第20話 善意とお節介は押し付けるもの


「……そうか。」


オリヴィアは、そう言ったきり黙ってしまった。


話が一段落し、オリヴィアは、煙草をふかしつつ、遠い目をしていた。


今は休憩時間だと判断して、彩晴に念話をかける。


『彩晴。今、いいか?』


『なんじゃ、主よ。』


そう言いながら、直ぐに返してくる彩晴。まぁ、今も俺の体に張り付いているから当然だが……。


『そうだな、明日から子機の配置を、繁華街に多めにしておいてくれ。出来れば路地裏とかの、人が少ないとこ。』


『構わんが、なんでじゃ? 』


『んー、お姫様は庶民の世界が気になるもんだからな。』


『……シュエルじゃな?』


『おう、もう来日してるだろうし、一応な。』


もうそろそろ、あのイベントが発生する時期だ。


過去回想で少し触れられた程度のものだが、この事件のせいで、は、トラウマを持つようになる。


最善は、事件を未然に防ぐこと。次点で、途中介入による制圧。


何方にせよ、彼女にトラウマが発症しないようにするってこと。


あの事件は、エルフの姫……つまりメインヒロインの一人、シュエル・ハハーレク・ノル・ラナメルの誘拐の計画。


魔人の眷属による、シュエルの誘拐計画とは、シュエルが少数でいるところを狙い、奇襲。


護衛に麻痺毒を食らわせ、護衛も一緒に誘拐するという本来なら成功するはずのないもの。


しかし、シュエルの我儘により、護衛はシュエルの親友一人になり、その隙を突く形で、成功してしまう。


彼女のトラウマの原因は、その親友が目の前で嬲られる様を見せつけられ、自身も襲われる寸前にまで追い詰められることに起因する。


つまり、俺の目的はこの計画を失敗に終わらせること。


だけど、俺一人じゃ成功率が低い。


これを成功させるには、一手、どうしてもしなければならないことがあるのだが、そこは結構楽に考えている。


というのも、その一手の成功率がかなり高いことを知っているからだ。


そんな事を考えているうちに、オリヴィアは戻ってくる。


「よし、壱成。ちょっと色々考えたんだが……」


そう言ってかなり溜めた後、悪魔オリヴィアは……笑顔で地獄を見せてきた。


「鍛錬、もっと厳しくしよ……」


「サラバだっ!」


いい切る前に、逃げる俺。


「逃がすかぁっ!」


一瞬で俺に追いつく鬼畜外道オリヴィア


「巫山戯んな、今でさえ死にかけなんだぞ!?これ以上とか絶対死ぬじゃねぇか!!」


「HAHAHA、シナナイシナナイ。チョツトイタクナルダケダヨ。」


……逃げ切ることは出来なかったとだけ書いておこうと思う。




そんな日々が続き、ようやく《亡失態バーナム》を実用レベルに持っていけそうになった頃。


自分の部屋で寛いでいると、


『主、繁華街でシュエルを発見した。』


彩晴から、そんな報告を受けた。


『思ったより早かったな。』


回想シーン出でるとはいえ、正確に日時までは分からなかった。


だから、彩晴に探らせていたのだが、ようやく見つかったらしい。


『状況は?』


『護衛が一人、今人気の少ない方へ歩いていっている。』


今日が計画の日か?


……動くか。


『彩晴はそのままシュエルを監視。俺は、ちょっと助っ人を呼んでくるわ。』


そう言うと、彩晴は意識を子機の方に動かし、俺は準備をして家を出た。


身体強化を発動し、助っ人が居そうな場所を回る。


10分ほど経った時、彩晴からシュエル誘拐の連絡があった。


「急がねぇと。」


それからもう少し経って、お目当ての人物が見つかった。


俺はに近づき、こう囁いた。


「オリヴィア、ヒーローごっこしない?」




オリヴィアを仲間に加え、繁華街に走る。


「おい壱成。師匠に説明は無いのか?」


身体強化を発動した俺に、軽々と追想してくる化物オリヴィア


「説明も何も、さっき言ったことが全部ですよ?」


「さっき言ったって、ヒーローごっことしか聞いてないんだが?」


「それで着いてくるあんたも大概だな。……エルフの姫、シュエル・ハハーレク・ノル・ラナメルが誘拐されるた。」


そう言うと、オリヴィアは顔色を変えた。


「……なに?なんでお前がそれを知っている?」


「俺は俺の情報網を持っている。気づけたのは、それのおかげ。んで、誘拐したのは恐らく魔人の眷属。エルフの姫なら、いい生贄になるだろうしな。」


オリヴィアは少し考える素振りを見せ、


「……スライムか。いつもお前の体に着いている。」


そう、言った。


「……気づいてたのかよ。」


「あれに気づかないようでは、【蓋世】は名乗れんさ。」


「あー、出来れば隠しといてもらえれば助かる。それと……協力してくれるんだよな?」


尋ねると、オリヴィアは頷き、こちらを見る。


「誰にも言わないでおこう。その変わり、私のことを師匠と呼ぶこと。」


……変なとこに拘るんだな。


「わかったよ、師匠。これでいい?」


「ああ。それと、誘拐の件だが、勿論協力する。」


「助かるよ。」


これで、万に一つも失敗はなくなった。後は、作戦を詰めていくだけだ。


「最初は俺だけで行く。出来れば、彼女にも戦わせたい。これでトラウマを発症なんてことにはしたくないからな。師匠が行けば、直ぐに終わっちまうから、俺らだけで切り抜けれねぇと判断したら、入ってきてくれ。」


「分かった。お前の考えに、乗ってやる。」


こうして、俺たち二人はエルフの姫君が誘拐された建物に向かっていった。

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