第20話
カイがそう伝えると、グレイシア護国軍の人は頭を下げる。
「助かりました。貴女が到着していなければ被害はもっと広がったことでしょう」
事実、集落の家は無惨に壊されたものも多い。ふと足元を見ると黒い赤色の雪が見えた。
「クルネ、あまり見るんじゃない」
そう言っておばあちゃんが私を胸に包み込む。そう言っている間に何かが運ばれていく音が聞こえた。
「貴方が村長さんですね。被害の方は……」
「……家と、二人じゃ」
二人、ふたり……。被害が意味する言葉は一つ。
「いや……なんで……なんで……?」
私がここに預けられてからずっと見守ってきてくれた人達が、2人。
死んだ。
「いやああああああああああああ!!!!」
私は叫んだ。泣いた。それを責める人は、誰も居なかった。
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「この魔物は……ふむ。極寒地域に稀に生息しているイノシシ型の魔物でしょうか」
「でしょうな。大方エサを求めて起きたのかと」
グレイシア護国軍と名乗った人達が魔物を調べている。私は、泣いたクルネを心配していた。
「私が……もっと、早く来ていれば」
「カイ殿が気に病むことはありませんぞ」
「……村長」
村長がこちらにやってきて暗い笑顔で言う。
そうか、私がもっと遅ければこの集落は全滅していた可能性だってあったのか。
「あの、すみません。この魔物の死体なんですが。街の方へ持ち帰ってもよろしいでしょうか?勿論、見合う対価はお支払いします」
「ふむ?儂は構わんが……何故?」
護国軍の人は話を続ける。魔物の、特に頭部を指差しながら。
「魔物は魔法であれ、武器であれ、討伐の際には血が流れたり部分的に切断されていたりするのですが。この魔物はそういった物が無い。つまり、サンプルとしての価値が非常に高いのです。もしこの魔物の研究が進めば、対魔物の香り、生態系のループなどが分かるでしょう」
「なるほど。それで彼女が良いのであれば……」
そう言って村長が私を見る。
「私?私は人のためになるなら良いけれど……」
「ありがとうございます。ついでに、この魔物を死亡させた魔法や方法について教えて貰っても?」
少し悩んだ。これはオオカミの知識である魔法だ。だが、伝えないよりマシだと思った。
「私が使ったのは、脳からの信号を切断する魔法です」
「ふむ、詳しくお聞きしても?」
護国軍の人に聞かれたので、詳しく答える。
「人、魔物。生きるモノには脳から司令を送る信号と、それを通す神経がある。私がしたのは、その神経に負荷をかけ、信号を全て塞ぐ魔法。……人間で例えると、四肢が動かなくなって息も出来なくなる」
「……それを、どこで知りましたか?」
軍の人の顔が険しくなる。それと同時に、村長が一人の兵士を連れて家の中に入った。
「えっと……」
「……答えられないか。では質問を変えよう。君は何故そうした?」
何故、と聞かれても。これも少し考える時間を貰ってから答える。
「……炎魔法はこの集落を燃やす可能性があった。かといって、氷魔法が極寒の地で過ごしていた魔物に効くかと言われれば、それなりの威力が必要になる。力で押さえつけるとなると、少なくとも武器と人が必要。だから直接魔物に干渉する魔法を使った」
「なるほど。消去法という事ですね。
……すみません。我々としては本意では無いのですが、その魔法は伝えられていないものでして。王都アイシクルまでご同行を……」
そう言った時、慌てて一人の兵士が駆けつけてくる。
「た、隊長!至急これを!」
「古びた紙だな。読んで欲しい、という事か。どの部分だ?」
「こ、この部分を!」
部下が示した箇所を隊長がじっくりと読むと、目を見開く。
「……すみません、もう一度だけ、お名前をお伺いしても?」
「……?カイ。私は、カイ」
そう言うと、部下に紙を返して深々とお辞儀をする。
「カイ様。此度は集落をお救いになってもらいありがとうございます……!」
「……え?」
なんか待遇が変わった。そう思った時、隊長から一つの銀印を貰った。
「もしアイシクルに来ることがあれば、門番にそれをお見せください。
それはグレイシアにおける銀印。決して、この方には無礼を働いてはいけないという印でございます」
「えっと……なんでくれるの?」
そう問いかけると、隊長を初めとして軍の人が深々と雪に埋まりそうなぐらい膝を着いてお辞儀をする。
「貴女様が、『知恵の神様』だからでございます」
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