いてくれるハンカチ。
……そしてカイが連れてきた取り巻きの二人。
そうだ、私は虐めっ子になりたかったんじゃない。
ただ、自分を護りたいだけだったのだ。
「うん。それに気づけたなら良い。私がこの名前にかけて、ユグドラシルと共に守ってあげる。だから……
貴方が本当に正しいと思う道を選んで」
━━━━━━━━━━━━━━━
学校の裏庭。オオカミであるユグドラシルがいる場所に放課後、取り巻きの二人を呼び出した。
「スレイス、どうしたの?」
思えばこの二人だけは『さん』を付けなかった。それも、信頼の証なのかもしれない。
「……単刀直入に言うわ。貴方達、私に着いてくる気はある?」
「え?それどういうこと?」
もう一人が聞く。勇気を出せ、真人間になるために。
「……言葉通りよ。私はこの学校を退学する。そして、もっと遠い場所まで行く。
それに、着いてくる……ううん、着いてきてくれない?」
そう言って手を差し出す。二人は驚いたようだった。それはそうだ。私が握手のために手を出すなんて無かったから。
「……私は、行こうかな」
一人がそう言う。彼女も勇気を出したのだろう。下を向いている。だが、続ける。
「確かに家族はいるし、学校もある。……でも、私は外を知る努力をしたい」
「……!」
努力。彼女もそうなのか。
「……私も行こうかな。家族不仲だし。だったら今のスレイスと居た方が居心地良さそう。スレイス、知らないけど雰囲気変わったし」
雰囲気が変わった。彼女も私の事を見ていたのか。
いや、ずっと見てくれていたのだ。それに気づかなかっただけで。
「……ありがとう、二人とも」
━━━━━━━━━━━━━━━
一方、校舎内。
「はぁ!?スレイスさんが学校から居なくなる!?」
「そうしたら私たちはどうすればいいのよ!」
カイに集う取り巻きを、私は遠くから見ていた。
「学校で認められるように努力したらいいんじゃない?」
「簡単に言うけどね!アンタ、努力するのがどれだけ難しいか知ってるの!?記憶喪失のくせに!」
「そうよ!頑張るのって大変なんだから!」
スレイスが居なくなると聞いた途端にこれだ。人選は合っていたということか。
「なら、貴方達はスレイスの努力を知ってる?」
「は?」
「自分を護る努力。皆より優れようと頑張る姿。見たことないんじゃない?
それなのに、努力も頑張りもしない貴方達がスレイスを笑うのは……正直、不愉快」
まだだ。教室を押し潰すような威圧感。これには女子たちも、男子グループも何も言えなくなっていた。
私はそんな中、それを尻目に出ていくカイについて行った。
知恵の神は、全てを失って人となった 猫狐 @terex
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。知恵の神は、全てを失って人となったの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます