第16話 切り札は、先に切った方が負ける


威勢よく啖呵を切ったは良いものの、依然状況は悪い。


上段に構えた侍従が、斬りかかって来る。


後ろにスウェーで避けて、


装填セット【風刀】――発動


振り払うっ!


ガキっ!


別の侍従がそれを阻むが、持続させている身体強化の差で二人纏めて吹き飛ばす。


更に横から二人。


横薙ぎに刀を合わせ、振り下ろしを横にころがって避ける。


後ろから来た侍従を、受け流し、後ろにいる二人の方へ飛ばす。


3人がぶつかり、もたついたところに


装填セット【風球】――発動


風球を撃ち、更に、数人が固まっているところを目がけ、風球を乱射。


相手の足が止まり、戦況が硬直する。


(まずいな。今ので魔力がほぼ空だ。残ってんのは……3人って所か。)


襲い来る3人。


最初に届いた突きを、剣の腹を殴って逸らし、続けて飛んできた横薙ぎに合わせる。


最後の、振り上げを後ろに躱し、上がり切ったとどうじに踏み込み腹に一撃。


かち合ってまごついた二人に蹴りを放ち、1人は避けきれず被弾。


最後の一撃を決めようと踏み込――


バンッ!


体に衝撃。


俺は吹き飛ばされ、床を転がる。


ガッシャーンッ!


椅子や机にぶつかり、漸く勢いが止まる。


「壱成。あんたにしてはやった方だが、相手が悪かったなあ。」


勝ち誇るババアが、俺を見下ろす。


「侍従達を倒したのは良かったが、意識がそこに集中しすぎだ。」


俺を倒せて嬉しいのだろう。その口は、先程よりも軽く回り出した。


「使うつもりはなかったが、もしものために持ってきていたのさ。切り札というやつさね。」


喜悦を隠そうともしない、その声音に、つい声が漏れる。


「ふっ、はははっ。げほっ、げほっ。」


それが、お気に召さなかったのか。ババアは不快そうにこちらを見る。


「何がおかしい。」


何がおかしい、か。


そりゃあ、


「知ってるか、ババア。げほっ。切り札は、はぁ、はぁ、先に切った方が負けるんだぜ?」


「あ?どういう……?」


そこに、俺の切り札達が登場する。


「私の弟子に、何をしている。」


「……オリヴィア・ラートゲ・ヌバ・テュケオーベ……!?闘神が、何故……!?」


「東青家のテーブルマナーでは、媒体器の保持を義務付けているのか?」


「竜人の巫女……エリカ・ヴァルヒ・ルチル・トバルヌロまで……!?」


「切り札を切るには、タイミングが早かったみたいだな?ババア。」


「壱成、貴様っ!?」


「……俺の勝ちだな?」


峰華に体を支えて貰いながらも、ババアの前に立ち見下ろしてやる。


「その老い先短い命で、今日の教訓を行かせればいいな?」


そう言いきって、ババアから見えないところまで移動し……倒れる。


「お兄様ッ!?」


慌てて駆け寄ってくる峰華が見えたのを最後に、俺は意識を失った。





「グッ、おお。」


体に痛みが走り、呻きながら起きる。


「お兄様?」


ちょうど、峰華がドアを開け、入ってくる。


「あー、悪いな。心配かけた……?」


取り敢えず、思いついた言葉を紡ぐ。


……いや仕方ないじゃん! だって俺ら仲良いわけじゃないんだもん。いや、俺は大好きだけど向こうは嫌ってるわけじゃん!?なんて言うのがいいかなんてわからねぇよ!


そんなことを考えていると、峰華が近寄ってくる。


(やばいやばい、絶対なんかミスったって!?ど、どうすればいい!?)


「あ、あの、峰華さん?いや、申し訳ないというかなんというか……」


なんてしどろもどろになっていると、いきなり、峰華に抱きつかれた。


「……へぁっ?」


えっ?……どういうこと?なに?


…………死ねばいいんですか?(乱心)


違う違う、落ち着け、とにかく落ち着くんだ、俺。あれだ、ラマーズ呼吸法を思い出せ!


……むっ☆りっ☆!


いや違う。違うって、まずは心を落ち着かせろ。昔友人がやっていた片〇はいりのモノマネを思い出せっ!!


……落ち着くかぁっ!!!


「……良かった、本当に良かった……。お兄様が、死んじゃうかもって……」


「…………。大丈夫だ、俺は死なねぇよ。妹を残して、死んだりはしない。」


できるだけゆっくりと、安心できるように、頭を撫でながら囁く。


「……少し、このままでいさせてください。」


「……ああ。」


そうして、数分がたった頃、ドアが開き


「あー! 峰華が壱成に抱きついているぞ!」


「なに!?」


エリカとオリヴィアが入ってくる。


「おい、愛弟子。師匠にはなにかないのか。私の事を利用したくせに何も無いのか。」


「そうだな、私達を勝手に切り札にしたのだから、なにかあってもいいのではないか?」


……やかましい。なんでこんなにうるさいの?俺今起きたばっかなんだけど……。


「あー、それはについては悪いと思ってる。すまん。」


とは言え、悪いのは俺なので謝っておく。


「むっ、そこまで真剣に謝られると、責め辛いのだが……。」


ニヤリ


「アーッ!今悪い顔したぞ。私は見ていたからな!」


「なんのことですか、師匠?」


俺は爽やかな笑顔で返す。


「うるさいですよ?お兄様は病み上がりです。お身体に触ったらどうするんですか?」


底冷えのする声が、聞こえてくる。


「いや、私達も壱成の事が心配でだなあ……。」


そんなことを言うオリヴィアに、峰華はさらに詰め寄る。


「今、そんなこと聞いていませんよ?……少し、お話しましょうか。」


ドナドナされていく師匠を見ながら、エリカと話す。


「俺が気絶してからどれぐらい経ちました?」


「三日程度だな。かなり心配したぞ?」


三日も眠っていたのか。心配を掛けるわけだ。


「いやぁ、申し訳ない。」


「いや、それより体はいいのか?」


眉根を寄せて、心配そうにこちらを覗き込んでくるエリカ。


「ええ、もう平気です。ありがとうございます。」


すると、何やら不満そうにこちらを眺めてくる。


「どうしました?」


「……なんで、私には敬語なんだ?」


ん?


「ダメですか?」


「いや、そうじゃないんだが。師匠にも峰華にも、君はタメ口だろ?なぜ私だけ敬語なんだ?」


あー、なるほど。そういう事か。


「いえ、基本年上には敬語なんですけど、あれに敬語使う気にはなれなくて……。」


そう言うと、何かを悟ったかのような表情で、


「……確かにな。」


そう呟く彼女を見て、やはり苦労しているんだなと、少し心配になった。


「私にも、タメ口で話してくれないか?敬称も無しでいい。一人だけ敬語というのも、仲間外れにされているようで、少し……嫌だ。」


む、確かに、周りに俺が敬語使っている人はいないしな……。


「分かり……分かった。これでいいか?」


すると、少し目を輝かかしたエリカは勢いよく頷いた。


「あぁ、それがいい。」


何がいいんでしょうね?


……あっ、そうだ。この人なら、頼んでも良さそうだな。


「エリカ、少しいいか?」


不思議そうな顔を押した彼女がこちらに振り向く。


「なんだ?」


「これからも、峰華と仲良くしてやってください。あいつは、余り友達がいないんで……。」


目を丸くしたあと、目一杯の笑顔で答えるエリカ。


「勿論だ。」


彼女なら、峰華も仲良くなれるだろうと思うと、少し、安心した。

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