第27話 フィクションでは、大穴は確定で当たる


白髪メイド、ルシアを雇い入れることが決まり、細かい話は家に帰ってからするにした。


ここは東青家だからね。仕方ないね。


そんなこんなを終え、立食会の会場に戻り、壁とかす。


「暇なので、ドラクエごっこでもしよう」と、頭の中のヒ○ノリが話しかけてきた頃、俺の横にいた3人ほどのグループが俺の話をしだした。


「あいつ、例の勘当のやつだよな。」


「ああ、今時勘当なんて何やらかしたんだろうな。よっぽどの事じゃないと、されねぇだろ。」


「そのよっぽどをやったらしいぞ。なんでも、本家のお偉方に媒体器デバイスを向けたとか……。」


コソコソと話しているつもりだろうが、丸聞こえだ。本家の教育はどうなってんだよ。


「これは、もしかするともしかするかもな。」


俺にとっていい風が吹いてきたらしい。きっと峰華のとこのババアが手を回したんだろう。


今だけは貴様に拍手喝采を送ってやろう、よくやったババア。そして、峰華を泣かしたことを地獄で悔い改めろ!


それはそれとして、噂話をされるのは気分が悪いので、シャボン玉を吹いて対抗する。


そんな事をやっていると、こちらに峰華が近づいてくる。


「お兄様、少しよろしいでしょうか。」


そうおずおずと聞いてくる遠縁の妹。メインヒロインなだけあってとても可愛い。


服も正式な場だからか、初めて会った時のように蒼色の和服を来ており、その涼やかな雰囲気は健在だ。


「どうした、峰華。」


そう尋ねる俺に、遠慮がちに告げる峰華。


「大奥様から、お兄様を連れてこいと。」


ああ、廃嫡の件ね。どうやら、家のババア共は待ちきれなかったらしい。


そんなに、俺を追い出したいのか。


「わかった、今行くよ。」


そう言って飲み物を飲み干し、グラスを侍従に回収してもらう。


峰華に向き直り、告げる。


「行こうか。」


峰華と俺は、連れたって歩き、ババアが待つ部屋に向かう。


部屋は案外近くにあったらしく、すぐに着いた。


「この中です。」


そう告げる峰華は、どこか不安そうな顔を覗かせ、何かを逡巡した後、口を開く。


「お兄様。私は、お兄様がこの先どうなってもお兄様の味方であり続けます。」


その言葉を告げるのに、どれほどの勇気を振り絞ったのだろう。


この家の次期当主として、接するべきではない俺にこの言葉を告げることがどういう意味を持つのか、考えなかったわけではないのだろう。


体は震え、目は潤み、それでも毅然と俺を見つめてくれている。


この決断が、あのババア共への反抗になることをわかっていながら、俺の味方でいてくれると言ったのだ。


原作との乖離を考えるのなら、拒絶するべきだ。この関係を続けることが、どんなマイナスになるか分からない。


……それでも、俺はこの子を泣かせたく、無い。


峰華の頭を撫で、微笑む。


「ありがとな。頼りにさせてもらうよ。」


そう言って、俺は背を向け部屋の中に入っていく。


部屋に入ると、ババア共が勢揃いしていた。


「よう、行儀よくパーティーが終わるまで待てなかったのか?途中で呼び出しやがってよ。せっかくのドリンクを、味わいきれなかったじゃねぇか。」


皮肉げに口を歪ませ、ババア共に言葉を投げかける。


「行儀の悪い輩がいると気になるもんでね。サッサと野良犬は外に捨ててやろうと思ってね。」


俺とババアの応酬が終わり、本題に入る。


「東青 壱成。今日限り、貴様のその名を剥奪し、東青を名乗ることを固く禁じる。」


……わーお、まじで来たぜ、おい。


良かった〜、あんだけ暴れた甲斐があるってもんだ。これで面倒な呪縛から解き放たれるってわけだ。


……あぁ、とりあえずやることやるか。何も聞かずこのままバイバイとか、怪しすぎるもんな。


「あー、廃嫡って聞いてたんだが、これ勘当だろ?ついに頭バグったかババア。それとも国語が苦手なだけかい?」


「何も間違っちゃいないさ。あんたは勘当処分だよ。」


ウェーイ、超都合いい〜っ!


大穴とか言っといて良かった〜!


漫画とかだと、大穴が1番当たるからな。ちなみにこれ豆な。


「んじゃ、俺苗字なくなる感じ?今時名前だけってちょっとあれじゃない?」


「それも問題ない。新しい戸籍は作っておいたよ。適当な苗字で突っ込んどいたから、それ名乗んな。」


人の名前を適当とは、流石ババア。そこに痺れないし憧れない。俺に出来ないことを平然とやってることは確かなんだけどなぁ。何がダメなのかなぁ。僕わかんない。


「オーケーオーケー。じゃああの家はどーすんの?没収?」


「出来損ないが住んでた家なんて要らないよ。勘当祝いとでも思っときな。手切れ金でもいいよ。」


やっぱスケール違うねぇ。あんな豪邸を手切れ金とは恐れ入る。


没収されると思ってたから、寮入ろうと思ってたんだけど、まぁいいか。学園も近いし、面倒はない。


「聞きたいのはそれだけかい?ならもう出てきな。あんたには二度と、ここの敷居を跨がせないからね。」


「おう、土下座して頼むんならまた来てやってもいいぞ?」


そんな言葉を残して、俺は東青家を出る。


「まぁ、峰華がどういうスタンスになるかはわからんけど、悪いようにはならんだろ。知らんけど。」


東青家を勘当されることができて、晴れて自由の身だ。


来週からは、もう入学だ。もっと、強くなろう。


「……あっ!俺もう煙草吸えるじゃねぇか!」


今日誕生日を迎え、成人した俺は煙草が吸える年齢になっていた。


「そうと決まれば、買いに行くしかねぇ!待ってろショッピちゃーん!!」


俺は、煙草を買いに走った。




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