第14話 嫌な予感は、間違いなく当たるのがフィクション


「壱成、君には体内魔力の感知をできるようになってもらう。」


鍛錬が終わり、息も絶え絶えな俺に、オリヴィアは言う。


「体内魔力の感知が出来れば、魔法の発動タイミングや不可視の魔法が見えるようになる。更に、どんな相手でも感知できるようになるから、お前に奇襲できるやつはいなくなる。」


煙草をふかしながら、オリヴィアは魔力感知のメリットを上げて行く。


「……体外魔力の感知でも難しいのに、体内とか無理じゃね?」


本来、魔力を感じ取ることの難易度はかなり高く、体外魔力や空気中に存在する魔力でさえ、感知するのは至難の業だったはずだ。


更に、体内の魔力は肉体という壁に阻まれており、感知する側からしたら、常にジャミングがかかっているような状態になる。


「肉体の上から、魔力感知とか俺の技量じゃ無理じゃない?」



オリヴィアは、煙を吐き出し、こちらを見つめる。


「不可能じゃあない。壱成のセンスさえあればな。」


そう言い切るオリヴィアに、少しの違和感を覚えた俺は更に問う。


「俺のセンスって、何?」


「……さっき、壱成の鍛錬法について聞いたよな?」


「あ? あぁ、確かに聞かれたが。」


質問の意図が読めず、首を傾げる。


「そもそも、君の鍛錬法では、強くなれない。あんなやり方、今時、子供でもやらないよ。」


「は? でも、俺は確かに強くなってるぞ? 日に日に、走る距離が伸びてる。」


オリヴィアの言うことに納得がいかず、再度問いかける。


「だから、と言った。どういう訳か、君はあんなデタラメな方法で強くなれている。……なら、もっと効率的に鍛えることが出来れば、君は飛躍的に成長できるはずだ。」


デタラメって……、俺なりに考えてたんだけどなぁ。


やっぱ、タールが足りてねぇんだよ。煙草よこせ煙草。そしたらもうちょいマシになるはずだから。


ギャルゲで鍛え上げた、この脳をちゃんと使うから、切実に煙草をくれ!


……巫山戯んのはここまでにして、先程のオリヴィアの言葉を吟味する。


「……オリヴィアなら、もっと効率的に鍛えれんの?」


「あぁ、これでも世界トップクラスの魔術師だぞ?二言はない。……それと、師匠と呼べ。君は私の弟子だからな。」


「……分かった、師匠。俺、強くならねぇといけねぇんだ。だから、俺を鍛えてください。」


「任せなさい。お前のセンスなら、もっと高みを目指せる。それを、証明してやる。」




ザー


キュッ


シャワーを浴び、着替えを済ました俺は、彩晴に念話を送る。


『彩晴、一つ頼みたいことがある。』


そうすると、彩晴は、すぐに出てきた。


『なんだ、主よ。何をすればいい?』


『ありがとよ。峰華とエリカ、後できれば、師匠も。子機送っといてくんね?彼奴らの影に潜ませる感じで。師匠にはバレそう出し、無理はしなくていい。』


『了解じゃ。』


『助かるよ。峰華は、東青家の本亭にいるはずだ。誰にもバレるなよ?』


『フッ、誰に言うておる。そんなヘマを、私がするわけがないだろう?』


あらヤダ、イケメン。一生ついていくわ!


『頼りになるねぇ。……あ、そうだ。スマホ渡してたけど、あれ好きに使っていいぞ。』


最初に渡したスマホを気に入っているみたいだし、ご褒美にやろう。


俺はもう持ってるから、必要ないしな。


『本当か!? いやはや、主は太っ腹だな。』


『喜んでくれたみたいで良かったよ。』


彩晴との会話も終わり、師匠に出されている課題を熟していく。


「魔力を全身に広げて、体表ギリギリで押しとどめる。外の魔力との差を感じ取るように……。」


まずは、体外魔力の感知から始めるようで、その練習法を教えてもらった。


自分の魔力は、感じ取れているので、次のステップ。空気中の魔力を感じ取る為に、魔力の濃度差を利用して、つまり、自分の魔力と大気の魔力を近づけて感知する。


「おお、この状態なら感知できるな。次は……」


自分の魔力を戻し、先程感じた魔力を探る。


大気魔力を感じ取ることができたばかりで、感覚が鋭敏になり、それをニュートラルな状態に持っていく。


「難しい……けど、全く出来ないわけじゃねぇ。魔力を全身に広げ他すぐあとなら、感じ取れる。……この感覚を忘れないように。」


魔力感知の練習は、魔力を消費しないため、鍛錬の後でも続けることが出来る。




それを繰り返している時に、いきなり、彩晴から念話が入る。


『主よ、東青 峰華を本家の連中が囲んでおるぞ。』


『詳しく説明してくれ。』


逸る気持ちを抑え、彩晴に聞く。


『待ってくれ、今同期している。これは……、主にも今送る。』


彩晴から送られてくる映像を見て、全てを理解した俺は、媒体器デバイスを握り、走り出す。


『……彩晴。俺が今から言うことを、聞いてくれ。あまり、使いたい手では無いが、仕方ない。』


『了解じゃ。何をすればいい?』


『………………、できるか?』


下手をすれば、彩晴にも被害が及ぶ、危険な手だが、彩晴なら上手くやれるだろう。


その証拠に、


『任せろ。』


そう、頼もしい声が聞こえて来た。



今回のこれは、原作にはないシーンだ。


ただ語られていないだけなのか、本当に存在しないシーンなのかは分からないが、どちらにせよ、峰華に危険が迫っていることに間違いはない。


嫌な予感を感じつつ、媒体器に強く握り込み、魔力を全力で流し込み走った――。

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