閑話 とある日の師匠と姉弟子の会話


「オリヴィア、少しいいか。」


「なんだ、エリカ。」


「オリヴィアは、壱成のことをどう思う?」


「……珍しいな。お前が、他人を気にするとは。」


「他人じゃあないさ。かわいい弟弟子だからな。それで、どう思う?」


「……どうってのは、具体的にどういう?」


「……私にとって、壱成はかわいい弟弟子だ。それは間違いない。だが、あいつの成長を横で見ていると、少し怖くなる。」


「怖い?」


「自分を削って強くなっているような、何が代償を払っているかのような、あの鬼気迫る様子が、怖い。あいつの才能は、見ていてもよくわかる。途轍もない才能だ。バトルセンスは高いし、頭の回転もはやい。動体視力の高さは言わずもがな、咄嗟の機転も効く。勝負勘も強いな。」


「……嫉妬か?」


「……否定はできない。だけど、努力を怠らないあいつを、私は好ましく思っている。私自身、才能に胡座をかくような輩は嫌いだ。その点、あいつはよくやっていると思うよ。」


「エリカも、才能で見れば、壱成に引けを取らないぞ?」


「慰めてくれてるのか?だが大丈夫だ。私も自分に才能がないとは、思っていない。壱成への嫉妬も、あいつの人柄を思えば小さなものだよ。」


「なら、何が問題なんだ?」


「言っただろう、怖いと。あいつはいつか、誰かのために、自分の全てをなげうってしまう。あいつを見ていると、そんな気がするんだ。」


「…………。」


「あいつはなぜ、あそこまで鍛錬に打ち込める?なぜあそこまで、自分を追い詰められるんだ?それが分からないから、怖いんだ。」


「あいつは死なないさ。」


「なんで、そう思うんだ?あいつは自分が死ぬ事で助けられる命があるなら、喜んで死ぬようなやつだ。私には、そう見える。」


「死なない為に、私が鍛えてる……って言っても納得はしないよな。」


「…………。」


「……はぁ。口止めされてたんだがなぁ。仕方ないか。」


「口止め?壱成にか?」


「……壱成の魔法を見たことがあるか?」


「鍛錬の時に、数回なら。」


「……あいつの放つ魔法の八割近くは、クリティカルが発動している。お前の前では、上手く抑えてたみたいだけどな。」


「な……ッ!?」


「それも、日に日に成功率は上がっている。そんなもん【蓋世私達】レベルにしかできねぇよ。クリティカルを狙って打てるのは、そんな化け物だけなんだ。」


「あいつは、もうそんなレベルにいるのか……ッ!?」


「いいや、まだまだひよっこだよ。確かな魔力の操作技術と、クリティカルのタイミングをからだろうな。」


「……なぜ……壱成はそんなものを知ってるんだ?クリティカルなんて、私達からしたら、100回打っても出ない程度には高難易度のはずだろう?」


「さぁな、そこら辺は私にもわからん。あいつは、まだ私たちに隠し事をしている。……まぁ、聞き出す気はないが。」


「……いいのか?聞かなくて。」


「いいんだよ、それであいつがどっか行ったらどう済んだ。あいつのそばにいると、退屈しねぇからな。ちゃんと近くに置いときたいんだよ。」


「……そうか。オリヴィアがそう言うなら、私も聞かないでおこう。」


「おう、そうしとけ。」

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