第10話 魔物に名前をつければ、美少女に化けるのが最近の主流


朝、4時半に起床。


支度をして、家を出る。


媒体器デバイスに、身体強化を装填セットして魔力を流し――発動。


いつものコースを走りながら、余った魔力を体の中で操作する。体の動きに合わせ、外に出ないように血液を循環させるように魔力を動かす。


魔法の発動にはクリティカルと呼ばれる現象が存在し、それは狙って出すことが出来るで、達人レベルになると必須になると言われている。


魔法発動において、魔力を流すタイミンクは2回。


「生成」と「変化」。この二つの工程の時に魔力を流すことで魔法が発動する。


その時、魔力を流す量やタイミング、魔力を切るタイミングに判定があり、その全ての誤差が、±0.1以内で、クリティカル判定になる。


「楽学」世界で、冒険者ルートをクリアするのなら必須になってくる技術だ。


勿論、ゲーム内では俺も習得していた。


……だが、タイミングや量をわかっていても、魔力を操作する技術が拙ければ発動できるはずもなく。


目下、訓練中と言うわけだ。


身体強化と魔力操作の訓練を続けながら走り続け、1時間ほどした頃に、公園に入る。


媒体器に導体メモリーを装填し直し、今度は刀身を生成する。


刀身を生成することに限らず、何かの生成をする時にはイメージの強固さが重要になってくる。


これには、魔法の発動方法に理由がある。


この前も言った様に、導体メモリーは大別して4種。


発動する時の順番は、大抵が『属性』→『生成』→『操作』→『変化』の順になる。


そして、『属性』の一つ前、1番最初の手順に俺達プレイヤーから『設計』と呼ばれる工程が存在する。


『設計』は、これから発動する魔法の設計図であり、そこからあとの導体は全てこの設計図に書き足していくものだ。


そして、『設計』は、魔術師の実力が最も出る場所だと言われている。


例えば、家を作る時外装のみを決められていて内装や間取りなんかが一切決まっていない設計図と、間取りや内装に外装、どんな機能が欲しいかなんかを綿密に書き込んである設計図では、当然後者の方が作りやすい。


これは魔法にも言えることで、刀を作る時に、唯「刀」と思い浮かべるより「刀身二百三寸五分、重さ700gで反りの浅い打刀」と思い浮かべる方が、設計図の精度が高まりより少ない魔力労力で、より強靭な刀を生成できる。


だから、イメージを固めるために日頃から刀身を生成する魔術師は多い。


いざと言う時に、イメージが不明瞭になればそれだけで実力は半減してしまうからな。


こうした地道な鍛錬が、魔術師を救うのだ。


型をなぞり終えたら、また身体強化を発動して屋敷まで走る。


シャワーで汗を流し、スライムからの情報を確認。


『主、「オリヴィア」と「エリカ」が近くのダンジョンを攻略するらしい。』


『……マジで?』


1番会いたくないと言っても過言ではない奴らなんだけど……。


壱成殺害ランキングトップの2人だぞ?


……引きこもるか?いや、まだなんもしてないし、殺される可能性は低いはず。


それに、アイツらが行くはずのダンジョンに近づかなければ問題は無いか。


このダンジョン攻略は、階層でもあった。動きは知ってるし、ばったり会う、なんてことはないだろう。


そこまで気にしなくとも、問題はなさそうだな……


『ありがとう、助かった。優秀なスライムくんには追加で魔力をやろう。』


スライムに魔力を送る。


『それはありがたいが……』


歯切れが悪いな……


『どうかしたのか?』


考えても分からないのでスライムに聞いてみる。


『あぁ、いや、その……だな、』


いつものスライムらしくなく、吃りまくっている。俺が怖い系の美人クラスメイトに話しかけられた時よりも吃ってる。


……悲しくなるな。


『言いたいことがあるならはっきり言えよ?お前とは長い付き合いになるし、大抵の事は聞けるぞ?』


すると、スライムは何かを考えるように震え、こちらを見る。


『わ、私にだな、その……な、名前をくれないだろうか。その、いつまでもスライムと呼ばれるのは、少し、いや……だ。』


……名前、名前か。


こいつとは、多分結構長い付き合いになる。そうなると、名前が無いってのも不便か。


それに、人間の中にいて名前が無いってのも少し……可哀想だしな。


『そうだな。名前はあった方が便利だな。あんま自信ないんだが……』


『良い、どんな名前でもいいから、欲しいんだ。』


……そう真剣な目向けないてくんない?プレッシャー凄いんだけど。


考えつつ、スライムを観察してみる。


青色の体に、艶感のある肌質。滴型のフォルムでよくプルプル震えている。


……んー、じゃあ、


『……彩晴いろは、なんでどうだ?』


『おおっ!可愛いぞ!それが私の名前か。……うん、ありがとう。大事にするよ。』


……ここまで喜ばれると、少し照れるんだが、まぁ、いいか。


『じゃあ、これからもよろしくな。うちの情報関係は任せるぜ?』


『あぁ、あぁ!この彩晴に任せたまえ。私がいれば、万事上手くいくからな!』


そう言ってはね回る彩晴を見て、これからもこいつと一緒にやっていこうと、そう思えた。


……絶対言ってやらねぇけどな!いや恥ずかしいとかじゃないけど!恥ずかしいとかじゃないけど、絶対言ってやらないんだからね!


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