第5話 検証班の熱意は凄い(真顔)


身体強化ランニングの効果は、少しづつではあるが現れ始めていた。走っている俺は、身体強化込とはいえ、原付と併走できるぐらいには早くなった。


やったね、オリンピックのマラソン選手を余裕でぶち抜けるよ!


階段の手摺を飛び越えて、公園内に着地。俺のショートカットを見たお姉さんは、目を丸くして動きを止めて居た。


走りながら、今後の計画を練り始める。


壱成の能力値パラメータ自体は悪くない。寧ろ、良いと言ってもいい。


全世界からのヘイトを一身に受けるからか、体力はずば抜けて高いが、他の能力値も低いわけじゃねぇ。


これは、主人公とヒロインの6人を相手しなきゃならないからってメタ的な理由もあるが、大公爵家の血を継いでる事もでかいんだろう。


本番である、学園編が始まるまでにできるだけ上げておきたい。入ったら死亡フラグバンバン立つし……。


「能力値上げは継続するとして、情報は欲しいよな……。」


俺は原作をクリアしているから、学園に入ったあとのことは把握しているが、今の時期のことは回想シーンで流れた事しか分からない。


ここら辺で、後からピンチになるような何かがあったりしたら困るんだが……


「情報収集は人手がいるしなぁ。俺に部下なんか居ねぇし……。」


ネットで探るにもそっちの方向には詳しくない。


「取れる手はいくつかあるが……、原始的に行こうか。にはまだ会いたくねぇし。覚悟も決まってねぇ。」


情報収集の方法は決まった。後は……


「金……は廃嫡された後の方がいいな。下手に目をつけられても困る。」


壱成は邪魔だからこそ廃嫡されるのだ。何かしらで有用な存在にでもなれば、面倒なことになりそうだ。原作の流れをできるだけ守りたいしな……。


「やるとしても、刻魔導体マジックメモリーの収集ぐらいだな。導体メモリーは、迷宮潜らなきゃ行けねぇから目立ちはするが、あんま難易度が高ぇとこ行かなきゃ、問題はねぇだろ。」


粗方やることを決め、俺は屋敷に帰るため踵を返した。





ジャー


「……俺しか使わねぇのに、1ダースもシャワー要らねぇよ。」


使われることの無いシャワーの数々を見ながら着替えを済まし、飯を作る。


「おお、期待してなかったんだがある程度、材料は入ってんのな。」


冷蔵庫を開けてみると、東青家からのサービスか野菜や肉、果物などが入っていた。


「体作りも兼ねて、タンパク質多めにしとくか。」


ボディビルダー御用達のゆで卵にブロッコリー。ご飯を炊いて、鶏胸肉を焼き、トマトやレタスなんかを並べていく。


「食い終わったら、食器洗ってダンジョン行こうか。」


そう言って、飯を掻き込んでいく。





ダンジョン。迷宮とも呼ばれるそれは異界への扉にして、一攫千金を狙う冒険者達にとっての宝庫だ。


ダンジョンには、人類を脅かす魔物が住んでおり、こいつらには魔法以外の全ての攻撃が通用しない。


拳銃だろうが、ライフルだろうが、ミサイルだろうが魔力が籠ってなければ、魔物には効かない。効かないったら効かない。


そして、ダンジョンには核と呼ばれる、人間で言う心臓や脳のようなものが存在し、この核を破壊しない限り、ダンジョンは塞がらない。


だからこそ、主人公たちは、このダンジョンから溢れ出す魔物に対抗するために、魔法学園に通うのだ。


まぁ、ルートによっては「魔物?何それ美味しいの?」状態になったりするのでその目的は霞んでいくのだが……。


やったね、世界に魔物なんて存在しなかったんだ!





そんなわけで、来たぞっ、ダンジョン!


俺が、ダンジョンに来た理由は二つ。


「一つは、導体を入手するため。」


刻魔導体、導体は魔物を倒せば落とすドロップする。つまり、魔法を使うためには魔物を倒さなねばならない。


……という訳では無い。導体自体は、金を払えば買えるし、なんなら研究すれば新しい導体も作れる。


金もないし、導体もほとんど持っていない俺には意味が無いというだけで……。


それは置いておいて、ここに来た二つ目の理由は、情報収集の為だ。


もっと言えば、情報収集の準備のためにダンジョンに来る必要があった。


俺がしようとしているのは、無属性魔法の一つ【契約】を使ったテイムであり、『楽学』内で検証されていたことの一つだ。


『楽園×学園』エデン・スクール、『楽学』には、テイムや魔物の調教が存在しない。これは、説明書等にも書かれており、紛れもない事実だ。


しかし、どこの世界にも奇特な奴は居るもんで、検証班はが動き出した。どうにかして、魔物と友誼を結べないかと画策し、やがて一つの解に辿り着いた。


それが、無属性魔法【契約】を魔物に使用する。というものだった。


元々【契約】は、商売などで使用されていた、契約内容を必ず履行させるといったものなのだが、魔物に言葉が通じるはずもなく、失敗。


そして、再度検証班は考えた。【念話】があれば【契約】も成功するのでは?と。


無属性魔法【念話】は、心の中で会話出来るというものなのだが、これは、相手の思念を読み取り言語化するという手法が取られていたのだ。


そして、思念を読み取るなら、相手が人でなくとも問題ないのでは?という思いつきから発展して、検証。聞き取りづらくはあるが、魔物との意思の疎通が成功した。


そこからは早く、念話で交渉し契約を実行するとテイムができることを証明したのだ。


とまぁ、そんなことがあり、テイムができることが証明された訳だ。


そんで、俺はこれからある魔物をテイムするためにここに来たってことね。


で、そのテイムする魔物っていうのが、利便性で言えばトップクラス。戦力で言えば最弱の存在。群体型魔物レギオンモンスターの中で、唯一危険度が低く、冒険者に見つかっても旨みが少なく見逃されることが多い、あの魔物。


そう、世界の『スライム』さんだ。

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