第6話 神童キャラは、心が折れガチ
スライムをテイムするため、やってきたのは最低ランクのダンジョン。
通称『駆け出しすらも近づかないダンジョン』
通称が全てを物語っているのだが、このダンジョン、只管に雑魚ばかり出てくる。というか雑魚しか出ない。
初期パラの主人公でもA連打で無傷で勝てる位の難易度。
こんなとこに来るのは、最後だろうし、目に焼き付けて置こう。
スライムさえテイムすれば用済みだしな。
よくある、弱いダンジョンの奥に、周回用の難易度ルナティックのダンジョンがある、なんてことも無く。ただの雑魚ダンジョンである。
「ただまぁ、スライムここにしかいねぇもんなぁあ……。」
そう、世界のスライムさんは、このダンジョンにしかいないのである。いないのである。大事な事だから2回言いました。いないのであ……え?もういい?そうですか( ´・ω・`)
「進化の方向さえ誘導出来れば便利なのに。弱いけど。」
スライムさんは、最も進化しやすい魔物として知られ、そして、進化しても強くならないことでもっとよく知られている。
ただ、強くならない代わりに厄介度は増す。毒を持ったり、麻痺させてきたり、透明になったり、固く速くなったり……。
進化先は豊富なのだ。だからこそ、俺はスライムさんをテイムしようとしている。
実際、スライムほど情報収集に適した魔物はいない。
そして、とある進化先では隠密生が抜群に上がり、隠れることに徹すれば、格上にさえその気配を悟らせない。
俺が狙っているのはこの進化だ。
この進化をさせることが出来たなら、俺の情報収集力は世界でもトップクラスに上がると言ってもいい。それほどまでに、こいつは便利なのだ。
まぁ……
「
あのイベントは、そう簡単に踏み入っていいもんじゃねぇからな……。
先程から言っている彼奴、『
しかし、彼が情報屋をやっている理由、そこには簡単には踏み入れない重たいストーリーが存在する。彼は、過去に起こった事件、それに巻き込まれた婚約者の治療のために金を集めている。
婚約者の名前は、『
朧は幼少期、神童と呼ばれていた。数百人に一人と言われている特異属性の適性を二つ持ち、能力値も大公爵家に迫るほどの高さを誇っていた。
周囲の大人は彼に期待を寄せ、彼自身もその期待に答えようと必死に己を鍛え上げていた。
そんな彼に思いを寄せる幼馴染。翠は、努力を重ねる彼を応援しつつも、いつも彼の体を気遣っていた。
その気遣いのおかげか、朧は翠に恋し、周りをそれを応援しこそすれ邪魔だてすることは無かった。
しかし、そんな神童に悲劇が訪れる。
世界の敵、巨悪の存在、『魔人』の復活を目論む魔人の眷属達が、翠を誘拐したのだ。
翠にも魔法の才はあったが、戦闘の経験も無い少女が魔人の眷属に敵うはずもなく、呆気なく連れ去られてしまう。
朧は、冷静ではなかったのだろう。最愛の人を連れ去られ、その命が脅かされているのだ。それも当然と言える。
翠の誘拐を耳にした朧は、街中を走り回り、遂に眷属達を発見した。
翠の安否を確認した朧は、眷属達に奇襲をしかけ翠を救おうと戦った。
しかし、いくら神童とはいえ、子供は子供。大の大人数人に敵うはずもなく、あっさりと切りふせられた。
この時点で、彼の心には大きな罅が入っていたのだろう。神童と持て囃され、努力を重ねてきた己があっさりと敗退したのだ。無理もない。彼のプライドはボロボロだった。
そんな彼の前で、眷属達は儀式の準備を進めていく。集めた生贄を、魔法陣の中心に集め、ひとりひとり切り刻んで言った。
当然、翠もそこに居り、彼の前で体中を切り刻まれた。
どれだけ叫んでも、止まらない。少しづつ流れる血の量は増え、徐々に顔色が悪くなっていく。
そんな彼女に、明確な死を見たのだろう。朧の心はポッキリと折れた。
幸い、戦闘音が聞こえていたらしく、すぐに大人が救出に来たので、朧も翠も死ぬことは無かった。
それでも、この事件が残した傷跡は深く。
かつて、大空を飛び回る翼を持った神童は地を這い、神童に恋した少女は、記憶を封印し、感情を表に出さなくなった。
それ以来、朧は剣を取ることはなくなり、自分の殻に引きこもった。
情報屋をしているのは、自分が戦うことなく、翠の治療費を稼げるからだろう。
そんな彼に逢いに行く覚悟を、俺は持っていない。
朧を救うルートはあるが、あれを俺は認めない。認めたくない。
あんな結末で、救ったなんて口が裂けても言えない。
翠の感情を、声を取り戻すことは彼を救うにはマストだろう。それは否定しない。
だけど、それで終わったら、翠を治すだけでは、朧の心は癒えはしない。
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