帰省

三夏ふみ

帰省

「今日は暑かったね」


そう言った彼が、散歩中の犬に吠えられ戸惑う姿に思わず笑う。

何気ない会話を愉しみながら、ゆっくりと並んで歩く。

孫を連れた老夫婦に会釈した所で、帰りを促す音楽が流れた。


「ワー」


堤防を駆け上がる子供達、そのままの勢いで駆けて行く。

それを見送り川辺に目をやると、気の早い若者達が花火に点火していた。

明るい夕暮れを照らす色とりどりの火花。


「そろそろ行かなくちゃ」


不意にそう言われ、繋いだ手を思わず強く握る。


「……ごめん」


呟く様にもらした声に、小さく首を振る。


「それじゃ、また来年」


見つめた瞳が空に溶けるように消えて行く。

握ったままの手の中に、彼の感触だけを残して。


思い出した様に蝉が鳴き出した。

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帰省 三夏ふみ @BUNZI

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