(SS)ワン・サマーズ・デイ

鈴虫の声を聴きながら、夏祭りに好きだと言えなかったあの子を想う。

チリチリと鳴く彼らの声は、夏の終わりを嘆く僕の心に似ている。

もう少し夏が続いたら、すきだよと言えたのに。

言い訳を重ね、僕はまた来るべき夏を願う。


悲しさは言い訳とともに、

暑い日差しの下に照らされ頬を流れた汗とともに消えよう。

いつか知る。涙とともに流れんことを。


あの子からもらった飴玉を、舐めずにずっと眺める。

夏のあつさで溶けてもよくてよ。綺麗な思い出として消えるなら、きっとその方がよいのだから。


あの子が、他のこと歩いているのを見かけた。

そして甘いキスをしているのを観てしまった。

僕はその日その飴玉を、そっと道路のわきに捨てた。


さよなら

さよなら


僕のひと夏。

僕のあの夏。

でも、舐めてみたかったと、少し思う、蒸し暑い夏。




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SS『記憶としての世界』 水野スイ @asukasann

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