第9話

給食が終わり、放課後。一応男子のリーダー格がこっそり見張るという事でついて行った。


(カイ……)


心配なのが分かるのか、周りの男子も慰めてくれた。


「だ、大丈夫だろ……。それにほら、何かあったら学校には来させなければ良いだけだし」

「でも初日でトラウマ植え付けられたくないよなぁ……」


うん、と頷いて自分の手を見つめる。

カイは私より魔法も力も強い。そんな子が、ただ記憶喪失で、美貌が良いだけで虐められていいはずが無い。

だが私は力がないために、あの子を守れない。拾っただけ。まだ知り合って二日目なのに。

なんでこんな憂鬱な気持ちになるのだろう。

______________________________


「おっ?来たねカイちゃん」


複数の女子に連れられて、私はあのオオカミの檻の前まで来た。


「うん。それで、用事は何?」


私に何かしら悪意があるのは感じていた。クルネからは最低限の抵抗をしても良いと言われているし、いざとなったら昼間の魔法を使おう。


「アンタ、本当に記憶喪失な訳?」

「本当だと思う。現に私は何も覚えていなかった」

「そんな嘘、通用するわけないっしょ?魔法が使えてさ。私が魔法を隠してることも見破ってさぁ?」


そういうと周りの女の子がジリジリと詰めてくる。


「薄っぺらい嘘でさぁ!男子を騙そうったって無駄なんだよォ!」


殴りかかろうとした瞬間、オオカミが吼えた。

怒号の咆哮。怒りに満ちた檻の中。


『その御方に何をするつもりかァ!』

「あ?オオカミが何吠えてんの?お気に入り?」

「……」


大丈夫、と視線を送ると警戒しながらもオオカミは大人しくなった。


「……何だよ、何なんだよお前。何様なんだよ!!」


勢いよく殴りかかってくる。その拳をパシッと受け止める。


「っ!お前ら!傷つけちまいな!」


その間に私は聞こえた。彼女の拳から。


『もう、何かで下に見られるのは嫌だ』

『私は何かで秀でているだけしか価値がないのに』

『その価値までこの小娘に奪われたら……』


『私は、どう生きていけばいいの……』


「……そっか。寂しいのね」


拳から手を離して周りの取り巻きに対して火を手から出して威圧する。


「は?寂しい?」

「……貴女は秀でている。それは力も魔法からも、勉学からも分かる。だからそれで虐められない為に上に立った」


私が一歩踏み出すとスレイスがジリッと下がる。


「そんな、ことっ!」

「あるでしょう。貴女は狭い世界で価値を求めた。価値を下げそうなモノを排除した。……現に、私を同じ理由で排除しようとしている」

「うるさいうるさいうるさい!!!」


刃物を出してこっちに突っ込んでくる。周りの女子も触発されたように私を抑えようと動く。


「貴女は価値がある。それを認めてもらえなかった。だから、価値を出した。

『この学校で一番の生徒』という価値を」


身体が勝手に動く。片手で一人の女子を掴んでそのまま1人に背負い投げでぶつけ、刃物を持ったスレイスの強く叩いて落とさせる。

そのままお退けた周りの女子も足払いをして転がす。


「あ、ぁ……」

「今まで貴女は美貌や学力で負けても、人数での暴力では負けたことが無かった。……どう?無力だと思う?記憶の無い私にやられて」


そう言うと、スレイスは唇を噛み締める。


「だったら何だっていうの」

「勿体無い」

「……はぁ?」


その言葉に意味が分からないというように顔を上げる。

顔は泣き腫れている。涙を流している。


「貴女は虐めっ子だと言われている。才がある人が、評判を下げるような行動をして下げるのは勿体無い。

私は何も覚えていない。私が持っているのは拾ってくれたクルネだけ。それでも、クルネがそんな子だったら私は悲しい」


「……今更私に何をしろって言うの」


諦めたような声で言われる。だからこう返す。


「貴女次第。このまま憐れな女王を演じるのも自由。

でも、私が言うとしたら……今とは違う形で、才能を発揮して欲しい」


こういうように、とオオカミに近づく。


『何か御用でしょうか、我が主』

「オオカミ。その名前は種族名。可哀想」

『そんな事はありませぬ。我は貴女様に仕える身であります故に』


首を振るオオカミに、ポカンとしているスレイスに言う。


「もしも貴女が変わるなら、まずはオオカミに名前をあげて。……私に名前は分からない。なぜなら、記憶が無いから」

「……貴女、何?」


その問いに関して、少し考えた後に言った。


「クルネに拾われた。それだけの少女」


そう言ってクルネの元に帰った。

スレイスは終始、ぼーっとしていた。

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