第12話 弟子の八割は苦労人
「うぉぉぉぉっ!」
走る、走る、走る。
ペース配分などない、全力のダッシュ。
俺が生き残るための唯一の方法。それを成功させるために、俺は走って、いや逃走していた。
捕まれば死ぬ、本気の
俺が勝つための、最後のピース。それがなきゃ、勝つどころか、生きることすらできない。
「頼むから、ゲーム通りの行動とっててくれよ……っ!」
俺のこの作戦には、多分に運要素が散りばめられている。も〇みち兄さんの料理のオリーブオイルぐらい入ってる。あの人、オリーブオイルの事万能薬とか思ってそうだよね。いつかオリーブオイルだけで料理作りそう……。
そんな現実逃避をしながら、体があげる悲鳴を無視して走り続ける。
角を曲がり、相手の視界から外れたところでも刀身を生成。
オリヴィアが出てきた瞬間に振り下ろす。
「よっしゃ死ねぇぇぇぇッッ!」
本気の殺意を込めて、全力で振り下ろした刀を見たオリヴィアは目を見開き……笑った。
「やるねぇ。面白くなってきた。」
俺の全力は、軽々と受け止められ、更には俺の懐に入り込み拳を突き出してくる。
……チャーンスっ!
飛び出てきた拳に刀を合わせ、後ろに飛びつつオリヴィアから距離をとる。
その勢いを殺さずに反転し、即座に全力の身体強化で逃げに走る。
オリヴィアは目を丸くし、またもや笑った。
「攻撃のタイミングも良かったが、判断も早い。ほんと、面白いね。あそこまで逃げに徹せられたら……意地でも捕まえたくなっちゃうよ?」
ゾワッ
背筋を悪寒が走り抜ける。
後ろをちらりと見てみると、薄ら笑うかっこいい系の美人が見える。
なんか、変なスイッチ押しちゃった……?
いや、今はそれよりあいつを探せ!
あいつさえ見つければ、俺の勝ちだ。
どこだ? どこにいる?
この辺りにいるはずだ。頼む、いてくれ!
走りながら周囲に目を向け続ける。
すると、後ろから急激に近づく気配。
焦らず、タイミングを合わせ刀を振るう。
ガキンッ
俺がつくった刀身と、相手の
「これも防ぐか。……いい拾いもんしたかもな。」
何か言っているようだが、聞き取る余裕はない。
つーか、片手間のこいつ相手でも本気でやらねぇと一秒も持たねぇんだよっ!どうなってんだ公式チートめ!
「集中が乱れたな。他のこと考えてる余裕あるの?」
ボグッ
「ごはっ!」
油断していたつもりはなかった。
刀は防いでいたし、体の動きにも目をやっていた。
それでも……
「ははっ、全く見えなかった。反則だろ、そんなもん。」
恐らくは、俺の刀を逸らし、空いた胴に蹴りを放ったのだろう。
あいつから見たら、無防備だったのだろう。ガードをすることも無く1発貰ってしまった。
それにしても、ダメージがデカすぎるがな。
「動けねぇ……っ!」
腹に食らった一撃が重く、動くことすらままならない。このままでは、俺の死が確定してしまうだろう。
だが……
「はぁ、はぁ。げほっ、残念だったな。はぁ、はぁ。今回は、俺の勝ちだ。」
そう、俺の勝ちだ。オリヴィアは何を言ったのか分からないのだろう。
不思議そうな顔でこちらを見てくる。
「ん?君の負けだろう、どう見ても。ここから、勝ちの目なんて……」
「はぁ、はぁ、俺とアンタの二人だけでの勝負なら、げほっ、俺に勝ち目はなかった。だけど、あんたは1人じゃなかった。」
「何を言って……」
「あー! 師匠やっと見つけた!」
そう言って、一人の女の子が入ってくる。
頭に角を生やし、勝気な顔をした美少女。彼女の名前は、エリカ・ヴァルヒ・ルチル・トバルヌロ。メインヒロインの一角にして、オリヴィアの弟子である。
「……ふっ、あははははっ!なるほど、そういうことか。あぁ、今回は私の負けだ。完璧にしてやられたよ。」
そう笑いながら、負けを認める彼女に、俺もまた笑う。
「はぁ、もう、こんなことはないよう願っとくよ。」
「どこから、この作戦を思いついたのか、聞いてもいいか?」
彼女は親しげに、こちらに笑いかけ聞いてくる。
「最初っからだ。あんたから正攻法で逃げ切れるとは思えなかった。だから、負けないために、ここを目指しながら、いや、そこのエリカを目指して逃げた。」
あの公園で襲われた時、戦うという選択肢は俺にはなかった。負けるとわかっている勝負に乗るほど、俺は馬鹿ではない。あの時点で、逃げ切るための作戦を考えていた。
だが、そもそもの能力値の差から逃げ切るのは不可能と判断。俺が生き残るためには、出しであり常識人でもあるエリカのところに来るしかなかった。
……くそっ、無駄にヒロインと接点つくっちまった。死亡フラグがたったらどうしてくれんだよ。
「なぁ、説明しろよ。さっきから置いてけぼりなんだけど……。」
少し寂しそうな表情をのぞかせながら、エリカが聞いてくる。
「そこの阿呆に、いきなり切りかかられて、生き残るためにあんたを頼りにここまで逃げてきた。」
「……師匠?」
あっ、背後に竜が見える?かっこいいなぁ(現実逃避)
「この方が言っていることは本当ですか?いきなり、なんの罪もない一般人に斬りかかったと?」
「え?あっいや、その、だな。間違ってはいないのだが、これには訳があってだな……」
「言い訳はいりませんよ?」
見る人を凍りつかせるような笑顔をうかべ、彼女はオリヴィアに迫っていく。
「普段からおかしな行動ばかりとる人でしたけど、ここまでとは思いませんでしたよ?少し、お話しましょうか。」
初めて彼女をリアルで見た俺でも、怒気が見える。それほど、彼女は怒っているんだろう。
「ひいっ! おっおい、君! ちょっと助けてくれないかっ!」
ハナガキレイダナー(腐った目)
「さぁ、こっちに来ましょうね?」
「あ、いや、ちょ、ぎゃああああ!」
チョウチョモカワイイナー(諦観)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます