第4話
「あちゃー、昨日の夜に床で寝たからかな……」
自分でも霜焼けなんて日常茶飯事程度で気が付かなかったけれど、見ると少しだけ腫れている。村長が治療中に問いかける。
「床?床で寝たのか」
「うん!カイにベッドを貸していたからね」
なるほどのぅ、と言いながら処置を施してもらった。
「カイ……と言ったかの?魔法を使えるのかい?」
「今貴方が使ってくれたから、分かった。……回復魔法と呼ばれているものはあんまり乱用してはいけないと今クルネから教わった」
その言葉に村長もふぅむ、と訝しげな顔をむける。それに対してカイはただ無表情で見返すだけ。
「……そうか。個人の事情もあるだろうしこれ以上は老いぼれは口を出さん。
だが一つだけ訂正するとすれば、回復魔法に限らず魔法、力などの実力は見せつけない方がいいぞぃ」
「分かった。ありがとう、村長」
忠告を受けてお礼と共にお辞儀をする彼女を見て、私は立ち上がる。
「じゃあもう少し歩いてみて、大丈夫そうなら学校行こうか!」
「うん」
村長の家から出ていく。村長はどこか遠い目をしていたが、ハッとしたように笑顔で見送ってくれた。
______________________________
数十分使って集落を回ったが、カイは疲れ一つ見せずに歩いた。本当に病み上がりとは程遠い。ただ目を覚ましただけのような子。
「カイ、無理してない?」
「私は大丈夫。クルネは?」
「私?私はここで暮らしてるから慣れっこ!全然平気!」
カイは恐らく嘘をつかない。いや、つけない。
嘘は知識がある程度あって、相手を騙すためのモノだ。カイは魔法が使えるか否か、であれば嘘がつけるが体調に関しては良いか悪いかが分からないためつけない。
だから大丈夫だと確信して再度自分の家に戻る。
「おばあちゃーん!カイ、大丈夫そうだから学校に連れていくね!」
「……分かった。親元が見つかると良いね、カイ」
「うん。ありがとう、おばあちゃん」
そう言って学校に行くべく共に歩いていく。
雪をザクザク、と踏みながら話をする。
「カイ、ここが何処か分かる?」
「……雪の中?」
質問が悪かった。そういう事を聞いているのでは無い。
「そうじゃなくてね、国とか……場所とか」
「くに……?」
まさか国を知らないとは。いや、記憶喪失なら当然か。
では学校に行くまでに基本的な知恵は授けておくべきだろう。
「うん。国。ここはね、雪国グレイシア。私達はその郊外の集落に居たんだよ」
「雪国グレイシア……」
言われてもピンと来ないらしい。とりあえず覚えは良い子だと信じて話す。
「私達が行く学校って言うのは、そのグレイシアの首都、アイシクルとは程遠いんだけど……色んな事を教えて貰えると思うよ」
「例えば?」
「え?んー……。そうだ、知恵の神様って知ってる?」
その言葉に首を傾げる彼女。知恵の神様も忘れてしまったのか。これはカイが可哀想だ。こんなに物覚えがいいのに。
歩き続けながら教えることにする。
「その様子だと知らないみたいだね。これは昔話みたいな歴史なんだけど。
太古、人々は魔物に食べられるだけの存在だった。それを哀しく思った知恵の神様は三つの知恵を与えた。
言葉、火の付け方、道具の作り方。これによって人は魔物に対抗する事ができるようになった。
時間が経って、知恵の神様は人々が自分の知恵を争うのを悲しんで、『自分の知恵を争わないで欲しい』って言って表舞台から消えた……って話」
「言葉、火、道具……」
そう呟いた瞬間に、手を繋いでいたカイがクラっとよろめいた。慌てて私が支える。
「だ、大丈夫!?やっぱり調子が悪いとか……」
「ううん、大丈夫……。それよりも、さっきの話……」
さっきの話、知恵の神様の事だろうか。
「まぁ歴史とは言え、昔話に近いからね。ただ知恵の神様を讃える像は学校には必ずあるよ」
「━━━、━━━。━━、━━、━━。━━━」
私には発音が分からなかった。けれど、それと同時にカイの掌が光る。
「え、え!?なんで光ってるの!?というかなんて言ったの!?」
「……えっと、クルネにも分かるように言うと。
神々よ、天上の存在よ。我は、私は、ここに。真実か。……かな」
神様?天上の存在?何も分からない。でもひとつ分かるのは……。
「カイって、神様と関係があるの?」
「……多分?」
「た、多分かぁ……。まだ確定ではないんだね」
そう言いながらその言葉も今聞いたのも禁止!と言うとカイは素直に頷いていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます