第9話 善意の裏には打算が見える


「それでは、私はこれで。」


ミルルを学園まで案内し、俺は彼女の前から姿を消す。


そして、人通りの少ない裏路地のような場所に入ると同時に抑えきれない声が漏れる。


「ふ、ふふふ、ふはははは!!!」


それは狂笑と言っても差支えのない笑い声。されど、俺は、俺の口は止まることなく動き続ける。


「よっしゃおら見たかボケェ!フゥーーーーー!!!!」


……ふぅ。落ち着いた。


いやー、それにしても上手くいったわ〜。面白いぐらいに思い通りに。


ん?何が思い通りかって?そんなもん俺がミルルに嫌われることになったってことと、ルートを誘導できた事に決まってんだろ?


意味がわからない?ちっ、しゃーねぇなぁ。


最初から説明するとだな。


まず俺は、ミルルが三人の男に絡まれているのを見た時に二つの魔法を発動した。


一つが初めに話しかけた相手が発動者に対して親密感を感じやすくする魔法。


この魔法はミルルが俺を信頼しやすくなったりする、所謂好感度を少しだけ上げてくれる魔法だ。


ここで頭の回る諸君は違和感を感じただろう。原作通りに展開を進めたいのならば俺は嫌われるべきなのでは?と。


安心したまえよ諸君。この魔法、その効果の凶悪度に反して発動難易度が低い。

何故か?この魔法が、対象が動揺している場合にしか効果を発揮しないことや、少し冷静になれば直ぐにこの魔法を使われていたことが露見するというクソでかい欠点が存在するからだ。


つまり、俺はこの魔法を使うことで人見知りが激しく初対面ではまず話せないミルルに警戒されることなくナンパを撃退し、尚且つ俺の事を嫌いにさせることが出来るという訳だよ。


とはいえ、原作外で俺とミルルが接触するのは少しまずい。


ということで、二つ目の魔法が役に立つ。


それが俺の事を記憶し辛くなるという魔法だ。

間違えないで欲しいのが忘れさせるのではなく、覚え辛くなるという点だ。


記憶領域を弄るのはまだ俺の実力では難しい。

が、この魔法は記憶領域ではなく俺の映り方や雰囲気、声音などの特徴を消し去り物理的に覚えにくくするという魔法であるためにそこまで発動難易度が高くない。


そしてこれまた上記の魔法と同じように欠点が存在する。


それが、発動者の名前(魔法発動中に知った場合)や身体的特徴に違和感を感じやすくなるというものだ。


そう、俺はこの2つの魔法を組み合わせることによって相手に「何故かは分からないが「無道 壱成」という名前や金髪に違和感と嫌悪感を感じさせる」ことが出来るのだ。


それはつまり、これからの活動でこの魔法を使うことで俺は嫌われながらも目的を達成することが出来るということだ。


ちなみに無道ってのは東青家が新たに作った俺の苗字な。道が無いとはなかなか言ってくれるじゃねぇの。


ま、そんなことはどうでもいい。今はただこの素晴らしい日に祝杯をあげようでは無いか!


「はーはっはっはっはっ」


「何してるの?」


「……は?」


俺は高笑いの最中にこちらに声をかけてきた見覚えのある女性の顔に顔を引き攣らせる。


「な、なぜエルフの姫君がただの平民であるこの私めに声をおかけになるのですかな?」


そう、そこに居たのは先程のミルルと同じ【楽学】のメインヒロインの一人、エルフの姫であるシュエル様でした。


ゑ?なして?


「なんでって、そりゃ家に行ってもいなかったから探しに来たんじゃないの。」


……ゑ?


「まぁ、当の本人はナンパに困る女の子を助けていたみたいだし?いいんだけどね。」


……はっ!いや待てこれはチャンスだ。いつから見られていたかは分からんが、俺がミルルを助けたところを見ていたということは、俺がミルルに魔法をかけたところも見ていたということ!!


神よ!!貴方は俺の味方だったのですね!!!


「なぁ、シュエルよ。実は俺ミルルに俺の事を好きになるように魔法かけたんだよね。」


嘘ねダウト。あれはそんなに強力な魔法じゃないわよ。精々が信頼できそうって感じるぐらいね。」


なぜバレたし……。


いや、まだだ!!まだ逆転の目はあr


「それにあなたのことを覚えにくくする魔法を使ってたみたいだし?あなたの事だからあの子を慮ってのことなんでしょ?それぐらい分かってるわよ。」


oh、fuckinGOD!!!


てめぇ邪神じゃねぇかゴラいい度胸だ真正面から俺を騙そうとはなァァ!!!

てめぇの面ァ覚えたからなぁ!!次会う時がてめぇの最後じゃァァァ!!!!!


「でも、あの三人にお金を握らせたのは感心しないわね。ああ言うのはちゃんと潰さないと厄介よ?」


「そうだよな!?やっぱああいうのはぶち殺さにゃならんよな!?やっぱり姫様は最高だな!それに比べて壱成はマジで死んだ方がいいクソ野郎だな!よし死んでこよう(^_^)ノ」


俺はシュエルの言葉にここぞとばかりにまくし立てこの場から離れようとするが、


「待ちなさいよ。」


肩を捕まれ失敗に終わる。


「まぁ、私もああは言ったけどあの場ではあれで正解だと思うわよ?あれ以上あの3人がいたらあの子もしんどかったでしょうし。」


あぁ、そうか、初めから神なんて居なかったんだ……。


なんで思い通りにならないの?死ねよ神。あと壱成クズ


「まぁ、あの子が勘違いしても大丈夫。私が誤解を解いてあげるし、あの子もいい子そうだからきっと分かってくれるわよ。」


俺は土下座をした。

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