第11話 誰もがトップの方針に従っている訳では無い


「相変わらずくそ遠いな……。」


俺は廊下を歩きながら独り言ちる。


【楽学】の舞台であるこのオリージネ魔法学園は、広大な敷地の中に立つ巨大な校舎が一つの特徴として上げられるほどに大きい。


それは敷地内に複数の訓練場や実験場、研究所などがあることからも容易に推察できるだろう。


まぁ1クラスに1つの訓練所はやり過ぎだとは感じるが……、ある分には役立つので問題は無い。


問題は無いのだが、いくら役に立つとはいえ平時の移動が長距離になることへの文句ぐらいは言ってもいいと思う。


あれだぜ?原作では普通に移動教室なんかではバスとか使ってんだぜ?


信じらんねぇよ、全く。


そんな益体もないことを考えながら俺は歩き続け、やがて「1-F」の教室に着いた。


「このクラスにもサブヒロインはいるが、まぁ大丈夫だろ。」


俺はこの中にいるであろう一人の少女のことが頭に浮かび、すぐにその思考を止めた。


そして、ここから最短で一月ほど世話になる教室の扉を開き、


「あ、壱成さん。遅いっs……」


勢いよく扉を閉めた。


………………?


見間違いか?いや気のせいか。ここにいる訳がないもんな。うん、きっとそうだ。そうに違いない。


俺はもう一度扉を開き、


「もう、何やってんすか壱成さん。そんな扉のm……」


即座に扉を閉めた。





いやいやいや…………………………え?


なんでいんの?いやどうやったのかは分かるけど、理由は?


なんのために?いや本気でなんのために?何故?


俺は目の前に有る現実が理解出来ずに思考が空転するのを感じながら、その噛み合わない思考を止めることが出来なかった。


「そ、そんな所で、な、何をやっているんですか?い、壱成……くん。」


そんな俺へ向けて、幼さが残る綺麗と言うよりも可愛らしいと言うべき容姿をした女性が話しかけてくる。


身長は140cm程と女性の中でもさらに小柄。髪と瞳は茶色く、服もやはりその幼さが全面に押し出されたフリフリの着いたワンピースで、この場にいることに違和感を感じる出で立ちである。


が、この女性こそが我らがFクラスの担任、マニヤ・アンタレス先生である。


そして教師でありながら主人公の攻略対象であり、更にはヒロインの中でも屈指のチョロインでもある。


そのちょろさはとどまるところを知らなず、少し手を握るという選択肢を選んだだけで八割攻略が完了したり、目を合わせるだけで結婚を考える程である。


そのちょろさに並ぶものはヒロインの中でももう一人だけであり、その2人に敬意を評して我々プレイヤーの中では「楽学二大チョロイン」と呼ばせていただいていたのだ。


そのマニヤ先生が壱成クズのことを君付けで呼び、更には生来のビビり気質故か少々震えながら話しかけている。


やはり、壱成は生きていることすら罪なのではないか?……今更か。


「……い、壱成くん?」


おっと、意識が逸れすぎた。


えー、俺がここで何をしていたかだったか。


「いえ、幻覚と邪智暴虐なる姫の策謀わがままが見えた気がしまして……。」


「はぁ、……?」


「あー、いや。お気になさらず。先生は今日のことだけを考えていてください。」


俺が適当に誤魔化すべく、そう言うと何故か先生は目を輝かして俺を見てきた。


なんか不味ったか?


そんな俺の考えをを知ってか知らずか、先生は先程までの吃りもなくなりハキハキと喋り出す。


「分かりますか!そう、私は先生なんです。いやー、やっぱり同僚にはこの背丈のせいで心配されていたんですが、無用の心配でしたね。私のこの溢れ出る大人の女性のオーラが見えないわけがないですもんね。誰が見ても完璧な先生ですもんね!」


平常運転チョロいだな。


俺は小さな胸をこれでもかと張っている先生から視線を外し中にいるイレギュラーのことを考える。


……ここで関わりを切り切れなかったのはイタいが、Aクラスに上がってしまえば確実にまた絡まなければならなくなる。


そう考えると、絡まない期間が無くなっただけで、結果は変わらない、か。


俺はそう結論を出し教室へ入った。


「もう、壱成さん。二回も扉を閉めたりして、酷いっすよ。」


「すまんな。で、どうやってここに入ったんだ?影成弓士ヘカテイアの後輩枠。」


俺はかつて戦ったエルフの精鋭護衛部隊の一人であるラウラに疑問を投げかける。


「姫様が、あなたは多分このクラスになるからってあたしをここにねじ込みました。」


ねじ込んだって……。一応この学園、権力の介入を許さない完全実力主義なんだけどなぁ。


あぁ、いや。学園長の方針はそうってだけか。


それに……


「教頭か。」


野心に取り憑かれたあの女なら、簡単に通せるか。


「正解っす。学園長やまともな人達は無理でも、他の阿呆ならいくらでも動かせますからね。」


「嫌んなるね、全く。」


本当に、嫌になる。


「そうっすか?アタシは壱成さんと同じクラスとか、超楽しみですけどね。」


「俺は君の相手が嫌でもあるんだよ、ブレイク・アルバート君。」


「嫌ァァァァァァァァァァ!!!!!!」


半狂乱になりながら襲いかかってくるラウラを捌きながら俺は嘆息する。


ほんと思惑通りに進まねぇなぁ。


「なんでそれを今言ったんすかぁ!?!?」


前途は多難である。


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