第5話 誰にだって恥ずかしい秘密の一つや二つはある


手にした弓型の魔導媒体器マジックデバイスから放たれる精密無比な矢の数々。


八人にも関わらず、放たれる矢の本数はものの数秒で100に迫ろうとしていた。


「ほっ、よっ、せいっ!」


避ける、避ける、避ける。


ただ降ってくる矢の雨を避ける。


俺達の距離はほんの数十メートル。彼女達の真価は到底発揮出来る間合いでは無い。


寧ろ、俺有利の距離だと言える。


であれば、いくら格上と言えども師匠に扱かれ続けた俺がそう簡単に負ける道理はない。







…………なんて、かっこよく言ったものの、


「ちょ、無理無理無理っ!何本打つ気だよてめぇらっ!?」


千を超える数の矢に俺は押され始めていた。


「この距離は私たちに不利だからね。遠慮はしないよ。」


「しろっ!全力でしろ!オレが、死んじゃうでしょうが!」


「そんなことを言ってはいても、しっかり対処出来てるじゃないですか。」


「しないと死ぬからね!?」


冗談じゃねぇっ!何なのこいつら!?


この距離で、この間合いで、なんでこんな打てんだよっ!?


俺の周りは囲まれ、どこに逃げても矢の発生源に向かうことになる。


全員から1番離れている今の位置でも厳しいんだ。近づいたら、対処は無理。


だが……近づかねぇと話にならん。


無理やりにでも、詰める!!




装填セット乱気流タービュランス】――――――発動!



周囲の気流を乗っ取り、上下左右不規則に変化する領域フィールドが形成される。




今の俺じゃあ大した威力は出せねぇが、矢の軌道を逸らせるだけでも十分お釣りが来る。


今のうちに……






ゾワッ


なんっ……後ろか!!!


直感に従い、自身のありったけの力で横に飛ぶ。




瞬間、大気を震わせる程の衝撃と音。



直前まで俺がいた場所には、先程までとは形の違うが深々と刺さっていた。


「うっそだろ……おい。」


「いい判断ですが、その程度で影成弓士我々を突破できるとでも?」


そこには、非情な光をその眼に宿す【影成弓士】のリーダー、エステル・ヘルクレスが悠然と立っていた。


「……流石、エリートのリーダーは格が違うわ。お姫様の護衛なら、そりゃ優秀だよな、エステル・ヘルクレス。」


「……お褒めに預かり光栄ですが、私の名をどこで?」


………………。


「さぁ、お姫様が漏らしちまったんじゃねぇかな。……憧れの先輩の家に行った時のあんたみたいに。」


「は……?…………っっっ!!!!な、何を言って!?!?いえ、私は漏らしてなどっ!?!?」


「へぇ〜、ほ〜ん、ふ〜ん。」


ネームドキャラのことを知らないわけがないだろ?(ニチャア)


「えっ、リーダー?」


そこに、俺への追撃のためか近くに来ていたのであろう【影成弓士】の後輩枠、ラウラ・ポンプがエステルに声をかける。


「……忘れなさい。」


「えっ、いやでも……?」


「忘れなさい。」


「あn」


「忘れなさい。」


「……はい。」


……いけそうだな、これ。


「……隙ありぃぃぃゃぁぁぁ!!!」


「うわぁぁぁぁ!!!汚っ!汚いっすよ!?それが可憐な女の子にすることっすか!?!?」


「やかましい!格下を多人数で囲んでボコってるヤツらに言われとうない!!!」


「正論っ!ここに来て急に正論!リーダーの負った傷のことも考えて欲しいっす!!」


「お前らが俺に敵対しなけりゃ墓まで持っていけたんだよぉぉぉ!!」


「あんたがそんなこと知ってるとか知らなかったっすもん!!」


くっそ、また囲んできてやがる。


エステルはもうこの戦闘中には復活しないだろうし(てかできない)、あと7人。


ラウラは近くにいるし、速攻で落とすとしてもあと6人。


骨が折れるな。


「……ところでラウラよ、創世録はもう20冊は超えたか?」


「そっ……!創世録?な、なんのことかわかんないっす。」


……へぇ〜、そっかぁ。


「……ブレイク・アルバート。二つ名は【暗黒の一閃ダークネスフラッシュ】。平凡な父と母の間に生まれた異端児。その強さはまさに鬼神のごとく。神だろうと悪魔だろうと彼の前ではゴミ同然。彼の必殺技【暗黒隔絶全龍斬】の前ではh……」


「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」


……二人目、撃破。


チョロいもんだぜっ!


「随分と、舐めたことをしてくれますね。東青壱成さん。」


「お生憎、もうあの家とは縁切れてるんで。」


気配もなく急に俺の後ろに現れた漂う美女。


その美女が、振るう短刀型魔導媒体器マジックデバイスに合わせ、俺も五月雨江を振るう。


ガキン


2人のデバイスが当たり、金属音が鳴り響く。


「私は、あの二人のようには行きませんよ。」


「へぇ、試してみるかい?」


「どうぞ、御自由に。」


なら、遠慮なく。


「チハヤ・カシオペアは、規律や規範に厳しい厳格な性格で、常に厳正なオーラを放つクールビューティだが、大の可愛い物好きで自分の部屋には可愛らしいぬいぐるみが多数置かれているらしい。加えて、パジャマは動物の耳やしっぽが生えた可愛らしいものだとか……。」


「……そ、それがどうかしましたか?」


「……耳赤くなってんぞ。」


「なってません!」


流石に、これじゃ落ちないか。なら……


「ところで、チハヤさんや。」


「……なんですか?」


「今もくまさんパンツ履いてんの?」


「なっ……!?は、履いてません!履いてたとしても、あなたには言いません!!」


ガシッ


「じゃあ、私ならいいっすよね?」


「ら、ラウラ?な、何をしているの?」


「……へへ、1人だけダメージなしなんて許すわけないっすよね?」


「いい笑顔で何言ってるの!?ちょ、ちょっと待って、ほんとに待って、履いてない!履いてないから!!」


「なら、見てもいいっすよね。リーダー、一緒に書くんするっすよ。」


「……そうね、それがいいわ。」


「エステル!?!?貴方まで何してるのよ!?」


「……みんな一緒だよ?」


「エステルぅぅぅぅぅぅ!!!」


……三人目、撃破っ!!



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