第19話 掲げる理想像は、己を取り巻く環境により変化する
オリヴィアから、《
「壱成。少し聞きたいことがあるんだが……。」
無銘の刀を振りながら、聞いてくるオリヴィア。
「なん、うぉぉっ!あっぶねぇ!死ぬ死ぬ死ぬっ!」
質問をしながらも攻撃の手を緩めないオリヴィアに、答えることが出来ずに、避け続ける俺。
振り下ろしを横に転がり避け、横薙ぎをそのまま転がって避けて立ち上がる。
直ぐに、突きが飛んで来るので刀でそらそうとするが、
「はあっ!?」
直前で曲がり、足を斬りつけてくる。咄嗟に後ろに飛びのき、何とか避けるも、追撃が止まらない。
「しつもんっ……するならっ……うおっ!……もうちょいっ……ゆるめろよっ……!?」
そんな事を言いながら避け続ける。
袈裟懸けに刀を合わせ、後ろに飛び威力を減衰させ……ようとして、威力が強すぎて失敗。後ろに転がり、その勢いで立つ……と目の前に剣の切っ先。
「のわぁっ!!」
首を避けに倒し、突きを避け、刀を振り回し振り払う。
「いや、ちょっと気になっちまったからよ。」
そんな事を宣いながら、突っ込んでくるオリヴィア。
そこに、地面に転がった時に掴んだ土を投げつける。
目を閉じたオリヴィアに、
「私に奇襲は通じんよ。」
そう言って、目を瞑ったまま、風球を刀で斬り裂き、勢いを殺さず後ろに回った俺に振り抜く。
「知ってる。だから……」
振り抜かれた刀を潜り込んで躱し、刀を振りかぶると同時に……
「挟み撃ちだ。」
オリヴィアの後ろに風球が迫る。
風球が当たるタイミングで、俺も刀を振るい完全同時タイミングで攻撃する。
それを……
「良い手だ。」
そう呟いたオリヴィアは、俺の刀を片手で持った刀で受け止め、もう片方の手に魔力を纏わせて風球を逸らして見せた。
「うっそだろ、おい……っ!?」
驚愕し、動きが止まった俺の足を払い倒れさせ、顎先に刀を突きつけるオリヴィア。
「惜しかったな、壱成。」
「どこが惜しかったんだよ。終始余裕だったろ、てめえ。
そう、俺の相手をしているオリヴィアは、媒体器を一切使っていない。
純粋な技術のみで、なんでもありの俺を終始圧倒して見せた。
「いや、実際良かったぞ?特に、風球と斬撃での挟み撃ち。あれ、風球の目眩しの時に作ったやつだろ。発想が良い、強くなっても使える手だよ。」
……オリヴィアにやった挟撃、実際には大したことはしていない。
まず、土と風球による目くらましをした後、もう一つ風球を作っておく。
その後に、俺が後ろに回り込むことで意識をコチラに持っていかせ、操作の
やった事と言えばこれだけだ。
もっと言えば、
「《亡失態》を使えればもっと良かったけど、あれはまだ実用レベルにまで持っていけてねぇからな。」
《亡失態》であれば、その不可視性は風球を超えるためこの不意打ちには最適だった。
しかし、俺の熟練度が足りないため、今回の作戦では使えなかったのだ。
「まだまだ、強くなる余地は残っているということだ。良かったじゃねぇか。」
そう言ってオリヴィアは笑いかける。
「そりゃ、そうだけどさ。」
そうは言われても、現時点での実力に不満は残るもんで、自分が強くなれているのかにさえ、疑問を持ち始める。
「……壱成、聞きたいことがあんだけどよ。」
神妙な面持ちで、そう切り出すオリヴィア。
「なんだ?」
「お前は、なんで強くなりたいんだ?別になんもねぇならいいんだけどよ、お前の強さへの執着は、なんつーか、普通じゃねぇ。」
なぜ強くなりたいか、ね。
あまり人に話すような事じゃないんだけど、まぁ、
「……どうしても、やりたいことがあるんだ。どうしても、守りたい
最初は、死ぬのが嫌だったから、怖かったから強さを求めた。
避けられるか分からないイベントで、死んでしまわないように。何かの間違いで、死が迫ってきた時に、それを回避できるように。
だけど、自分が『楽学』の世界に居るんだって意識すればするほど、あれだけハマったゲームの中で本物のヒロイン達に会えるんだって思った時、彼女達を死なせたくないって心の底から思った。
主人公がハーレムルートにさえ入れば、殆どのヒロインは生き残れる。でも、それ以外のルートだと、死んでしまうヒロインが数多くいるんだ。
そんな結末を知っていて、彼女たちが死ぬことを分かっていて、見て見ぬふりなんか……俺には出来ない。
だから、彼女達を守れるように、死の運命から逃す事ができるようになりたいと、そう思った。
「どんな相手にも負けることがないような強さが、どんな運命もねじ曲げられるような力が、俺は欲しいんだ。」
ハーレムルートであれ、死ぬヒロインはいる。
だから、俺がやるべきは、主人公をハーレムルートにぶち込み、そのルートで死に至るヒロインを救うこと。
そのための力を、今のうちから手にしておきたい。ヒロインが死ぬ、3年の後半までに。
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