第14話

それから、私は囲いの二人と訓練を続けた。


「スレイスさんって、炎以外にも魔法使えたよね?」


唐突にそう聞かれたのは、囲いの一人からだった。

ここで嘘をつく必要もない。頷いて答える。


「えぇ。氷を出したり、風を吹かせたり」

「それって何かコツあるの?やっぱり訓練?」


コツ、コツか。少し考えて言葉を纏めてから答える。


「今やっている炎を出す訓練と同じで、魔力にどう文字を刻むかで変わりますわ。けれど、基本は訓練ですね」

「そっかー!スレイスさんも訓練の賜物で使えるようになったのね。私たちも頑張らなきゃ」


ね?ともう片方の囲いに問いかけた。その相手は、私と同じようにカイに心を読まれたと言っていた。


「そうね。努力あるのみだわ」


その時、何となく嬉しかった。力で支配するのではなく、私自身の努力で私が認められた気がして。

いや、気のせいではないのだろう。褒められた。これが、数年味わっていなかった褒められる嬉しさ。


「貴女達……ありがとう」

「こちらこそ!」

「お互い様です。……さ、訓練を続けましょう」


そう言って三人で相談しながら、訓練の精度をあげて行った。

______________________________

三時間目。今日は雪国グレイシアの歴史の授業だった。


「私達の国、グレイシアは遠い祖先が巫女争奪の戦いに疲れて逃れてきた集団の開拓だと言われている。

見ての通り、一面雪であり、過ごしにくい場所ではある。だが祖先の考えは違った。

『もしもこれ程魔物に襲われず、戦いにも巻き込まれない北部に集落を作れば。きっと我々の子孫は戦争に巻き込まれなくて済むだろう』と。

事実、そうなった。小さな集落に逃れてきたのは現在中央に位置する王国からのエリートであった。

ここまでで質問あるやついるか?」


私はカリカリ、とノートに文字を走らせながら横のカイを見る。

カイはスっと手を挙げた。


「カイ。何が知りたい?」

「王国からのエリート、という部分。彼らは争いに駆り出されていても待遇は良かったはず」


それに対して先生は頷く。


「いい着眼点だ。確かにその当時、王国のエリートは巫女、もっと言えば知恵の神様の神託を得られれば真っ先に情報が伝えられ、その待遇は良かった。

だが、それ以上に彼ら、彼女たちには過酷な戦いが強いられていた。恐らくだが、敵兵を殺すことに疲れてしまったのだろう。力ある故に、前線に繰り出される事は多かったと聞く」

「ありがとうございます」


そう言うとカイは黙り込む。私は追加でそれをノートに書き込むと、ペンを置く。


「いいか?それじゃ続けるぞ。

その集団はその知恵からこの地で生活するのが可能だと分かっていた。エリートで神託も受けていたからな。炎で身体を暖め、寒さに強い作物を研究し、時折現れる魔物の有効活用法まで考えた。

そして、最後の神託の日。巫女を争う戦争こそ終わったものの、肥大化して慢性化した戦は止まらなかった。そんな時にグレイシアという国を誕生させた。

その時に王国と契約を交わした。物資の相互援助に加え、雪国ならではの特産品や知識の提供。代わりにグレイシアは国としては戦には一切関与しない、と。

それを受諾した王国とは今も交流が続いている訳だ。これが雪国グレイシアの生い立ちだ」


ふむふむ、とカイが頷いている。今度は質問は無かったようで、黙って教科書を見ながら聞いていた。


「よし、こんなところか。三時間目を終わるぞ」


そう言って先生は出ていった。私は立ち上がる。二時間目の後にオオカミに餌を与えるのを忘れていた。


「カイ、オオカミに餌を与えるけど来る?」

「行く」


そう言って立ち上がる。彼女はテクテクと歩いていく。余程オオカミに会いたかったのか。私が警備員さんのところまで早歩きする事になった。

警備員さんからいつも通り肉を貰うと、オオカミの檻の所へ行く。


「オオカミー」


そう呼びかけると、オオカミがこちらを向く。短く、ウォンと鳴く。


『これは、我が主にクルネ殿』

「オオカミ。スレイスから名前、貰った?」

『いいえ。ですが主がああ言われてから、そのスレイスという者は私の前で悩むことが多くなりました』

「そう。それは良かった。……あ、ごめんねクルネ」


そう言ってカイが退く。いつも通り肉を与えると、姿勢を礼儀正しくして食べていた。


『我が主、また来てください』

「うん。また来るよ、オオカミ」


そう言って檻を離れた後、カイが質問してきた。


「王国とグレイシアってどのぐらい距離離れているの?」

「距離?うーん……私も分からないなあ。ただ、グレイシアって地図で見ると孤立してるぐらい遠いからかなり……かかるんじゃないかな」

「そんなに遠いんだ。ご先祖さま、よく逃げてこられたね」


確かに。当時食糧はあっても耐寒具なんて無かっただろう。だからこそ、エリート軍団であったご先祖さまは逃れられたのかもしれない。

追う側が、追えなくなって。

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