第8話
『はい!私は貴女様を支えるべくこの世に産み出された下僕でございます!何度も何度も転生を繰り返して……あぁ、なんという奇跡でございましょう!』
「てんせい……?」
カイが私の方にくるっと向く。転生、にわかには信じ難いがオオカミが転生と言ったのか。その意味を私に問いかけている。
「転生っていうのはね、死んでも同じ魂、記憶を持って生まれ変わることだと……思うよ?」
「そうなの?」
檻の中のオオカミにカイが問いかける。
『はは!そこの娘のおっしゃる通りで……!カイ様がこの世に訪れるまで私は何度も何度も繰り返して転生したのでございます!』
「うーん……。一先ず信じる。でも一つ訂正。そこの娘、じゃなくてクルネ。私を雪の中から救ってくれた恩人」
『なんと……!これは、なんという無礼を!どうか、どうかお許しを!』
何だろう、私に向かって謝っている……いや、土下座しているように見える。
「と、とりあえずオオカミさん。これ今日の朝の分の餌ね」
生肉を出すとオオカミはいつもとは違い、気だるげな感じは見せずにモグモグと食べ始めた。
『また会いにきてくだされ!カイ様!』
「分かった。オオカミ」
そう言うとカイは私の手を引く。まるで用事が終わったのが分かるように。
「あれ?いいの?もっと話さなくて」
「オオカミが、また会いに来てって言ったから」
本当にオオカミの言葉がわかるんだ……と呆然としつつ手を引かれるまま教室に戻っていく。
しかしハッとする。これは普通ではないことなのだ。釘を刺さねば。
「カイ、みんなにはオオカミは鳴き声を発しているようにしか聞こえないからね。喋れるって言っちゃダメだよ」
「分かった。クルネがそう言うなら」
生肉の入っていた袋をゴミ箱に捨てると、校舎に入る。
「あ、カイちゃーん!授業終わった後ちょっと暇だったりするぅ?」
そこに居たのはスレイスだった。笑顔の裏になにか隠していそうだが、カイはこちらを見てくる。
「何?クルネちゃんの方向いて。どしたの?」
「クルネの帰る時間次第」
どうしよう。ここで私が早く帰る、といえばいいのだが今日はカイのノートも買いに行かないと行けないので迂闊なことが言えない。
真を話すしかないか、と思って時間を指定する。
「……まぁ、私は友達と数分喋ってるからその間なら?大体5分くらい?その後はちょっと寄り道して帰るからね、カイ」
「分かった。授業終わった後、帰るまでの5分の間までなら大丈夫」
その返事を聞いて、スレイスは金髪を弄りながら言った。
「おっけー!じゃあちょっとお話しよ!分からないことあるだろうしさっ!」
「助かる」
スレイスがお話といってロクな思いをした子は居ないだろう。対策を立てておかないと。
そう思いながら三人で教室へ向かった。
「よし、三人で最後だな。じゃあ三時間目始めるぞ──」
______________________________
給食の時間、男子グループにカイを混ぜて相談していた。カイは初めて食べる給食を、美味しそうにもきゅもきゅと食べている。小動物のような愛らしさがある。
「スレイスからお話、か……。不穏だよな。カイちゃん、この見た目で魔法も使えたもんな」
もきゅ?とフランスパンを齧りながら話した男子の方に首を傾げながら向く。赤面してカイから目を逸らす。皆に笑われながらもその男子が反論する。
「お前らあの無垢な顔で見られてみろ。俺らが恥ずかしくなるから」
「……?」
パンを両手で持ちながら、頬いっぱいに膨らませて食べる。そこに無表情でありながら整った美貌のカイが、男子グループに向けて、私?とばかりに首を傾げる。
「……何となく分かったわ。お前の気持ち」
「だろ?……っていやそうじゃねえよ。スレイスへの対策だよ。幾ら魔法が使えても力が弱けりゃ無理だろ」
その言葉に私は思い出して言う。
「あぁ、カイね。力強いよ」
「……マジ?」
男子の一人が声を出す。見た目とのギャップが凄いのだろう。
「パンチングマシーンか。数値は?」
「100。カンスト」
「げっ……マジで言ってる?」
当の本人は何処吹く風で今度はコーンポタージュに手を出していた。はふはふしながら美味しそうに飲む光景は、やはりパンチングマシーンで100を出した女の子とは思えない。
「そしたら本人に暴力で解決させたらいいんじゃねえか……?」
「いや、初日で暴力騒ぎはヤバいだろ。ウチの担任はともかく、他の大人から見させると」
うーーん、と皆で考える中、リーダー格の男の子が言う。
「軽くならいいんじゃないか?スレイスも体面的には上手くいかせたいだろうし……」
「まぁ、無抵抗が一番マズイか」
「だな」
皆で意見が一致した所で、カイを呼ぶ。
「何?」
「スレイスから何か嫌なことされたら私達に言うこと。後、暴力とか魔法とか傷つけられそうになったら抵抗していいからね」
「分かった。……この赤いの、美味しい」
両手で美味しそうに切り分けリンゴを食べている。思えば初めて見た笑顔かもしれない。
その後、私と男子グループが全員、カイにリンゴを差し出したのは言うまでもない。
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