第15話 隠し玉は隠すからこそ隠し玉なのだから隠すべきである


「師匠、やっぱ空間系の素材って大迷宮にしかないのかな?」


 水連過風の中迷宮で素材と導体を確保した俺は、予定通りに師匠を訪ねていた。


「あ?そりゃまあそうだな。壱成は空間魔法に適正あったっけか?」


「ないけど?」


「じゃあなんでそんなもんがいんだよ。」


「使うからだけど?」


「は?」


 いやぁ、悪いけどこれは師匠にも教える気はないんだよね。なんせ公式から「この世界で誰も知らない技術」だと明言されている正真正銘の切り札だからな。


「……まあいい。それなら私が用意しといてやるよ。」


「いいのか?そんな簡単に弟子に施したりして……」


 弟子には厳しいことで有名なオリヴィアが壱成に簡単に希少素材を渡すはずがないと思ってたんだけど。


「どうせおまえは私が断ったら無理してでも取りに行くだろうが。それに壱成はこの程度で図に乗るようなやつじゃないだろ。」


「そりゃまあそうだけどさ……。」


「なら何も問題ないだろ。」


 支障がそういうんだったらいいのか。


「そういうもんか。」


「そういうもんだ。」


 何はともあれこれで隠し玉作成の最難関がクリアできた。あとは師匠に素材をもらってから、その素材でを作って、あとは導体を作ったら下準備は完了か。


 ん~、まあギリ間に合うか。最悪合宿までに間に合えば問題はないわけだし。


「考え込んでるとこ悪いんだが……。」


「え?」


「きゅうけいは終わりだ。」


「……あ~、タイムで。」


「却下。」


 いい笑顔ですね師匠。


「さ、修行再開だ。」


 にっげろ~!!!













「……いてぇ。」


 あの人マジで加減知らねえ、いやマジで。


 木刀だから加減はしてるって?馬鹿言っちゃいかんよチミぃ。いくら得意武器でもない武器の木刀といっても、それを使ってるのは世界十指に入る戦闘魔法士化け物だぞ。凡人に対処できるものじゃないんだよ。


 対処できてるじゃんって?できてねえんだよ。足を一歩も動かさないオリヴィアにさえ防戦一方、どころか武器でそらすことさえできずにみっともなく転げまわっているだけだ。

 まったく、頂はまだまだ遠いな。




「ようやく見つけました、マスター。」


「さっきぶり、ルシア。」


「さっきぶり、じゃありませんよ糞主。いきなり逃げるんじゃねえですよ。」


「仮面ははがれまくってない?接着剤いる?」


 「いるわけねえでしょ馬鹿主。さっさと家に帰りますよ。」


「アイアイ、お嬢様の仰せの通りに。」


 俺とルシアは連れたって帰路に就く。


「今日の入学式はどうでした?」


「どうもこうも普通だよ、普通。変わったことの一つもない普通の入学式だった。」


「なるほど。自分にふさわしくない糞見たいな入学式だったと。後で学園にクレームを入れておきます。」


「ついでにFクラスに影成弓士がいたことについても問い合わせといてくれる?」


「断らせてもらいます。」


「なんで!?クレームよりよっぽどまともだったと思うんだけど!?」


「そっちのほうが面白そうだからですが?」


「なんでそこで心底不思議そうな課をができんのか俺は不思議で仕方がないんだけど……。」


「主の生活を面白おかしくデコレーションするのが一流のメイドですので。」


「ならルシアは超一流のメイドだな。」


「?あたりまえでしょう。いまさらなんですか?」


「こいつ無敵か?」


 こいつ無敵か?


「メイドは無敵です。常識ですよ?」


「それどの並行世界での話?」


「私がいるすべての世界での話です。」


「それルシアの自分ルールってことなんじゃないの?」


「私はマイト・ガイでもロック・リーでもありません。」


「そ、それはつまり……」


 マイト・ダイってことか……!?


「違います。」


 違うのか、がっかりだ。


「私を誰かに例えたいのであればせめてマダラでも連れてきてください。」


「連合を個人でボコす化け物って例えられたいの?」


「私、最強ですから。」


「別作品から持ってくんなよ。目隠しもしてないし見えないもんも見えてないでしょうが。」


「見えてますよ、名前と寿命が。」


「忍びで呪術師でキラって属性盛りすぎじゃない?一つの属性で主人公張れんだぜ?」


「メイドは最強の主人公って……ことっ!?」


「そ、そうきたか~!!」


「マスターこそ別作品から持ってきてるじゃないですか。ていうか誰がわかるんですか、その列海王。ちゃんと読者にも配慮してくださいよ。」


「私は一向にかまわん!!!」


「そりゃ張本人にはそうでしょうね。」


「なんか冷たくない?」


「まさか、こんなにラブリーかつきゅるんきゅるんなメイドである私が主人に冷たいわけないじゃないですか。」


「そうだよな。主人だもんな。冷たくする理由もないもんな。」


「ええ、ええ。いくら私を数時間も放置したことなんて全くこれっぽっちも気にしてませんよ。」


「すいませんでしたああああ!!!!」


「何について誤っているのか全く分かりませんが、本当にわかりませんが一応受けとっておきましょう。」


「それで何をやっていたんですか?」


「……悪いな、秘密だ。」


「それは、私には話せないという意味ですか。」


「いや、これは使う時まで誰にも言う気はない。」


「……それなら、まあいいでしょう。」


「すまん。」


「ただし、何か秘密を誰かに話すときは真っ先に私に話してください。」


 「?なんだってそんなことを……」


「できますか?」


「……約束する。」


 ま、そんなんでいいならいくらでも。


 この程度で贖罪になるとは思わんが、せめて望むことはかなえてやりたいし、な。

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