第15話
四時間目も終わり、給食の時間。相変わらず男女問わず虜にしてしまいそうな可愛いカイは美味しそうに頬張って食べていた。
「なんか、この光景見るだけで学校来る価値ある気がするわ」
「わかるわ。マジ天使」
その意見には同意する。そんな事は歯牙にもかけず、カイはモグモグと食べている。
この数日で分かったことがある。意外にもカイは大食いだという事だ。
食い意地が張っていることは違う。ただ、食べるのが好きと表現すれば良いのだろうか。そこに食糧があり、食べられる事が嬉しく見えるのだ。
「カイ、美味しい?」
「うん。美味しい」
スープを飲み込んでから返答が来る。今日は塩味強めのスープだが、彼女にとっては何でも美味しいと思うのだろう。
「今日も林檎だ」
「えっ、早っ!?」
一人の男子がカイの方を振り向く。食欲旺盛な男子よりも、先にカイの方が食べ終わっている。林檎をこれまた美味しそうに笑顔で食べながら、私はまだフランスパンを食べていた。
「カイちゃん、俺の分の林檎あげるよ」
「俺も!」
男子が名乗り出る。何だろう、小さなお姫様が食べている姿にキュンとした、という感じだろうか。
しかしカイはフルフルと首を横に振った。
「気持ちは嬉しい。でも、私は昨日たくさん貰った。貴方達がこの美味しい林檎を食べられないのは、可哀想。だから、私にあげずに食べて欲しい」
その言葉に、男子に衝撃が走る。
「聞いたか、今の言葉」
「ご飯が好きで、更に林檎が好きなのに俺らのことを気遣って……」
「もう天使超えて神様だろ……」
(……神様)
その言葉に私はスープを飲みながら考える。
カイが言った未知の言語。神への問いかけ。オオカミが忠誠を誓う者。人の身体ではあるが、かけ離れた能力。
何よりも、一度見聞きしただけでその知識を得る力。
これを神様のチカラと呼ばずとして、なんと呼ぶのだろう。
「クルネ、食欲無い?」
ハッと気がつくと、心配そうにカイが見つめていた。私がずっとパンを持ったまま考えていたからだろう。
「ううん!カイが美味しそうに食べてるなーって見てた!」
「……そう。なら良かった」
無表情だが気遣う言葉、彼女らしいなと思った。だが、次の一言で私は焦ることになる。
「給食の時間、あと3分。その後清掃」
「えっ」
時計を確認する。本当だ。残り3分だ。
私の元にはフランスパン、飲みかけのスープ、完食したサラダ、そして残ったリンゴ。
「……林檎、あげる……。私この短時間じゃ食べきれない……」
「ん、もらう」
そうしてカイは林檎を食べ始めた。私は急いで掻き込む事になった。
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清掃の時間。カイはスレイスと行動を共にしていた。
何も清掃は教室に留まらない。廊下や使った部屋、先生達大人以外入れない場所を掃除するのは生徒の役目だ。
カイとスレイスは理科室の掃除をしているらしい。四時間目は実験だったため、そこにカイが立候補してスレイスを半ば強引に引き連れていった。
「ねみぃよ」
「寝るなよ……?」
私と同じく廊下を掃除している男子が欠伸をする。もう一人が心配そうに声をかけると、今にも寝そうな顔で雑巾がけをしていた。
「清掃だるー」
「わっかるー」
スレイスの囲いも数人、駄べりながら乾拭きをしている。今まではスレイスが清掃に一丸となってどこかへ行っていたのだが、今日はそうでは無い。
しかし彼女達はスレイスを必要としていないかのように、適当に掃除をしていた。
(あ、でも理科室には二人ぐらいついて行ったか)
教室のゴミ箱にちりとりのゴミを捨てながらそう思った。
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ザバッ。実験で使っていたメスシリンダーを洗う。
理科室にいるのは私と訓練の時一緒にいた二人、それとカイ。
カイは自分から一番大変なのは理科室全体の清掃を申し出た。効率を考えれば彼女が実験用具を洗い、私達が理科室を掃除し終わった後にそちらに合流した方が早いはずだ。
「スレイスさん、こっち終わりだよ」
「こっちも」
そう思っていると二人から声がかかった。
「そうしたらカイを手伝ってあげて。私ももうすぐ終わるから」
カイを探すと、奥側を綺麗にしていた。
まぁ、こんなにもピカピカにしたものだ。光っているように見える。
「ありがとう、スレイス。えっと、そうしたら入口側をお願いできる?」
そう言うと入口側を二人は清掃し始める。
(……何を考えているのか、分からない)
それは未知の気持ち悪さだった。知識では理解できない、扇動するかのような動き。
どうして二人だけなのか。訓練の時により分けていた訳は。自分から一番大変な理科室全体を一人でやると言った理由は。
気味が悪い。そう思いながら最後の実験用具を洗い始めた。
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