第22話 勝利条件が、相手を倒すこととは限らない


「俺が突っ込むから、後衛に牽制してくれ。」


シュエルとルナリヤは頷き、媒体器デバイスを構える。


それを見た俺は、今度は彩晴に念話を送る。


『後ろ見ててくれ。』


『了解じゃ。』


その言葉を聞き、俺は刀身を生成し、敵に向かって走る。


「アホが突っ込んできたぞ、やれ!」


リーダー格の槍の男が叫び、後衛の2人から魔法飛んでくる。


近接の3人は、俺を迎え撃つつもりらしい。


飛んでくる魔法に一瞥もくれずに、突っ込む。


「何考えてやがるっ!」


動揺が敵に広がり……俺の後ろから飛んできた矢が、相手の魔法を打ち落とした。


「流石エルフ。」


呟き、魔法の準備をする。


装填セット風爆ウィンドブラスト】――発動


風の球が、槍の男に飛び、男が振るった槍に当たった瞬間――槍の男と、傍に居た直剣の男が吹き飛んだ。


「がっ!」


「ぐおぉぉっ!」


【風爆】……空気を圧縮し、敵に当たった瞬間に爆発させる魔法だ。


威力自体はそこまで高くはないが、ノックバック性能が高い。


敵を引き離したい時には、重宝する魔法だ。


位置が離れており、1人だけ吹き飛ばずに済んだ双剣の男に肉薄し、横薙ぎを繰り出す。


ギィン


右手の剣で防ぎ、もう片方の剣で斬りつけてくる双剣の男。


鍔迫り合いを押し切り、迫る剣を掻い潜る。


懐に踏み込み、お互いの体が密着するまで近づき―――後ろ回し蹴りを叩き込む。


「ごふっ」


双剣の男が、近接の2人が飛ばされた近くに転がっていく。


「君らは俺が相手してやる。悪いな、かわいい女の子じゃなくて。……でも、かっこ悪い姿を女の子に見られることは無いから、安心してかかってきな。」


挑発し、意識を俺に向けさせる。


今のシュエルは、そこまで強くないはずだ。


向こうでは、2対2だ。今は、これがベストなはず。これを維持するためには、こいつらを、ここに留めておきたい。


それに、エルフなだけあって、二人とも弓職だ。前衛が居ない状況で、前後衛揃ってる敵は、相性が悪い。


ルナリヤがいる以上、シュエルの負けはない。向こうが勝つまでに、出来ればこちらも決めたいが、1人でも落としておけば数的優位は作れる。


焦る必要は無い。


「どうした? まだ始まったばっかだぜ?もうビビってんのか。流石、魔人の眷属様は肝が座っていらっしゃる。」


勝利条件は、向こうが決めるまでこの戦線を維持すること。


努力目標は、1人でも多く落とすことかな。


最善はこっちはこっちで終わらすことなんだけど、俺そんなに強くないからなぁ。


「……どうやら死にてぇらしいな。俺ら三人相手して、生き残れるとでも思ってんのか? ……舐めんじゃねぇぞっ!!」


槍の男が、走りながら突きを放つ。体を反転させることで避け、刀を振り払おうとすると、後ろから剣が迫ってくる。


「あっぶね。」


慌てて避けて、蹴り飛ばし距離を取る。


追撃してくる双剣の男に、刀を合わせ、タイミングを合わせて後ろから来た剣の振り下ろしを、双剣を受け流しつつ、横に転がり避ける。


転がったところに、槍が迫る。


咄嗟に刀を振り、合わせたところで踏み込み槍の上を滑らして刀を振るう。


槍の男は上体を反らして避け、距離をとる。


「……囲まれるとさすがにキチィな。」


3人に囲まれ、死角から攻撃してくる3人。


頭に血が上っていることもあり、もっと単純に攻めてくると思ったが……


「ブラフかよ。案外冷静だな、おい。」


「……殺す。」


全然冷静じゃねぇ……。


でも、俺の手札は近接だけじゃねぇぞ?


装填セット亡失態バーナム】――発動


俺の後ろにいる直剣の男に、亡失態を当てる。


完全に油断していたらしく、頭に直撃。戦闘不能だ。


「はぁっ!?」


「なんだっ!?」


目を見開く二人の内、槍の男に風球ウィンドボールを放ち、牽制する。


直撃とは行かなかったが、体制を崩すことが出来た。


その隙に、双剣の男に肉薄し刀を振るう。驚愕のせいか、反応が鈍く避けきることが出来ずに軽く腹を切り裂く。


「ぐぅっ……!」


呻いて動きが止まったところに追撃、頭に一撃を加え、意識を飛ばす。


ドサッ


「ふぅ、後はあんただけだな。」


相手を威圧するように、できるだけ自分を大きく見せるように振る舞う。


「どうする? 向こうもすぐ決着が着くだろうし、今なら痛い目見なくて済むんじゃない?」


問い掛けるも、男は諦める素振りを見せない。


「この程度で諦めるわけがないだろう。せっかくの生贄だ。あの方に捧げるためなら、なんでもやるさ。」


槍を握り、戦意たっぷりの瞳でこちらを睨めつける。


「じゃあ、ちょっと痛いけど我慢しろよ?」


「こっちは終わったよ。」


俺たちが走り出す直前に、シュエルがそう言って近づいてきた。


「おお、こっちもあと一人だ。」


俺の後ろに、シュエルとルナリヤが並ぶ。


「さぁ、3対1だ。これで、勝ちの目は無くなったな?」


そう笑いかけると、槍の男は笑い……


「ああ……そっちがな。」


そう言って、魔力を高め始めた。


「そりゃどういう……。」


問いかける俺に、狂気を感じる笑みを浮かべ、答える男。


「俺の勝ちだってことだよ、クソ道化ピエロ。」


「あ?」


呆ける俺を他所に、魔力は高まり、床が光り出す。


「――やべえっ!」


咄嗟に身体強化を発動し、シュエルとルナリヤを抱え廃ビルから飛び下りる。


同時に――


ドオォォン!!!


俺たちがいた場所が、爆発した。


「あっぶねェ。ギリギリだっ……あれ、ここ何階だっけ?」


曖昧な記憶を頼るなら、5階以上ではあると思うんだよなぁ。


「はっ!?ちょっ、大丈夫なの!?」


慌てるシュエル。


「ここで死んだら祟ってやりますからねっ!?」


叫ぶルナリヤ。


「AHAHAHAHAHA!!!!!!」


笑う俺。


「ちょっとぉっ!? 」


やべぇやべぇやべぇやべぇ!!


いやあん時はあれが最善だと思ったんだよ。反射で飛び降りたこと以外はつまりこれは俺が悪い訳ではなくてやっぱり爆発起こしたあいつが悪いそうだ間違いないおれはわるくない


「目がイッちゃってるんですけどこの人!!ほんとに大丈夫なんでしょうねぇ!?」


「ダイジョウブダイジョウブ、ミンナブジダヨー。」


「全然大丈夫じゃない!?」


そんな漫才を繰り広げていると――


「よっと。」


何かに、3人とも受け止められた。


「流石だな、壱成。全部一人でやってのけた。私の出る幕も無かったからな、これはご褒美だ。」


そう言って微笑む、俺の師匠オリヴィアがいた。


「師匠ぉぉぉっ!!あんたが最高っ!愛してるッッ!!」

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