第6話
授業までは時間があるので、校内を紹介がてら見学させていた。そんなに大きな学校ではないので、授業までには間に合う。
「ここが実験室。理科の授業で使うんだ。実験とかね」
「実験って、クルネがさっき言ってた炎を魔法以外で出すとか?」
「そうそう!ただ普通の教室だと危険だから、この部屋でやるんだ」
全二階建てのこの学校には特筆するのは理科室、図工室、図書室、音楽室、保健室ぐらいである。あとは生徒立ち入り禁止の給食室だ。
「紹介した中で気になった場所とかあった?」
「うん。図書室が気になった」
図書室、割と本があるんだよねと紹介した。興味のあるのはいい事だ。とにかくこれで一通り校内は巡った。外は今日授業でやるのでいいだろう。
「じゃあそろそろ教室に行こうか」
「分かった」
頷いて歩き出すカイ。もう道を覚えたのか、迷いなくスタスタ歩いていく。
覚えが本当に早いんだから、と思っていたら不思議そうに振り返ってくる。
「クルネ?」
「あ、今行くよ」
早歩きでカイに追いつくとそのまま教室へと向かった。
ザワザワとしている。辺鄙な場所にある学校なので、クラス分けなどされていない。総勢30人が一箇所に集まっているクラスだ。
ガラッと開けて入る。横にカイが並ぶのを確認して扉を閉める。
「おはよー」
「おー、クルネおはよ……う……」
返事をして振り返った男子のグループがカイを見て絶句する。カイは我関せずというように固まっている教室を見ていた。
「……クルネ、その子、誰?お前のところの集落の子?」
「……えーと、うん。まぁ、そんな感じ」
「そうじゃないだろ質問が!あの美少女の名前を聞くんだよ!」
男子が揉めている間に女子グループが近づいてくる。
「初めまして〜!私スレイスっていうんだ〜!貴女のお名前は〜?」
スレイス。周りに取り巻きを囲わせているクラスカーストの頂点に立つ女子だ。容姿、性格、学力、魔法の訓練や体育。自分より何かが優れていれば囲いと共に虐める。
彼女に虐められて転校した子が何人いるか。私は目をつけられていないので無視しているが、カイの場合は間違いなく目をつけられるだろう。
「カイ。私はカイ。よろしく、スレイスさん」
「カイちゃんね!よろしくぅ〜!」
握手を求める手に、カイが握る。後で忠告しておかなきゃ、と思いつつ男子グループに話しかける。
「あれヤバいよね?」
「ヤベぇわ。スレイスに早々目をつけられてるからな。クルネも巻き込まれないように注意しろよ」
「ありがと」
その当のカイは質問攻めにあっていた。
どこから来たのか、趣味はなんなのか。得意科目はなど。だが彼女の答えは一貫してこれだ。
「分からない」
「分からないって……貴女、どこから来たのかすらぁ?」
「うん。分からない」
「ギャハハ!面白いじゃん!記憶喪失ってやつぅ?」
そう言っていると先生が入ってくる。
「おら座れ座れ!授業を始めんぞ!」
そう言うと素早くカイに近寄って引き寄せる。私の横の席に座らせると彼女は静かにしていた。
「さて、その様子だと既に話題になっていたみたいだが今日から転入生だ。カイ、と言うらしい。みんな仲良くしてやってくれ。それじゃあ授業を始めるぞ!」
一時間目は数学だ。教科書を渡して見せながら、私はノートを書いていた。
「……で、ここが2になるわけだ。次行くぞー」
相変わらずのペースである。それでもカイは教科書と黒板を見ながら覚えているようだった。
ノートの一冊でも貸すことの出来ればいいのだが、予備のノートなんて私には存在しない。帰りにお小遣いで買うしかないだろう。
そう思っていながらも、カイはパラパラと教科書を捲りながら見ていた。
「はい、んじゃここの例題な──」
こうして数学の時間は進んでいった。
二時間目は魔法の授業である。それも、今日は理論ではない。実践だ。
「んじゃ二時間目の魔法授業やるぞー。全員表へ出ろ!」
そう言うとカイが立って聞いてくる。
「何やるの?」
「今日はね、魔法の理論じゃなくて実践をするんだ!」
「……ふんふん」
イマイチピンと来ていないようだ。行けばわかるだろう。
「今日は魔物が出てきた時に対処するための炎魔法の実践だぞー。理論は分かるな?説明出来るやつ手をあげろ!」
そう言うとスレイスが手を挙げた。
「炎を頭の中で明確にイメージして、自分の中の魔力に文字を刻む。そうしてそれを外に出すことで魔法が発動しますわぁ」
「正解だな。というわけで各自やってみろ!数日間は実践だから一日で出来なくてもへこたれるな!」
私は自分の中にある魔力に炎の文字を刻んで、外に放出してみる。
結果、不発。魔力がしゅわぁ、と音を立てて霧散する。
「頑張れ、クルネ」
「いや、カイも頑張るのよ!?」
そう言うと、カイは手を前に突き出す。
そして、その掌にはボッ!と炎が出ていた。
「えぇー……」
「後はこれを飛ばせばいいんだっけ?」
「いや、飛ばさなくていいよ……?」
それを聞くと、そう、と言って炎を掴んで消した。しゅわぁ、と同じ音がする。
「何かコツとかあるの?」
「コツ……。クルネの場合、薄い魔力に炎の文字を大きく書いている感じだった。だから外に出てすぐに無くなる。
もっと、魔力を圧縮させるところから練習した方がいい」
何でこうも神は二物を与えるのか。それはそうと私はカイの言う通りに練習を始めた。
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