第15話 身の丈に合わない権力を持った人間ほど醜いものは無い


同期で送られてきた映像が取られた場所に、俺は辿り着いた。


「東青家がバックについてる店ってのがまた、小物感を煽るね。」


その店に入ろうとした俺を、店員が遮る。


「お客様。只今当店は、貸切となっております。申し訳ありませんが、此処をご利用頂くことはできません。」


俺を追い返そうとする店員に、媒体器デバイスを向けながら、質問をする。


「この店に、今東青 峰華がいるな? 」


「お客様の個人情報を漏らすことはできません。」


「……はぁ。お前は何も見ていないし知らない。俺には気づかず、いつの間にか気絶していた。いいな?」


「は?」


店員が答える間もなく、頭部を殴打し気絶させ、俺は店に入っていく。


奥まった席で、ヤクザじみた格好をしたババア共に囲まれ、涙を流す峰華を見つける。


………………。


俺は、すぐにその席に近づき、音を立てて座り込む。


「お前は、壱成!? どうしてここにいる!?」


「おにい……さま……。」


足をテーブルの上に乗せ、できるだけ態度の悪い男を演じる。


「よぉ。女の子囲んで、随分楽しそうじゃねぇの?……俺も混ぜろよ。」


対面に座るババアを見下し、片方の口角を上げる。


驚愕の表情から復帰し、こちらを睨みつけてくる。


「どうやら、頭ん中のお花畑化が進んだようだね?こんな場所に一人で来るとは……。」


「お蔭さまでな。どうやら最近庭師が入ったみたいでね。一面スノードロップ死ねだよ。後で花束にして送ってやる。」


「ありがとうよ。クロユリ呪いの束で返してやるさね。」


皮肉の応酬を聞いていた峰華が、意を決した様な表情で聞いてくる。


「お、お兄様。何故、ここに?」


涙の跡が着いた顔で、少し震えながらも。聞いてくる。


「……ちょいと用事があったもんでな。」


俺はそう言ってはぐらかし、前のババアを睨みながら、峰華に尋ねる。


「峰華。ここで、何をしていた?……いや、何をなっていた?」


その質問に、峰華は言葉を詰まらせる。


「そ、それは……」


そこに、対面のババアが割り込んでくる。


「交渉だよ。これから先の話をしていただけさ。」


「おいババア、さては国語苦手か? 動けないように縛った上で、複数の銃口を突きつけ自分の要求を押し付けるのは、脅迫っつうんだ。今日も、また一つ賢くなれたな?」


婆さんを挑発しながら、峰華を見る。


「お前の口から聞きたい。安心しろ。この場で、一番権力を持ってんのは峰華だ。だから、婆さんもお前の言質を取ろうとしたんだ。ここで何を言おうと、峰華が気にすることは何もない。」


「で、ですが……」


峰華の言葉を遮り、またもやババアが口を出してくる。


「峰華! それを言えば終わるぞ!?わかってんのか!?」


「もうちょっとお綺麗な言葉を使えよ。東青の家族揃っての会食だぜ?……おい、やめときな。いくら東青家がケツ持ちの店でも、殺しは漏れる。ここで俺を殺れば、東青家は終わるぞ?」


「なっ!? 気配を!?」


んな訳あるか、俺は達人じゃねぇよ。


たまたまグラスに写ってたから、バッタリ効かせただけだ。


そんなことを態々言ってやるわけもなく、強者の雰囲気を醸し出し、出来るだけ上から物を言う。


「俺はまだ廃嫡もされてねぇから、継承権も持ってんだ。俺を殺れば、即お家騒動になる。それは、てめぇらも望んでねぇだろ。分かったら、黙ってお座りしてな。」


顔を顰めながらも、媒体器デバイスを収める侍従達。


「峰華、お前の口から聞きたい。ここで何があった?」


俺の予想が正しければ、恐らくは……


「殺せ! ここで出来損ないを独り殺ったところで、東青家なら握りつぶせる!さっさと殺れ!」


マズっ!追い詰めすぎたか!?


俺達を、風の結界と土の目潰しが襲ってくる。


(うっそだろ!?ここで全員やんのかよッ!?こっちは魔力残ってねーんだぞッ!?)


横にいた峰華を抱き寄せ、目潰しの範囲から逃れる。


放心している峰華を横に置き、媒体器を抜く。


装填せっと【身体強化】――発動。


俺が身体強化を発動させたと同時に、侍従達が襲ってくる。


振り下ろされる剣を、目で捉え――避ける。


(あれ?……いつもより、楽?いや、なんだ?)


続けて、襲ってくる剣戟を、俺はまたしても避ける。


(あぁ、なるほど。魔力の無駄が、少ないんだ。)


今までの俺は、魔力の調節、と言うよりは配分を間違えていた。


走る時には足に、剣を振るう時には腕に、魔力を集めていた。それが、体の動きのバランスを乱し、結果的に強化率が落ちていたのだ。


(師匠の言うデタラメって、こういうことか。なら、急にできたのは……)


あの訓練だろう。魔力が少ない状態での運用と、全身に馴染ませる必要がある魔力感知。


あれのおかげで、今、戦えている。


(あの一つの訓練に、どれだけの意味が詰まっているんだろうか。……頂きは、遠いな。)


再度、目標の高さを認識し、意識を切替える。


(相手は侍従だが、俺よりは格上。その上、魔力の残量は少なく、数もいる……と。)


「絶望的だなぁ、おい。やるんだけどさぁ……。」


「やああああっ!」


斬りかかってきた侍従を受け流し、後方に弾き飛ばす。


「来な。躾がなってねぇ駄犬は、俺が調教してやるよ。」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る