第11話 師匠キャラと書いて、理不尽と読む


スライムに、彩晴いろはと名前をつけてから数日。


毎日、5時から二時間のランニングと魔力操作を行い、媒体器デバイスを使った型の練習も怠らない。


少しずつ、能力値パラメータが伸びてきたこともあって、ランニングの距離は日に日に増していき、魔力操作の精密性も上がってきた。


刀身の生成も速くなってきているし、すこぶる順調と言っていい出来だ。


朝の鍛錬を終えた後は、シャワーを浴び汗を流す。


朝食を食べながら、コレからの鍛錬に思索を巡らせる。


「まだ始めてそこまで立ってねぇが、思ったより能力値が伸びねぇな。」


自分なりに考えた鍛錬法ではあるが、素人仕事であることは間違いなく、もっと効率的な鍛錬があるのではないかと考えるようになってたのだ。


俺は、一日足りとも無駄に出来ないような状況に陥っているのだ。それなのに、このままでいいのかと、自分に問いかけることが多くなった。


ツテがある訳でもなし、誰かに師事することは難しい。そんなことはわかっているが、それでもこの不安は日に日に大きくなっている。


「……ふぅ、ダメだな。動いてねぇと、思考がマイナスに固まっちまう。」


体を起き上がらせ、時計を確認する。


「まだ、7時過ぎか……。」


あまり早い時間から行動しても、いいことはないのだが……


「動かねぇと、ちょっとやばいしな。ダンジョンでも行くか。」


媒体器を持ち、導体メモリーを確認する。


「そろそろ、新しい導体を手に入れたい頃合だったし、丁度いいか。」


靴を履き、外へ出る。


『いいのか? 主よ。』


いきなり、彩晴が問いかけてくる。俺は、質問の意図が読めず、彩晴に聞き返す。


『いいって、何が?』


『いや、そろそろ彼奴らが外に出てくる頃合だからな。』


彼奴ら……とは、ダンジョンの攻略に来ているヒロイン達、「エリカ」と「オリヴィア」の事だろう。


『まぁ、近くに行くわけじゃねぇし、会っても態々絡んでこないでしょ。関わりは無いわけだし。』


まぁ、何らかの力が働いて、出会い頭に殺されるなんて事があるかもしれないが、そんなもんにビビってたら学園行けねぇもんな……。


『だから、まぁ大丈夫だ。』


『……主がいいのなら、いいんだが……。』


なにか思うところがあるのか、少し歯切れの悪い彩晴。


考えすぎだと思うんだけどなぁ……。


「うし、行くか。」


媒体器に身体強化を装填セットし、魔力を込め――発動。


走り出し、近くのダンジョンに向かう。


「この近くなら、「風の小迷宮」かな。風は便利だし、持っときたい。アイツらの攻略するダンジョンとも遠いしな。」


行き先を決めた俺は、魔力をさらに込め、身体強化の強度をあげる。


スピードを上げれば、「風の小迷宮」にまですぐに着いた。




「風の小迷宮」……ここは、風属性の魔物がメインになっていて、落とす導体も風関連のものになる。


風属性のいい所は、なんと言ってもその隠密性と汎用性の高さ。


風であるため、視覚には見え辛く、風を操るだけでなく音の遮断や拡声等様々な用途に使える。


難易度も低く、今の俺でも簡単に攻略できる。脳死でも、死ぬ事が無いのでいまの俺にはピッタリだ。




――「風の小迷宮」を攻略し始めて、2時間ほどがたった。


今は、9時半ぐらいだ。


「よし、思考の整理もついたし、1度戻るか。」


来た道を戻りつつ、今回の反省をする。


「そもそも、できないことを悩むべきじゃない。そんな無駄な時間俺にはねぇんだから。」


師匠になってくれそうな知り合いなどいないのだから、土台無理な話なのだ。そこを気にしても仕方がない。


「俺のやり方が非効率的でも、やり続けるしかないんだ。何も悩む必要はないだろ、アホか。」


意味の無い思考を繰り返していた、過去の自分を叱責する。


そうした反省していれば、直ぐに外に出てきた。


「とりあえず、公園で休憩しよ。ちょっと疲れた。」


公園に入り、水を飲んでベンチに座る。


姿勢を崩し、楽な体勢になって、頭を回す。


(これ以上の鍛錬は、完全にオーバーワークだしするべきじゃない。焦りはするが、さらに非効率な選択を摂る訳には行かないしな。

これからは、いままでの鍛錬を続けつつ、随時あたらしい方法をためしていこう。

東青家に行って、訓練を見るのもありだ。確か、東青家直属の部下たちはあそこで訓練していたはずだ。

見に行くなら、次いでに峰華の様子も確認したいな。今の時点で、東青家にどんな扱いを受けているのか把握しておきたい。彩晴に頼んでおくか。)


『彩晴、ちょっとたの――』


ゾクッ


なん、いや誰だ!


俺に殺気をぶつけてんのか? いや、それよりここはもう間合いだ。


圧倒的強者の必殺の領域に、今俺はいる。


「あー、誰かは知らんが話あ」


勘に従って、右前方に転がり込む。


ザンっ


数瞬前まで、俺の頭があった場所を高速の刀が振り切られた。


「おおっ、今のを避けんのか。ますます面白いな、お前。」


やばいやばいやばいやばい、本気で死ぬぞ!?


後ろを見ることもせず、媒体器に魔力を流し、身体強化をして全力で走る。


「ふっざけんな! まだ、殺されるようなことなんもしてねぇだろ!?」


悪態をつきながらも、足を止めることをしない。


「なんで、こんなとこにオリヴィアがいんだよ!? 攻略するダンジョンはこっちじゃねぇだろ!?」


そう、俺を襲ってきた相手。それは、この世界で十指に入る実力者、【蓋世】の称号をもつ魔術師の1人。


「闘神」の二つ名を持つ、「楽学」のサブヒロインであり、メインヒロインの一人、エリカの師匠キャラ。


オリヴィア・ラートゲ・ヌバ・テュケオーベその人である。


「やばいなんてもんじゃねぇぞ!」


今の俺が真っ向から彼女と対峙すれば、氏は免れない。一秒持てばいい方だろう。


それほど実力に開きがある。


そもそもの能力値の差が酷すぎるし、何より、あいつは技術もやばい。達人なんて言葉が児戯にも思えるほどの、絶技の持ち主だ。


勝てる要素が何もねぇ……っ!


逃げ切るには……いや、生き残るには、どうすればいい!?



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