第2話 大事なものは、無くなった時に初めて気付く



ショートピース。


それは、至高。


それは、至極。


それは、極上。





昭和二十一年、一月の十三日に発売が開始された両切りタバコ。銘を、ピース。


当時は高級タバコとして、一箱10本入りで7円ほどで売られていたらしい。


このピースという名は、公募され、選考会一位の名、では無く、二番目の名前が採用された。


なんでも制作技術上の問題だとか……。


そして、昭和27年4月1日以降の、鳩がオリーブの葉を咥えているこのピースの箱のデザインは、「ラキスト」の俗称でよく知られている「ラッキー・ストライク」の箱をデザインした、レイモンド・ローウィによるものだ。


ピースは、タールやニコチンの量がかなり多めの煙草で、玄人好みのもののような印象を持たれることも多いが、そこまでの重さやキツさは感じないようになっている。


使われている葉が、バージニア葉で芳醇な香りや旨みがストレートに伝わってくる作りになっており、使用されているバニラの香料も相まって、その余りの旨さに愛煙する者も多い。


かく言う俺も、転生なんぞする前は、常喫するほどの愛好家だった。


転生し、2度目の未成年になったおかげで吸うことも出来ていなかったのだが、今日。


そう、今日やっと俺は成人した……っ!


除籍だの勘当だの、本家のババアどもに言われたが、そんなものはどうでもいい。元から言われていたことだしな。


しかーしっ!!!


今日をもって成人する俺は、タバコが吸えるっ!!!


そんなもん、いくしかねぇだろ……?


そんなわけで、勘当を告げられた後すぐに、俺はコンビニに向かった。


ここらのコンビニは、未成年時代に回り、何処にショッピ(ショートピース)が売られているのかを把握している。


フッ、この俺に抜かりは無い。


…………彩晴に頼めばよかったなんて思ってない。いやマジで。こういうのは自分の足で見つけるのがいいんだよ。彩晴を使うのは、ほらあれだから。うん、あれだからね。





そんなこんなで、ショッピを買い、前世でも使っていたジッポを揃え、いざ……っ!!


シュボッ


先ずは口腔喫煙、所謂ふかしだ。


口の中を煙で満たし……


「ごほっ!うえっ、ゴホッゴホッ!」


全力でむせた。


…………うん、浮かれて忘れてたけど、この体の最初の喫煙だもんね。そりゃそうなるよね。


ショッピとか、最初の一本に選ぶ人いないもんね。1度通った道なのに、忘れてたよ。


ちょっとずつ慣らしていかないとな。


再度口に咥え、吸い込みすぎないように慎重に、少しだけ吸う。


少しづつ、少しづつ、口から吐き出す。


「……あぁ、うめぇ……っ!」


思わずほろり。


次いで、肺にまで落とし込む、肺喫煙。


煙を吸い込み、口の中に満たした後、タバコを口から離し、深呼吸。


「ゴホッゴホッ!」


…………学習しろよっ!


「……肺喫煙は、暫くお預けだな。」


まぁ、でも……さいこう……。


でも、ショッピって常喫には向かねぇんだよな。


めちゃ重いし。


フィルターがないってのもキツイな。歯で潰したりしたら、葉が全部口ん中に入ってくるし。


戦闘中とか気になって仕方ないだろ、そんなん。


家用かな〜、ショッピは。たまーに、家で落ち着いて吸うぐらいがちょうどいいかな。


常喫用には、金ピ買お。金ピも上手いし。


益体もないことを考えつつ、もう一本火をつける。









あれからしばらく、数本を吸い終えたところで我に返る。


「やべ、吸いすぎた。」


幾ら久しぶりの喫煙とはいえ、時間かけすぎたな。


これから、色々準備しねぇと行けねぇのにのんびりしすぎた。


「まずは、メイドからだな。」







そんな訳で、やってきたのは俺の家。東青家はいらないって言ってたから、俺の家だ。異論は認めない。


…………暗殺者とか送ってこないよね?


暗い妄想はよそうか。


まずは、


「お前の雇用条件について、話し合いたい。」


「はぁ。別に雇ってくれるならなんでもいいですけど……。」


えぇ……大事なことじゃん。なんでそんな面倒くさそうなの?ってか態度戻ってんね。我主人ぞ?


「とりあえず、給料はこんなんでどう?相場がわからんから、適当だけど。そこまで外してないと思う。」


「はぁ。………………はぁっ!?」


「うおっ!」


びっくりしたぁ、急にでかい声出さないでよ。ビクってなっちゃうじゃん。


「…………。」


奇声を上げたかと思ったら、何故か此方をジト目で見る白髪メイド。


「え〜と、ルシアさん?なんでそんなジト目なの?」


「……本気ですか?」


「えっ、もしかして安い?割と適正だと思ったんだけど……。」


「逆です。高過ぎます。て言うか桁が違います。頭おかしいんですか?おかしいんですよね?おかしいです。」


「自己完結しないで?別におかしくないから。正常だから。」


「正常な人はこんなアホみたいな給料設定しません!」


そんなおかしくないと思うんだけどなぁ。


「いや、元東青家のメイドに対して払う金額としては妥当でしょ。」


「どこら辺が妥当ですか!?私の元々の給料の数十倍ですけど!?アホですか!?アホなんですね!」


だから自己完結すんなって。アホじゃないから。ちゃんと正当だから。色々調べた上での給料だから。

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