第23話 一度正体を隠したなら、最後まで隠し通すのが筋
「いや〜、助かったぜ師匠。」
「さっき愛してるって言いました? さっき愛してるって言いましたよね?」
何この
俺たちは、師匠に助けられた後、近くの公園にまで来ていた。
「あ、あの、オリヴィアさん。助けていただきありがとうございます。」
「主従共々、この御恩は忘れません。」
シュエルとルナリヤは、師匠に何度も感謝を伝えている。
「もういいって、弟子がやった事だよ。感謝するならこいつにしとけ。こいつに言われなきゃ、私は今日ここまで来ていないからな。」
そう言って微笑む師匠に、シュエル達は再度頭を深く提げ、此方に向く。
「貴方も、私達を助けてくれてありがとう。貴方が居なければ、私たちはどうなっていたか分からない。本当にありがとう。」
深深と頭を下げるエルフの姫。
「あなたのおかげで、シュエルを守ることが出来ました。深く、感謝を。」
こちらもまた、深く頭を下げるエルフのエリート。
「……やめてくれ。エルフの姫様に頭を下げさせたなんて、外聞が悪ぃ。それに、俺が勝手にやった事だ。感謝は要らねぇよ。」
そう言えば、少し困ったかのような表情で、顔を上げ、もう一度感謝を告げる2人。
「それじゃあ、言葉だけでも。ありがとう。……えっと、」
そこで区切り、何かを迷うような表情をしたあと、彼女は意を決したかのように切り出した。
「なんで、まだ仮面被ってるの?」
……それ聞いちゃうかー。そっかー、そうだよなぁ。聞くよな、普通。
どうしよっかねぇ……。
俺としちゃあ、東青 壱成が、エルフの姫を助けたなんて知られたら面倒なんだよなぁ。
それに、シュエルに、今顔を知られるのは避けたいし。
何を今更って感じだけど、できるだけシナリオは変えたくない。
俺のアドバンテージは消えるし、今後予想できない事態が増えることも考えられる。
だから、顔見せたくないんだけど……
じー
……納得させられる気がしねぇ。どうやって行く誤魔化すか……。
「あー、個人的に厄介な問題を抱えていてそれのせいだ。顔見せるのは、勘弁してくれ。」
取り敢えず、直球で言ってみる。
「んー、恩人に嫌がる事をさせたくはないんだけど……。」
「貴方に、何もしなかったのではエルフの沽券に関わります。ですので、正体を明かして欲しいのですが……。」
だよなぁ。そりゃ、国としては何もしないなんて訳には行かないもんなぁ。
……あ、いや、そもそもこんな事件がなかったことにすればいいのでは?
……いや無理だろ、シュエルの護衛はシュエル誘拐のこと知ってるし、隠し通せるもんじゃない。
……師匠に押し付けよ。
「……俺は何もしていない。闘神と呼ばれる、【蓋世】の一人、オリヴィア・ラートゲ・ヌバ・テュケオーベが全てを解決した。」
「「は?」」
二人の声が揃う。
コワイ ガクブル
「おーよしよし、怖くないぞォ。」
師匠に頭を撫でられるが、無視して話を進める。
「そういうことにすれば、俺に礼をする必要は無い。俺の関与を知っているのは、ここにいる4人だけだ。隠し通せる。」
「嫌だぞ、私は。」
グルン
師匠の方に顔を向ける。
「なんで?見捨てるの?俺を?」
「違うんだが……。弟子の手柄を取るなんてしたくない。私はそんな事をするようになりたくない。」
……師匠は、そう言うよな。――
「はぁ、仕方ないか。」
そう呟いた俺に、シュエルとルナリヤのふたりが反応する。
「もしかして……」
「ということは……」
期待に満ちた目を向ける2人に、仮面の下から目一杯の笑顔を向けて……
「アデュー!!」
全力で逃げ出す。
師匠がポツリ。
「逃げた。」
シュエルとルナリヤは、ぽかんとした顔でこちら見ている。
「ふははははっ!見せるわけねぇだろッ!残念だったなぁ!!もう合わないよう願ってるぜぇぇぇ!!」
身体強化を発動し、路地裏に入る。
角を無意味に曲がったり、大きく迂回しながら、家に向かって走る。
『良かったのか、主。』
彩晴から、急にそんな事を聞かれる。
『いいんだよ、あれで。最高だ。』
走りながら、彩晴に答える。
『俺は、廃嫡されるまでは大人しくしておきたい。東青家の後継者問題の矢面に立たされたくないんでな。しっかり廃嫡された後は、自由に動くが、それまではできる限り派手な動きはしたくない。』
『……そうか。ならば、私からは何も言わん。』
何処か不満げに、そう告げてからは、彩晴から念話を送りてくることが無くなった。
走っている途中で、肉や野菜が減っていたことを思い出して商店街に行く。
「いや〜、廃嫡までは東青家のブラックカード使い放題だからな。稼ぐ必要が無いのは、素直にありがたい。」
金を稼ぐ時間も、鍛錬に当てられるからな。
特に、今の時期は他にやる事が無いのも大きい。
入学前で、準備は全部終えている今だからこそ、朝から晩まで鍛錬漬けにできるんだ。
「今のうちに、ちゃんと強くならねぇとな。」
食料を買い漁り、必要な物を揃えて家に帰る。
鍵を空け、冷蔵庫のあるキッチンの方に向かう。
機嫌よく鼻歌を歌いながら、ドアを開け、
「よぉ、遅かったな壱成。」
「お帰りなさい。自炊してるんだね、凄いなぁ。」
「お邪魔してます。結構綺麗にしてますね。」
寛ぐ3人を見て、膝から崩れ落ちた。
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