第10話 入学式の校長たちの話って聞いてる奴いんの?


「え〜、新入生の皆さんに置かれましては…………であるため…………それゆえ…………或いは……ですので……」


遂に俺たちの入学式が始まった。


入学式と言っても大したことはしない。今みたいに教頭や来賓のクソ長無駄話に付き合いつつ新入生代表がダース単位のオブラートに包んだ先輩方への宣戦布告を右から左へ聞き流すだけだ。


それ故にこの場でまともに話を聞いているのは王侯貴族などの上流階級の頭でっかちどもか意識が高い委員長気質の奴らだけだ。


そして、入学式は自由席ではあるが王侯貴族と平民の座る場所は暗黙の了解である程度決まっている。


そのため俺の周りには教頭の話になぞ興味の欠けらも無い平民が集まりなんの注目も得ることは無い……はずなのだが、


「ちょっと、あなたもちゃんと聞いておきなさいよ。」


「そうですよ、お兄様。興味のない話でもしっかりと聞いておかないと後々面倒なことになりますし。」


何故かは分からないが俺の横にはこの年の生徒の中でもトップクラスの権威を持つ二人が鎮座していた。


シュエルさんよ、この話は俺が聞いてもなんの活用もできないほどに意味の無いものなんだよ。貴族でもなければ権威も持たない俺に取れる揚げ足なんぞありはしないのですよ。


それと峰華、俺一応今は無道だから。東青じゃないから。お兄様じゃないから。


……そして、俺の気の所為では無いのであれば桃色の髪と瞳を持つ獣人の賢者様が何故かこちらを凝視しておられる気がするのですが……


「……。」


うん、やっぱり見られてる。


何故だ!?偽装は完璧だったはず!?バレてんの!?バレてんのか、これ!?!?


ピクっ


頭の中で思考を駆け巡らせていると俺に向けて魔力を向けてきている存在を検知した。


俺はそちらをさり気ない動作で確認し、


「…………。」


そこにいた姉弟子の姿に涙が溢れた。


エリカさん?なんでそんなに眉間にシワがよってるのかしら?綺麗な顔が台無しです事よ?


『主殿、主殿。』


様々な異常事態に半ば心が折れかけていた俺は彩晴からの呼び掛けに意識をそちらに向ける。


『どうした?』


俺の問いに彩晴は簡潔に答える。


『主殿の言う通り、この場に武曾 煌はおらんかった。』


『そうか。』


この場に主人公が居ないことはおかしくない。これは原作通りの行動だからだ。恐らくこの場にいない理由も原作通りのものだろう。


『それと、犬江 宗治の姿も見えない。』


ふむ?友人キャラ犬江に関しては、この時点で言及はされていなかったしなぁ。この行動が原作通りなのかは分からねぇな。


『取り敢えず、そのまま探っといてくれ。』


『了解じゃ。』


俺は彩晴に指示を出し思索に耽る。


さて、主人公だけでなく友人キャラの犬江も不在、か。


まぁ、あいつの役割からして恐らくは原作でも同じことをやっていたのだとは思う。


となると、原作とは違う行動をしているのはシュエルと峰華、あとはエリカは表面上は変わらないか?こっちに視線を送ってきてるだけだしな。


それで言えばミルルも微妙か?同じだとも違うとも言える。


うん、全員俺と関わった奴だけだな。


どうなってんだよクソ野郎。リスクヘッジは万全にって再三言ったよな?にもかかわらずこの体たらくはどういう事だ?あっ?壱成さんよぉ。


……マジどうなってんだよ……可笑しいじゃん、そりゃ原作内にはなかったこともやったよ?でも他の場面に影響しないように細心の注意を払ってたんだよ?


だのにどういうことだってばよ?


現実逃避を繰り返しながら時間を潰していると、カリキュラムや寮の説明も終わりそれぞれのクラスが書かれた紙を教師達が壁面に貼り付け始めた。


「それでは、近くに貼られている表に従って自身のクラスへ向かってください。そこから先は担任の先生の指示に従うように。」


その言葉を皮切りに生徒たちは我先にと貼られている表に向かって走り出す。


「……流石の気合いだな、ほんと。」


「まぁ、それも仕方がないかと。家格による編成が第一とはいえ、それまでの実績が評価されない訳ではありませんし。」


「貴族の子供ならできるだけ上位のクラスに入れぐらいは言われているだろうしね。彼らにとっては死活問題なんじゃない?」


そういう君らは気にしないのね。トップ中のトップなのに……。


「そりゃあ、私達はAクラスで決まっているようなものだし。」


「王族は勿論、大公爵家がAクラスから落ちるのは有り得ませんし。」


そりゃそうだろうけどさ。


「そういう貴方こそ、気にならないの?」


「そうですよ。お兄様の実力であればAクラスでもおかしくありませんし。」


いやいや、それは無いでしょ。


「俺平民だからね?実績も何も無いからね?何処の馬の骨ともわからんカスがAクラスとか、ないない。」


ま、そんな訳で俺はわざわざあの熱烈なレースに参加する気はないのですよ。負けるとわかってる勝負に、力を使いたくないしね。


「っと、そろそろ空いてきたな。」


大体の生徒がクラスを確認したのか、人集りが消え疎らに人が残っている程度になった頃に俺達はクラスを確認しに行った。


「うん、問題ないわね。」


「ええ、ちゃんとAクラスでしたね。」


二人は問題なくAクラスと書かれていた。


俺?Fクラス(1番下のクラス)でしたが?

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