第4話 ストーカーに倫理観を求めてはいけない


朝、起きてストレッチ。


十分ほど続けた後に、顔を洗い、寝癖を整えランニングの準備を始める。


装填セット【身体強化】――――発動。


魔力を四肢に込め、爆発的な勢いで走り出す。


「はっ……はっ……。」


日課になっている朝のランニングだが、師匠にも言った通り走る距離は日に日に伸び、スピードも上がってきている。


今では原付どころか車と競走出来るレベル。


……普通にバケモンだな。





一時間ほど走り込み、今度は公園に入り何時もの型の練習を始める。


継続は力ってことで、こっちも刀の生成スピードや強度は上がり、精度も目立ったズレが無くなる程には習熟している。


一振一振、正確に力を込めて振り切る。


数をこなす為に雑になっては意味が無い。その一振に魂を込めて、全力で振ることこそ上達の秘訣なんだとか。


まぁ、それを否定するつもりは無いが、丁寧にするあまり勢いが足りていないなんてことになっても意味は無いと思うので、神経質になり過ぎないように刀を振るう。


「……フゥ。」


一通りルーティーンを終わらせ、一息つく。


「……来るなら入学前だと思ってたんだが、俺の思い違いか?」


入学式まで、あとほんの数日。俺の懸念材料であるは、未だに俺の元に来ていなかった。


「彩晴も何も感知してないんだよな?」


『していたら、真っ先に主に言うわ。』


「だよなぁ、彩晴俺の事大好きだしなぁ。そりゃそうだよなぁ。」


『すっ……そんなんじゃない!私は私の仕事をすると言うだけで……っ!』


ふぅーん、好きじゃないんだぁ。そっかー。


「何時も必要以上にくっついてくるのに?」


『うっ……!』


「寝る時だって、俺と一緒じゃなきゃ寝れないのに?」


『むぅ……!』


「俺が寝たあとは体に張り付いているのに?」


『うぅ〜。』


……かわいい。

いやまじでかわいいんだよ皆さん??


この子、こんだけ色々やってて俺にはバレてないつもりなんですよ。


俺の方が起きるのが早いのに俺に張り付いて寝てたり、俺がいなければ俺が帰ってくるまで俺のベットで待ってたり、俺と外に出る時は影潜りがあるのにわざわざ体に張り付いてきたり。


こんなことをしておいて、全部気づかれてないものだと思ってるんですよ。


まじかわいい、彩晴かわいい。


『す、好きじゃないもん!』


普段儂とか、ちょっと古風な喋り方する癖に、焦るとこんなふうに子供っぽい喋り方になるのもいいよね。


「そっか、好きじゃn……」


来た……か?


俺のまだ拙い魔力感知によると、数は八。


『彩晴。』


『ご、ごめん。主、気づかなかった。』


『いや、大丈夫だ。あいつらなら気づかなくても無理はない。落ち込まんでいい。』


『でも……。』


『口調戻ってるぞ。』


『え……?あっ。』


『ま、今は敵さんに集中しようか。』


『そ、そうじゃの。』


彩晴でも気付かなかったのなら、ほぼ確であいつら、シュエルの護衛、エルフの国の精鋭集団【影成弓士ヘカテイア】だろう。


元々、自然主義者である彼女たちは森や山などの自然豊かな場所に住み生きてきた。


食糧は全て自前で用意しければならず、更には魔物達との距離も近い。


それ故に、エルフは全員が戦闘のスペシャリストにして隠密の戦士なのだ。


そして、人間との最も大きな差は寿命である。


人間の平均寿命が、80前後、長生きでも100数歳までしか生きられないのにも関わらず、エルフの平均寿命は千にも迫る程で、最高年齢は万を超えると言われている。


実際は、この最高年齢はエンシェントエルフのものでエルフのものとはまた違うのだが、それは置いておいて。


エルフの戦士は1人で、人間の戦士を10人は相手取れると言われている。


そして、【影成弓士】達は、そのエルフの戦士を20人まとめて叩き伏せられるというのだ。


どれほどの化け物か、よく分かっていただけたと思うのだが、改めて今の状況を確認してもらいたい。


人間の戦士10人を相手取れるエルフの戦士を一人で二十人叩き伏せられる化け物が八人、俺こと壱成を取り囲んでいる。


つまりは、詰み……という訳でもない。


実は、今俺がいるこの公園は普段師匠との鍛錬で使う場所で、あと十分程で、師匠がここに来るのだ。


俺のランニングや素振りは、日課であると共に師匠が課すメニューの為のアップのようなものだったというわけだ。


なぜ師匠が来る前にアップを済ませるのかだって?


そんなもの、師匠がいきなり斬りかかって来るからに決まってるじゃないか。


あの人、鍛錬とか言いつつ俺と仕合うだけだからね。アドバイスはくれるけど、あとは自分で勝手にやれみたいな感じだよ。


お陰で強くはなれているが、毎日死にかけている。


ほんと、加減ってもんを知って欲しいね師匠には。





さて、益体もないことを考えていたら、いよいよ彼女たちが姿を現した。


全員が同じ装束を来ており、色も黒で統一されている。


動きやすいように様々な場所に切れ込みを入れ、空気抵抗を抑えるためか限界まで衣服を切り詰め、美しい肢体をこれでもかと見せつけている。


魔導媒体器マジックデバイスは、示し合わせたかのように全員が弓型を所持し、腰には短剣型の媒体器を佩いている。


「ここ数日間のストーカーは楽しかったか?さぞ有益な情報を手にできたんだろうな?」


「ええ、ようやく貴方とやり合える位には。」


格上が油断してくれないとか、終わってんだけど。


俺に何を求めてんの?神様は。


死ねって?俺もそう思う。


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