第18話 天才は才能だけで名乗れるほど、甘く無い
「それで、もっといいものって?」
俺は、オリヴィアに問う。
「そうだな、例えば、こんなのはどうだ?」
そう言って、オリヴィアは座っていたベンチから立ち上がり、公園の端に生えている木に向かって手を掲げる。
「牽制に必要なのは、速度だ。威力は必要最低限でいい。その変わり、発動速度や相手に達するまでの速度を上げる必要がある。しかし、速度をあげようとすればイメージはより何回になり、魔力の消費は増加する。」
「なら、どうすればいい?」
「逸るなよ、壱成。そもそも、牽制とは、如何に相手に厄介だと認識させるかだ。言ってしまえば、速度も必要ではない。相手の足を止めるに足る価値を、作ってやればいい。」
オリヴィアの言うことも最もだ。だが、その方法が思い浮かばない。
そもそも、厄介さを演出するのが難しいと思ったからこそ、俺は速度をあげる方向に思考を傾けていた。
「さっきお前は言ったな。フレームが足りないと。だから、普通の弓を教えて貰いたかったんだろ?」
オリヴィアは、こちらの事などお構い無しに話を進めていく。
「だけど、それじゃあいつまでたっても二流のままだ。一流ってのは、こういうことが出来るやつのことを言う。」
そう言ってオリヴィアは、
そして、その矢を撃ち……矢が消えた。
数瞬後――ズドンッ、と音が響き、端に生えていた木に穴が空いた。
「《
「……は?」
惚ける俺に向かって、オリヴィアは尚も続ける。
「壱成。お前は、二流のままでいいのか?」
そう問い掛けられても、俺は今起こった現象の解析に、必死になってオリヴィアに答えることもしなかった。
「木に穴……矢は確かに消えた……迷彩?……違う……なら、どうして?……」
ぶつぶつ
「おい? 壱成?」
オリヴィアの声を無視し、さらに考察を続ける。
「……前後関係を踏まえて、気に穴を開けたのは矢……なら、その消失の理由は?……魔法のキャンセル?……矢は確実に木に当たっている……まさか……。」
俺は徐に、気に向かって手を掲げる。
「何をして……!?」
オリヴィアの声には耳を傾けず、検証を始める。
「……矢が消えた理由は、恐らくは生成のキャンセル。……なら当たった理由は?生成のキャンセルの後、もう一度生成した……これだ。」
「おいおい、うそだろ……!?こいつ、どこまで……!?」
媒体器に魔力を流し、掲げた手の先に矢を……生成できない。イメージが足りない。
「……まずは、球でいい。」
手の先に、無属性の球体を作り出し、射出。
その後、生成をキャンセルし、当たる直前に、もう一度生成する。
……すると、ズドンッ。
また、オリヴィアが撃った時と同じ音が鳴った。
「……ふ、ふふふ、あぁ、最高だ。あの時の判断は間違いじゃなかった。どこまでも……どこまでも強くなる。最高だな……私の弟子は……!」
何やら興奮しているオリヴィアに話しかける。
「……理屈はわかった。射出の途中で生成をキャンセルする事で、魔法としての実態が消え魔力の塊がそのまますすむ。その魔力を使って対象に当たる直前にもう一度生成。そうすれば、相手にとっては不可視の攻撃だ。牽制には十分。」
「……あの一瞬でどこまで把握した?末恐ろしいな。」
「……まだ終わっちゃいねぇよ。……恐らくだが、この魔法、魔力感知ができない相手には必中効果を与えられる。」
「……ほう?」
続けろ、とばかりに彼女は、顎をしゃくって促してくる。
「魔力を事前に相手に飛ばして、体のどこかまで通じる、言わば『魔力線』を作る。そうすれば、その道を通った魔法は相手にまで行き着く。生成前の魔力と生成後の魔力は別物と言っていい。魔法の本質は魔力の変換だ。そして、性質の違う魔力は反発し合う。そうすると、俺の魔力で作った道を魔法化して変質した魔力が通り再生成する事で魔法が当たる。」
彼女は、口角を釣り上げる。
「あぁ、やっぱ最高だよお前は。そこまでの考察をあの一瞬で作りやがった。どうだ?お前の師匠はすごいだろ?」
「あぁ、やっぱりあんたはすげぇよ。伊達に『闘神』なんて呼ばれてねぇ。俺の要望を叶えた上で、俺に最適なもんを考えてくれた。それも、あの一瞬でだ。ただの凡俗なら、俺が言った通りに、弓や銃を教えているところだ。あんたは、東青 壱成なんかについていい師匠じゃねぇよ。」
「は?え、何。弟子が普通に褒めてくる。普段はあんなに貶してくんのに。……怖っ。」
原作で、この魔法の存在を知っていたのにも関わらず、弓という結論を出した俺とは違い、彼女は俺にとっての最適解を、導き出して見せた。
それも恐らくは、俺が相談する前からこれを伝える気だったんだろう。
いきなり、あの魔法を撃ったんだ。準備はしていたんだろうよ。
俺が相談したから教えてくれたのか、元から教えてくれるつもりだったのかは分からねぇが、つくづく、格の違いを思い知らされる。
彼女の強さは、きっと才能や鍛錬の結果等ではない。それらは、彼女の強さの根幹ではなく、末端なのだ。
きっと、こういった戦闘での最適解を選び続けることができるからこそ、彼女はあんなにも強いのだろう。
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